僕は異世界にバリアフリーのダンジョンを建設することに決めました

紅白たまご

プロローグ

・バリア‐フリー【barrier-free】

障害者や高齢者の生活に不便な障害を取り除こうという考え方。

道や床の段差をなくしたり、階段のかわりにゆるやかな坂道を作ったり、

電卓や電話のボタンなどに触ればわかる印をつけたりするのがその例。


・ダンジョン【dungeon】

1 地下牢ろう。土牢。

2 ロールプレーイングゲームなどの舞台となる、迷路に似た構造をもつ空間。

(出典 goo辞書)



「ダンジョンがバリアフリーなんてありえません! マスターはアホですか!

 ありえないったらありえません!!」


ピンク色のフワフワ髪をした少女が、

髪の色に負けじと顔色を真っ赤にして声を荒げている。


「大体、ダンジョンってのは危険が満載なのが当然なのです。

 足元に罠仕掛けないでいったいどこに仕掛けるって言うんですか!!」


少女の年齢は12・3歳くらい。身長は140センチくらい。ちょうど小学生を卒業しようとしている妹のような感じがする。


唇尖らせて、じたんだふんで、思いっきりにらみ付けてくるけど、怖くない。

かわいすぎる。


「マスターの居た世界では冒険なんて遊び感覚って聞いてます。

 でも、この世界では冒険は命がけなんです。い・の・ち・が・け!」


僕の顔に向かってかわいらしい指を突きつけてくる。

びしっ。本人はそう思ってるだろうけど、色白でほっそりとしたかわいらしい手だ。さらに身長が足りていないため迫力がない。かわいい。


「遊びじゃなくって神様からおおせつかった大切な仕事なんです。

 ダンジョンを作る、冒険者がくる、魔物を倒す。

 そうしてようやく迷える魂が救われるんです!」


彼女の服は全体が白色をしている。

それとは対照的に、背中には傘の骨に皮が張られたような小さくて黒色の羽がついている。まるでコウモリの羽のようだ。


その羽が、持ち主の興奮を表すように

ふぁっさふぁっさとせわしなく羽ばたかれている。


「聞いているんですか! わかってるなら何か返事してくださいよぅ!」


余りの可愛らしさについ返事を忘れていると、

さらにお怒り度合いを増した少女が不安そうな顔を見せたので、僕も反応を返す。


「うん、わかってるよ、エル。

 このダンジョンが魂の浄化装置だって。

 そして攻略されたら僕が死ぬことも承知済みだ」


「・・・本当にわかってますか? 冗談じゃないんですよ?

 その時点でマスターの命は終わりなんですよね?

 命かかってるのに、攻略されやすくするなんてありえないじゃないですか」


ううん、それこそ僕の狙いなんだよ。


「でもね、人が来る方が良いんだよね?

 多くの人に来てもらって、多くの魔物を倒してもらって、そして魂を救っていく。

 そうすることで、救われぬ魂が集まりに集まって魔王になることを防ぐ、と」


少女 ~エル~ の目線に困惑が混ざるのがよく見える。

同じくらいの目線だからよく見えるんだ。


「だから多くの人が簡単に訪れられるようにしたいのさ。

 ほら、バリアフリーなら子供からお年寄りまで全年齢対応で楽しめる

 アドベンチャーにだってできるかもしれない、でしょ?」


「理屈はわかりますけどぉ・・・そうすると、マスターが死ぬ確率高まりますよ? 

 そこまでしてバリアフリーにしたいのは」


エルが、今も乗っている僕の愛車、つまり「車いす」を指差してから、


「実は、マスターがダンジョン攻略を楽しみたいだけなんじゃないですか?」


と、僕にとっては痛い点を正確についてきた。

僕は苦笑半分で、正直に告白する。


「実は、そうなんだ」


「・・・マスターはダンジョンを作る側であって、攻略する側ではないんですけど」


エルのジト目をよそに、僕は、自分が乗った"車椅子"を軽く反転させた。


そして、軽くブイサイン。


「大丈夫。僕には自信があるんだ。

 足元のトラップなし、段差なし、手すりあり、要所には点字ブロックも追加する」


言いながら、車椅子の前輪を上げてウィリーで格好をつけて、


「それでいて、誰にも攻略不可能で、誰もが楽しめる。

 そんな夢のようなダンジョンを、君と、

 僕を雇ってくれた神様にお見せいたしますよ」


と笑ってみせた。

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