第5章 1
メッケルニヒはベルン北部に位置する小さな町である。人口は千二百人、主産業は牧畜、ついで農耕。これといった観光資源もなく、主要幹線道路からも離れているため、ベルン国民ですら、大抵は名前も知らない。グリーシャにとっても本来ならば一生縁のない場所だった。それが何の因果か、こうして町の入り口に立っている。
「ここがメッテルニヒ? 辺鄙な所ね」
第一声がそれでは久しぶりに接した文明の香りも饐えてしまうというものだが、実際ミミの言う通りであった。入口らしい入り口もなく、傾いた標識に「メッテルニヒ」という掠れた文字が書き入れてあるだけ。田畑や牧草地の間にぽつんぽつんと立っている家はあまりに密度が低い。一帯に人影はなく、羊が我が物顔でのっそりと草を食んでいる。有体に云って、田舎だ。
「で、どうするんだったかしら?」
だだっぴろい景色を眺めながら、肩をすくめて訊くミミ。
「食糧その他の確保。あとは宿だな。こう続けて野宿は辛い」
「同感。ま、こんな町でも毛布一つよりはマシね」
そういって歩き出すミミ。心なしか歩調が早い。なんのかんので、屋根のある寝床が恋しいのだろう。グリーシャは苦笑しながら彼女の後ろについていく。
「町の人はいるかな? 土地勘のない所を無計画に歩いたんじゃ効率が悪いし、道案内でもしてくれたらありがたいんだが」
「慎重にね。トラキアとルーシの軍人だってばれたら面倒よ」
「その点はぬかりないさ。ちゃんと言い訳も考えといた」
「へぇ、野蛮人にしては準備が良いじゃない。どんな言い訳なのかしら」
「良く聞けよ。俺たちはベルンの地方都市からやってきた学生の旅行者だ。丁度秋休みで暇が出来たので、ベルン各地を旅している。この町へは食料品や旅に必要な物資を調達するために立ち寄った。急ぐ旅でもないので、ついでにこの小さな町で一泊していこうかと思っている。丁度上手い具合に人がいたので、話を聞こうと声をかけた――どうだ、完璧だろう。ちなみにベルンは知っての通り多民族国家だから、ルーシ系とトラキア系が一緒に居てもそれほど怪しまれはしないだろ」
「良いと思うけど……ねえ、私たちは学生で、その、『友人』なのよね?」
「そうなるな。それとも正直に『中立国に墜落したのでとりあえず国境まで一緒に逃げようとしているのです』とでも言うか?」
「違う、そうじゃなくて……いい。なんでもないわ」
からかい半分で問うたグリーシャに、ミミはちょっと怒ったように答える。はて、特におかしなことを言ったつもりはないが。
「ほら、いたわよ」
グリーシャが疑問を呈する前に、ミミが道の先を指し示す。見ると、ルーシ系の老人が小道をこちらに向かって歩いてきていた。傍らには茶色い毛並みの雑種犬。散歩中のようだ。むこうもこちらに気付いたらしく、笑みを浮かべている。
「よし、さっきの設定どおりで行くぞ――こんにちは」
とりあえず挨拶。ミミも会釈する。老人は一人と一匹の散歩に退屈していたようで、暇を持て余している連中に特有の人懐っこい態度を示す。特に怪しむ事もなくグリーシャ達の前に立つと、嬉しそうに口を開いた。
「やあ、こんにちは。ここらじゃみない顔だね」
「僕たち旅行をしているんです。なあミミ」
「ええ。秋休みで暇が出来たので、ベルンを回ってみようと」
「ほう、旅行! こんな辺鄙な所に旅行とは、面白い人たちだねぇ。学生さんかいな」
そういう老人の表情には、話し相手を見つけた喜び以外、取り立てて感情が浮かんでいるようには見えなかった。上々の滑り出しだ。
「この町は幹線道路からもすっかり離れていてね、若い旅行者なんてここ数年見ていないんだ。そうかそうか、よく来てくれた」
「どうも。景色がきれいで、良いところですね」
「だろう、だろう。何にもないが、良い町だよ! 空気はおいしいし、食べ物も美味い。君たちは運がいいよ、まったく」
「そう思います」
「ああそうだ、これ食べるかい。この町の牛の乳で作ったチーズだ。向かいのカーチャ婆さんから貰ったんだがね、美味いぞ」
「あ、どうも。あの、それでですね」
「ついでにこれもやろう。マーマレードだ。あとバター、ビスケット、キャンディもある。丁度良かったな、知り合いの家に寄ったばっかりだから色々あるぞ!」
「ああ、どうも……」
老人はこの町に旅行に来たというのがよほど嬉しいらしく、手提げ袋から沢山の物を出しては二人に手渡し、その合間にも機関銃のように話を進める。このままだと市に寄るまでもなく必要な食料が揃ってしまいそうだ。
「グリーシャ、本題に入りなさいよ」
「仕方ないだろ、割り込む隙がないんだよ」
「まあ、そうだけれど」
「ほら、お前もこれ持て。俺一人じゃ支え切れん」
「凄い量ね。ところでそろそろおじいさんの話の筋がわからなくなってきたのだけれど、大丈夫かしら」
「いや、たぶん最初から筋なんてない」
「ねえ、いったん退散して別の人を探したほうが良いんじゃないの?」
「同感」
「――で、やっぱりそういうことなのかい?」
老人がそう割り込み、二人の話が中断される。ひそひそと相談をしているあいだに、何かグリーシャに問いかけをしていたらしい。
「なあ、そうなんだろう?」
重ねて同意を求める老人。右から左に訊き流していたグリーシャはとりあえず「え、ああ、その通りです」と頷いた。老人はその返答を聞いて満足げに頷き、二人を交互に見つめ、ニヤリという形容がぴったりの笑みを浮かべる。
「やっぱりなぁ。いやいや、大層なべっぴんさんを捕まえて、羨ましいもんだ。あんた相当の女たらしだな、ええ?」
「ええ、その通り……ぅえ?」
「照れるな照れるな。いまどきの学生さんだ、連れ合いの一人や二人、いないほうがおかしい。堂々としていなさい」
どうやらこの老人は二人の関係を勘違いしているらしい。突然の展開にグリーシャは慌てて否定のジェスチャーをするが、老人は一言、
「ははは、今更隠しても遅い。わしはしっかり覚えているぞ、あんた今さっき『その通り』って言っただろう!」
と一蹴する。なんてことだ、生返事のせいで誤解が真実になってしまっていた。
「うん、君たちの付き合いは長いのかい? もう行くところまで行ったのかな?」
老人はすっかり二人が恋人という前提で話を進めており、いまさら否定もできそうにない。小っ恥ずかしいが、話を合わせるしかないようだ。
「や、やだなぁ。そんなこと聞かないでくださいよ」
「ははは、気持ちはわかるよ、わしも家内と出会ったばっかりの時はそりゃもう嬉し恥ずかしじゃった。だが少年、いつまでもそんなことじゃあいかん。男は堂々としてないと、女は直ぐに愛想つかしちまう。ほら、今も。お前さんが煮えたぎらないから、彼女が臍を曲げているぞ?」
言われて隣を見ると、ミミが肩をぷるぷると震わせていた。前髪が垂れているせいで表情は見えない。見たくもない。状況を致命的に取り違えている老人はグリーシャの耳もとに口を寄せ、「こういうときは一言『愛している』でいいのさ」と訳のわからない助言をしてくれる。
「――ちょーっといいかしら、私の愛しい人?」
愛しい人に向けられたとは到底思えない声音で服の裾をぐいとひっぱられ、しかたなしに彼女の身長にあわせてかがみこむ。老人は「お熱い事で」と生温かい視線を送っていた。
「な、なんだい子猫ちゃん」
せめて上っ面だけでも恋人らしく見えるように答える。空々しい事この上ない。
「なんだ、じゃないわよ! 野蛮人の連れ合いを持った覚えはないわ!」
老人に聞こえないよう小声だが、語気は強い。グリーシャも同じく小声で返す。
「仕方ないだろ、話を合わせないと」
「仕方なくない! 否定しなさい、この馬鹿! ああもう、だからさっき確認したのに! 私たちは友人! それ以上でも以下でもないの!」
「落ちつけ、とにかく今だけ我慢しろ。町を出るまでで良いから」
「でも……!」
グリーシャ達が押し問答をしていると、それをどう受け取ったのか、老人が訳知り顔で頷く。
「仲の良い事で、羨ましいねぇ。今のうちに楽しむことだ。愛しいなんて言ってくれるのは最初のうちだけ、三年も経てばお荷物扱い。町一番と評判だった家内の美貌も、今じゃ年増の婆さんだ」
「わ、私は別にふごっ」
「はは、御忠告どうも。でも僕らは大丈夫ですよ、なあミミ?」
「ふぐーっ!」
口を開かせまいと手でふさぐ。老人は目を細めて笑った。
「良いね、素晴らしい。未来ある若者たちを見るのは私みたいな年寄りの一番の楽しみだ。とくに君たちみたいな――」
そこで老人は言葉を切ると、二人をじっと見つめた。
「――ルーシ系とトラキア系の若者が手を取り合っているのなら、なおさら素晴らしい」
ふと、手のひらでうごめいていたミミの唇が止まった。老人は深く考えて言った訳でもないらしく、すぐに話題が進む。
「最近は戦争なんぞのせいでトラキア系もルーシ系もいがみ合っておる。おかげで辟易しておるが、あんたらみたいな若者がいればベルンの未来は明るいぞい」
そう言ってグリーシャとミミの肩をバンバンと叩く。その痛みが効いたのか、ミミが再び暴れ始めた。いかん、このままでは爆発しかねない。グリーシャは慌てて老人の話を打ち切り、さっさと本題を片付けるべく、まとめに入る。
「あの、それでですね。ここらで買い物を済ませようと思っているのですが、どこかに物が揃えられる場所はありませんかね」
「ああ、それなら道を真っすぐ行けば、市場が丁度盛りの時間だよ。こんな町だが、品ぞろえはそれなりだ。周りには宿も何件かある」
「御親切にどうも。それでは」
名残惜しそうに手を振る老人が見えなくなったのを確認し、グリーシャはミミから手を離す。途端、彼女は自由になった口を大きく開いた。
「最悪、最悪、最っ悪!」
「馬鹿、声が大きい!」
「うるさい! 黙れ! ああもう本当に最悪! 一生の恥よ。野蛮人とこ、こ、恋人だなんて」
「俺だって恥ずかしいわ。ただ実際の話、恋人か夫婦って肩書が一番通りが良いだろ」
納得できない様子のミミだが、暫くはこの設定でいくしかないだろう。グリーシャとて女性と手をつないだ事すら碌に無いのだから、戸惑いは相当なものなのだ。
もっとも、ミミの不機嫌の理由はグリーシャとは別の所にあるようだが。
「いい、私はトラキア人、貴方はルーシ人! 男女の仲になるなんてありえないの!」
グリーシャにピシリと指を突きつける。相変わらずと言えば相変わらずのミミだが、その顔には単純な嫌悪感とは別の何かが宿っている気がした。流暢なルーシ語とは裏腹の「野蛮人」への反発。それが敵意でないとしたら、いったいなんなのだろう。気にはなるが、問いただすほどの勇気をグリーシャ持ち合わせていない。
「ルーシやトラキアならその通りだけど。国が変わればこんなもんじゃないか。みんなそれほど深く考えてないって」
気なしに述べた一言。ミミは肩をすくめる。
「あっきれた。国が変わったって、トラキアはトラキア、野蛮……ルーシはルーシじゃない。血統は保つべきよ。それとも、ルーシ人はみんなそうなのかしら」
「そうって?」
「そんな簡単に割りきる単純馬鹿ばっかりなのか、って話」
「そういうトラキア人は、みんなお前みたいに口が悪いのか」
「口の悪さは生まれつきよ」
「自覚はしてるんだな」
「うるいわね。グリーシャみたいなのがいなければ淑女で通っているんだから」
「淑女のミミ? 想像できないな」
「うるさい、もう……いい? もう一度確認しておくけど、貴方と私は『知り合い』なの、断じて好きあったりはしてないし、なるわけがないの。わかった?」
「はいはい、わかった、わかりました」
「はいは一回!」
「ミミは初等学校の先生みたいだな」
「そういうグリーシャは保育園児ね――わあ」
「ん?」
会話の中に突然ありきたりな感嘆詞が挟まり、グリーシャが首をかしげる。ミミはそんな彼の服の袖をひっぱり、進行方向を指差した。
「ねえ見て。凄い賑やかよ」
「賑やか? この町には一番似つかわしくない単語……」
そう言いながら、グリーシャは視線を遠くに投げ、
「わあ」
ありきたりな感嘆詞を洩らした。
無理もない。老人は市場を表して「それなり」と言っていたが、これは「それなり」どころか「結構な」、いや「素晴らしい」でも差支えないだろう。
そこは町の中心らしい広場だった。土地が有り余っているのでとりあえず作ってみたという感じに大きな面積を誇っているが、今は軒を連ねた露店と人の波で足の踏み場もない。あちこちで人と物が行きかい、そこかしこで値段の交渉が行われ、喧噪が耳に響いてくる。
「どこにこんな人がいたのかしら」
ミミの疑問はまったくである。この町ひとつではとても抱えきれないほどの人、人、人。メッテルニヒだけでなく周辺の町からも人がやってきているのだろう。ここら一帯はルーシ系が多いと聞くが、トラキア系もちらほらと見受けられる。
これだけ需要があれば供給側も多彩で、生鮮食品以外にも缶詰だったり、日用品だったり、得体のしれない雑貨を扱っていたり。中には家畜をそのまま持ち込んでいる店もある。
「これなら必要なもんは一通り揃えられそうだ。まずは……っておい、引っ張るなよ」
「ねぇねぇこれ見て、変な置物」
「そういうのは後だ、とにかく」
「あ、こっちも凄い。ガラス細工ね」
「いやだから」
「わぁ、あれ美味しそう」
「おい」
「不思議な色の果物! 食べられるのかしら」
「待てこら」
すばしっこいミミの手をほどき、肩を掴む。
「きゃっ……なによ」
「あのな、俺たちは旅に必要な物を買いに来てるんだよ。怪しい小物にはしゃいでどうする」
「無粋ね。いいじゃない、時間はたっぷりあるんだから、少しくらい楽しみましょうよ。あ、ほらあっち、人が集まってるわ」
「あ、待てって!」
グリーシャの制止も聞かず、人だかりができている一角へ。グリーシャは慌てて追いかけ、ミミに続いて人の波へと飛び込む。
「いい加減にしろよ、ミミ」
「グリーシャ、見てこれ。ネズミが縄跳びしてるわよ」
「だからいい加減に……って、ネズミ?」
ミミの視線を追うと、確かに黒いネズミが一匹、大道芸人の合図に合わせて小さな舞台の上で縄跳びをしている。器用なもので、ぴょこりぴょこりと危なげない。
「逆立ちも出来るんだって」
「まさか。ネズミだぞ?」
「嘘じゃないわよ。自転車にも乗れるんだって。ほら」
「おお、これは……」
次々に芸を披露する黒ネズミに、グリーシャも思わず拍手を送ってしまう。
「あ、踊り始めたわ」
「すごいな、達者なもんだ」
「もう一匹出てきた。今度は白い」
「ドレスを着てるぞ。こっちは雌みたいだな」
「じゃあ黒い方は雄ね」
「お、黒が白に近寄ったぞ」
「口説いているみたい」
「あ、ビンタされた」
「当たり前よ、あんな強引な口説き方じゃお里が知れるわ」
「でも挫けてないぞ」
「評価の分かれる所ね。でも諦めない男は嫌いじゃないわ」
「おお、雌もまんざらじゃないみたいだ」
「頑張りなさい。技術の無さは根気でカバーよ」
「おお、花束!」
「やるじゃない!」
「頑張れ黒! もう白は半落ちだ……っは!?」
気がつくと、すっかりミミのペースに踊らされていた。いかんいかん、ネズミの寸劇の行く末も気になるが、まずはやるべき事をやらないと。グリーシャはミミをこの場から引き離そうと手を伸ばす。だが。
「わあ、わあ、わあ! キスしたわよ、ほら!」
傍らでぴょんぴょん飛び跳ね、楽しそうにグリーシャの服の裾をひっぱるミミを見ると、その楽しみを阻害することはなかなか出来難い。
(――ま、いいか)
グリーシャは苦笑いを浮かべ、終局へと向かうネズミたちの物語へ意識を向けた。ミミの言う通り、時間はたっぷりあるのだ。これ位の道草は良いだろう。
寸劇は続く。グリーシャの隣で、ミミが楽しげに体を揺らすたび、彼女の肩がグリーシャの腕を柔らかくなでて、少しこそばゆい。夢中でネズミたちのカップルを応援しているミミの姿に、まだ『マリア様』だったころの警戒心や敵意は潜んでおらず、無邪気な一人の少女がいるだけだ。
舞台の上に茶色いネズミが登場し、二匹の仲を引き裂こうと二人に立ちはだかっていた。黒いネズミが白いネズミの前に立ちはだかり、茶色のネズミに立ち向かう。
「負けるなー! ほら、貴方も応援して頂戴!」
背中を押すミミの手の感触が、心地良い。
「よっしゃ、頑張れ!」
「がんばれー!」
他の見物客とともに、応援の野次を飛ばす。それに答えるよう、黒いネズミが茶色いネズミに飛びかかり、すったもんだの末に組み伏せた。
やった、やったとあたりから歓声が上がる。寸劇は二人が結ばれて終わった。ネズミたちは教会で式を挙げ、観客に祝福されながら舞台袖へと戻っていく。
良い話だ。グリーシャは素直にそう思った。 隣のミミも同じ感想なのは、興奮気味に拍手をしている様子からわかる。
「ねぇグリーシャ、こういう素晴らしい出し物には対価が必要だと思わない?」
言われなくとも、とグリーシャがバッグから硬貨を握り、ミミにも一枚渡す。二人は称賛の言葉とともに、それを舞台の傍らへと放り投げた。
大道芸人が一礼をしてその場を離れると、見物客たちも思い思いの方向へ散っていく。ミミはニコニコしながらそれを眺めていた。
「面白かった。やっぱり物語は幸せに終わらないと」
「俺もそう思うよ。さて、それじゃあいよいよ買い出し」
「ねぇねぇ、今度はあっちに行きましょうよ!」
ミミはグリーシャの言葉を遮るように腕をひっ掴むと、有無を言わせず歩き出した。
「うわぁ、ちょっ、まてっ、転ぶ!」
「ほら、急いで! あそこに面白そうな雑貨があるの!」
グリーシャの足がもつれるのにも構わず、ずんずんと人ごみの中を突き進む。足取りは軽く、すっかり観光気分だ。仕方ない、もう少し息抜きの時間を延長しよう。
それにしても、数日前と比べての彼女の豹変ぶりは、旅行記に出てくるカメレオンのように鮮やかだ。女性がしばしば用いる擬態の妙技は噂に聞いていたが、それを目の当たりにして、暖かい笑みがこぼれるのを抑えられないグリーシャであった。
「なによ、どうしたの?」
ミミは小走りのまま、楽しそうに尋ねた。グリーシャはおどけた仕草で両の手を頭上に持ち上げ、ニヤリと口の端を持ち上げる。
「『マリア様』がこんなに子供っぽい奴だとは、数日前は思いもしなかったってさ!」
それを聞いたミミが慌てて歩調が緩め、ますますグリーシャを楽しがらせるのだった。
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