05.

わらわらと人の声がする。


「ただいま…腹減った…」


最初に入ってきたのは、長身で髪がやや長めの黒金メッシュの男。


「おかえり。キッチンにいくらか作り置きしてあるから、適当に食べてー。Nightナイト瑠榎るかさん」


180cmはあるのではないだろうか。

練は高身長が醸し出す、独特の威圧感に少々怖気付きながら頭を下げる。


「…っは、初めまして…」

「…んー。新顔?…飯…」


瑠榎は練を一度だけ見ると、興味なさそうにキッチンへ向かってしまう。

数秒後、慌ただしく扉が開いて入ってきたのは三人。それぞれ負傷しているようだ。


「美月いるか!?あおいの怪我見てやってくれ…。俺らは後でいいから…!」


蒼と呼ばれた人物は、一番深手を負っていた。

美月が戒の横をすり抜け、蒼の傷の具合を確かめる。

戒も続いて、他のメンバーの手当てにあたる。


「そんな心配せんでも大丈夫やて…。つーか、美月さん戻ってるん珍しいなあ?」

「何言ってるの、蒼ちゃん!?あと一歩間違ってたら、死んじゃってかもし…」

家鴨アヒルうるさい、ちょっと黙ってて。あんたが騒ぐと、蒼が騒ぐのよ!」


家鴨もというれいを黙らせ、美月は特殊な治癒術で蒼の傷を治していく。


「今日はちょっと、こっちに色々報告しなきゃなんないこともあったのよ。

てか、あんたまた無茶したわね。私いなかったら、前線復帰すんのにどれだけかかってたと思ってんのよ」


そう言っている間にも、傷はどんどん小さくなっていく。そして、最後に残ったのは小さな傷痕。


「…いつもありがとうな?これでも気を付けてるんやけどな…。

…家鴨、お前はほんまうっさい…。俺の心配より、自分の心配せーや…そないなことより、美月さんだけやのうて祐も戻ってたんやな…珍しい…」


蒼は心底驚いたようだが、練の存在に気付くと納得したように頷く。


 黒髪に整った顔立ちなのが、あおい

そして、茶髪に少し長めの髪、切れ長の目元が特徴の家鴨顏が、うれい

もう一人は、背は低いが独特の存在感を放つ流綺るき

三人共、練に興味深々のようだ。

みんなの注目を一気に浴び、緊張しながら練は頭を下げる。


「…新顔よ。ちょっと訳あって引きずり込んだのよ…」


渋い顔をして、美月が説明する。

流綺が、美月をからかうようにクスリと笑う。


「美月がヘマとは…珍しいなぁ?」

「そうだねぇ…。でも、何で連れてきたの?その子、一般人だよねぇ?」


美月が流綺を睨みつけると、流綺は肩を竦めてみせる。憂は、練の加入に不思議そうだ。本来なら、練は殺されて当然。


「それは、この子の中にもう一つの…」


戒の説明を祐希が遮る。


「違う。俺が気付いたのは、蓮の能力じゃねーよ…”練”の方だ。

確かに蓮は、即戦力間違いねえけど、練の方にもセンスはあんだよ」


全員が祐希の方を見る。

『意味がわからない』と困惑している蒼たちに、戒が”蓮”のことを説明する。

しばらくみんな黙っていたが、不意に蒼がある疑問を投げかける。


「…話はまあ…突拍子もないことやけど、とりあえずわかった。せやけど、何で”練”の方にセンスがあるなんて分かったん?」

「祐が言うなら、間違いねーべ」


 蒼の問いに答えたのは祐希ではなく、白に近い金髪頭で何故か鼻に布を巻いている男。

その男の隣にいる、一瞬女性かと思わせるほど華奢でスタイルのいい、茶髪の男も頷く。


「祐は、そういうことに人より長けてるから」


 鼻布がこの集団のリーダーである、玲斗れいと

そしてその隣にいるのが、Nightナイトのリーダーである咲弥さくや

それに続いて現れたのは、Papillonパピヨンのリーダー明希あきとメンバーの仁兎にと

非番だったメンバーにも話が伝わったのかNightの咲弥や瑠榎を始め、残りのメンバーであるニーナ、ひつぎ夜満よみが揃ったところで玲斗が口を開く。


「全員揃ったみたいだな。

それじゃあ、祐とるったんは後で報告頼むべ。練は、Papillon所属に決まったから美月と仁兎、練の世話頼んだべ」

「……!?…はぁ!?何で…俺が、こんなガキのッ……!」

「戒は、練にここのこと色々教えてやってくれだべ」


 玲斗は仁兎の話を聞かず、用件だけ言うと奥へ戻ってしまう。


「…っぷ……頑張って、仁兎」

「…っ……てめえもだろ、美月!?」


「私はいいのよ。だって、いつも通りにしてればいいだけだもの」


仁兎が美月を睨み付けるが、美月は気にする風もなく涼し気な顔をしていた。

玲斗が奥に引っ込むと、祐希と流綺も報告のためか奥へと消える。


「少し落ち着いた?俺は咲弥。

改めてようこそ。ここはみんな腕の立つ人たちだけど、馬鹿が多いからあまり固くならなくていいよ」

「咲弥っ!馬鹿は酷くない?俺は、×××で×××なだ…」

「……そういうのをさ、馬鹿って言うんだよね」

「同感だな」

「…ニーナ、お前はヘタレだよな……」


夜満の下品な話を”いつものこと”だと、聞き流すNightのメンバー。


「…今ヘタレとか関係なくね!?つーか、俺のどこがヘタレだっていうんだよ!?」


ヒートアップする底辺な論争に、今まで黙っていた咲弥と戒が怒りを露わにする。


「馬鹿どもは黙ってろ…」

「血…見たいんですか?」


普段は優しくにこやかな、戒と咲弥。

この二人を怒らせてはいけないというのは、暗黙のルール。みんなが瞬時に黙る。


 しばしの沈黙の後、口を開いたのは練だった。


「……さっきの…祐希先輩の話は本当なのでしょうか?」

「…練くん、君に”人を殺すセンスがある”ってことかな?」

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