友達を噛んだ

この話は、どのタイミングで、どのように書くべきなのかが、悩ましい。


息子は噛み癖があり、何度か保育園の友達を噛んだことがある。児童館で自分よりも小さな子とオモチャを取り合って噛んだこともある。


僕も何度か噛まれたことがある。


友達を噛むというのは、別にダウン症に限ったことではなく、やる子はやる。やらない子はやらない。ただ、ダウン症の子供は喋るのが苦手である。周囲の子供が喋って意思疎通できるようになってきた頃に、まだ息子は喋れず言葉での主張ができなくて、噛んでしまうことがある。ダウン症の子供はおっとりしていておだやかだと言われることが多いが、そんなことはない。子供ごとの性格で全然違う。うちの息子は気が強く、我も強い。


保育園の場合、基本的には監督責任があるので、見ていなかった保育園側に責任がある。とはいえ、親は何しているんだってことにはなるし、直接謝罪した方がよいシチュエーションもあるので、直接謝罪したこともある。妻が対応したことが多かったが、僕が同席したこともある。

一度園が間に入っての話し合いになった時に、どうにも司会役であるはずの園長先生がのらりくらりの物言いでこの人何をしたいのか分からんと思って、実際的な話を直接相手の親御さんとしたような記憶がある。


その後も、何度も友達を噛むことがあった(おそらく親に報告されていないところでもあったと思う)が、よく見ていると3歳児くらいだと、わりと他の子供も喧嘩になって噛んだりしていたので、保育園としてもよほどの怪我にならない限りは子供同士の喧嘩の一部として仲裁と指導をしていたのだと思う。

ところがこれが4歳児クラスになってくると、やはり周囲の子供は言葉でやりとり、もしくは口喧嘩ができるようになってくるので、他の子が噛みつくのは減っていったように見えた。

息子は相変わらず、カッとなると噛むことがあった。衝動的で言葉で表現できない時に、止められないのだった。


5歳児にクラスになると、さすがに他の子供との差が目に余るようになってくる。

加えて、以前から走りながらそこらにあるものを手でひっかけて落としたりといった、衝動的な行動が目につく部分があった。妻がADHDではないかと心配し、子供の発達を見てくれるクリニックが新しくできたことをSTの先生から聞いて受診してみたところろ、ADHDの疑いが高いとのこと。先生が言うに、何はともあれ多害はよろしくない、と。それはそうだ。


それやこれやでADHD向けの薬を飲むことになった。

シロップだが味にくせがあるので、さらにオリゴ糖シロップを足して水で薄めて飲ませている。素直に飲んでいる。


飲み始めて一週間二週間くらいで、落ち着いたかな?そうでもないかな?という感じだったが、一カ月くらいしたあたりで、保育園の先生やSTの先生から以前より落ち着いたように見えると言われた。担当医からも、投薬前より落ち着いているように見えると言われた。徐々に増量し、現在max量を続けている。

副作用といえば、便秘ぎみになったことと、朝起きるのは早くなったことがある。6時くらいには起きてしまい、ひとりでテレビを見ている。ひとりに飽きて親を起こしたりもするのは勘弁して欲しいが。


薬を飲み始めてから、かっとなって噛んだりすることはなくなったようだ。一度噛んだことがあったのだが、相手の子が言うには正面からぶつかった時の事故みたいなものらしいのだが、どこまで本当なのかは分からない。ただ、以前よりは確実に落ち着いたようだ。

しかし衝動性が皆無になったというと、走りながらそこらのものに手を引っ掛けて落としたりするのは相変わらずだし、器用になった分いたずらも増えている。

楽観はできないが、少しだけ気は楽になった。


さて、元の話題であった他害について話を戻そう。


子供同士なんだから、いさかいを起こすこともあるだろう。幼ければ噛みつくこともあるかもしれない。小学生だって殴り合いの喧嘩をするかもしれない。


しかし僕は考えてしまう。

「障害がある子供だから噛んだ」と思われやしないだろうか。

「障害がある子供はみんな友達を噛むような子供なんだ」と思われやしないだろうか。


前者については、ある面では事実である。障害のせいで言葉が遅く、言葉でのコミュニケーションに不自由があるために噛んでしまった。

ただ、ダウン症の多くはおっとりとしている子で、息子の場合は生来の我の強さと、ADHDによる衝動性が原因ということもあり、個人の特性である。その部分は、おそらく障害は関係ない(いや、ADHDは関係あるのだが)。

色々な要因が絡み合っていて、何が原因かと明確にできないし、何が悪いのかも、いやそもそも悪いとか悪くないとかいう問題なのかどうなのか?うーん、ということになり、とても悩む。


ただ、個別の他害の事案に対する「ごめんなさい」は、決して「こんな子でごめんなさい」ではないよな、そこは切り離さないとな、とは思う。


収集がつかなくなってきた。この話題の難しいのはこういうところである。


結局、その時その時の各論に対して対応していくしかないのだ。

障害があるからどうのと一括りにするのが間違っている。

そして、その時その時の各論に対して対応するしかないというのは、育児全般に言えることで、結局普通の育児と同じカテゴリの悩みなのよねというところに着地せざるをえない。というか、その着地が無難かつ適切だ。

多分、そうなのだ。

分かっているんだけどね……。










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