03.
side→練(?)
「……っ!?」
練の中で一眠りしていたら、何故か練と入れ替わっていて、何故か目の前には男の顔。鳥肌が全身に立った。
反射的に男を突き飛ばして、懐に仕込んでいる小太刀を『殺してやる』と言わんばかりに振りかざす。
「……っち」
振りかざされた刀が、祐希の身体を傷付けることはなかった。練(?)が、突き飛ばした相手が祐希だったことに気付いたからだ。
「…何すんだよ、祐希先輩。
俺も練もそういう趣味ないんで、やめてもらえます?ドン引くで、ほんと…」
容姿こそ練だが、瞳の色は普段の金色から濃い赤色に変わり、暗闇の中でその目の色は異様な存在感を放っていた。口調も普段の練と違って、大人びているようだ。
「とびっきりの刺激だっただろ?」
「…は?何言ってんの、アンタ」
「つーか、ほんとにもう一人いたんだな、びっくりしたわ。
そんで?練はお前のやってる事、どこまで知ってんだ?」
「…全部。俺と練は感覚を共有してるからな。ただ…練は”俺”という存在を、完全に認めるのを怖がってる」
「そうか…。お前、名前は?」
「…
(…そりゃまた…)
遠くで人の気配がする。そろそろ仕事の時間のようだ。
さてと、と祐希は立ち上がる。
「…蓮さんよぉ、今日こそは取らねえでくれよ。”奴”には、聞きたい事があんのよ」
「いいよ。あんたの実力見てみたいし…」
蓮を鼻で笑い、祐希は闇に消える。
「…ねえ練…、練は俺にいなくなってほしい?」
小さくポツリと、意識だけの練へ問う。その声は、僅かに震えていた。
『…ううん…、そんなわけ…。だって俺は…蓮がいなかったら、今頃死んでたから…』
しばらくするとあたりには、血の臭いが立ち込める。
何かが刺さるような、潰れるような音。
蓮はコンテナの上に軽々と飛び乗ると、惨状を見つめる。練が、意識から離れたのが分かった。
side→祐希
「誰に言われて来た?さっさと吐かねえと、死ぬぞ。お前」
「…!!?わ…分かったから……!命だけは…!」
命乞いする男に銃を向けながら、祐希は苛々したように言う。
「…早よせぇや」
「…
「…目的は何だ?」
「…知らねえよ…!俺は命令されただけで!だから…っ」
「そうか…残念だったな」
「…なっ!?まっ……」
男の言葉を聞かず、乾いた銃声が響く。
「…収穫なし…か…」
side→練
戦場の壮絶さに耐え切れず、意識を遮断していた練だったが、ふと自分の事が話題に上がっているのに気づき、事の成り行きを見守る。
蓮とは感覚を共有しているから、見たくなくても蓮を通して全部見えてしまう。それでも最近はようやく、視覚だけは遮断することができるようになったのだ。
(……どうして俺がターゲットに?蓮の腕をかって?)
そんな思案をしていると、返り血を浴びても顔色一つ変えない祐希が銃を構えて、こちらを見つめていた。
「最後のチャンスだ。生きるか、死ぬか、選んだか?」
あの時からそうだ…。どうしたって狙われる。
けれど、本能が『生きたい』と叫んでいるようだった。蓮がいることが何よりの証拠。なら、答えは一つ。
「…俺も蓮も、答えは決まってる。連れて行ってください、先輩たちのところへ」
side→
そうはっきり言うと、練はその場から倒れこむようにして落ちる。どうやら、相当の気を張っていたらしい。
代わりに現れた蓮に、祐希が練の様子を聞くとどうやら眠っているらしい。
「…練を守ってやってくれ」
「…今更だっつうの。つか、俺先輩よ?敬えよ、アホ」
「…アンタ、そういうこと気にする奴かよ…。違うだろ…」
「アイツと同じ顔して、俺に上からつーのが腹立つんだよ。
つか…そんな心配しなくても、練は強くなるさ。お前が一番分かってるんじゃねーの?」
蓮は苦笑して返す。
二人で港を抜けると、一台の車が目の前でとまった。
降りてきたのは、美月と一人の男。
「お疲れ、祐。その子が、例の子?」
組織のメンバーの一人である男の問いに、祐希は頷いて見せる。美月が何か言いたそうにしていたが、目だけで『後で説明する』と告げる。
車に乗ってからというもの、意識が”練”に戻ったのか、一言も話さなかった。
しばらく走り続け、車は細い路地を何本も抜けて、とある廃工場の前で停止した。人目につかぬ場所にある重い扉を潜ると、そこには地下へと続く階段。
長めの階段を降り切って、外と同じような重い扉を開けるとそこは、黒を基調とした広々とした部屋。
コンクリ打ちっぱなしの壁や床。部屋の中央にはふかふかの絨毯と、ゆったりとしたソファ。外からは想像できない程、中は広々としているようだ。
練は促されるまま、ソファに身を沈める。
「…俺は…、これからどうなるんです…?
いつも人を殺してるのは…、俺じゃなくて”蓮”だから……。でも、それは俺を守るためで……。俺はいつも見てるだけ…で…、何も出来なくて……」
自分自身を抱き締めながら、ポツリポツリと練は言葉を紡ぐ。
温かい飲み物が目の前に置かれた。
ココアのようだけれど少しトロッとした、ショコラショーと呼ばれるもの。顔を上げると、美月と祐希。それに先ほどの男の人と目が合う。
「大丈夫よ、心配ないわ。少なくとも、ここにいればそう簡単に死ぬようなことはない」
「…そうだね。でも…君がここにいることを決めた以上、僕らは君たちを知る必要がある。もう一人の君について、教えてくれないかな…?」
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