第6章 1

それ禍と福、何ぞ糾える縄に異ならん。東の国には、かのような言葉があると聞く。幸福と不幸は撚り糸のごとく交互にやってくる、の謂だそうである。


誰がこの言葉を世に送り出したのか知らないが、その愛すべき者は、苦労の多い人生を送ったに相違ない。


そも、不幸というものは五回に一回あれば十分用を成すのであって、四回に一回の頻度で出現するのならばよほど運が悪い。三回に一回ならある意味運がいいのかも知れず、それが二回に一回の確率ともなれば、もはや運不運の類を超越しており、まず神様に嫌われていると思って間違いない。たとえば、今のグリーシャはその典型だろう。


いったい何事こそが、彼をして不幸の底を見せしめる残酷をしたのか? 結果を叙するだけならとても簡単であるが、物事を正しく伝えるためには、何よりも順序を追わなければならない。過程を経ずに答えそれのみを知ったところで、真の理解には少しも繋がらないどころか、かえって径庭が生ずるのである。


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