The Fifth. 無限と無限。
今度は、トンビが鳴くのを待たずに、私から仕掛ける。本気の一歩。本気の一撃。空気の壁を感じるほどに加速し、魔王の眼前に聖剣を叩きつける。しかし、至極残念ながら、聖剣があと少しで刺さるというところで、魔王が魔剣で聖剣を絡み取るように右から左へ流した。
そのままの勢いを殺しきれずに壁に突っ込んでいく。急ブレーキを掛ける。一瞬の衝撃。壁が崩れ、辺りに砂埃が立ち込める。
良かった。なんとか止まれたらしい。
そんな安堵をしていると、嫌な感触が背中を走る。咄嗟に、ジャンプする。そこに突き刺さるのは魔王から放たれた魔法。レーザーのような魔法が私の靴底を削る。さらに三発の発射を感じ、空中に居たまま体の向きを無理やり変え、左に向きに捻って一回転する。
真下を0°として、左に30°。 15°の辺りの、足と足の間を魔法が過ぎ去った。
180°。上を向いた目の前を魔法が過ぎ去っていく。胸の鎧が少し削られる。
270°。右脇を魔法が通り、後ろの壁を壊す。
360°できっかり着地、綺麗に避け切ったあと、さらなる魔王の追撃。
右足への一撃を、左に少し飛ぶことで避け、左足の着地を狙ってきた一撃を無理矢理着地を速めジャンプし、その勢いのまま胸の辺りを狙ってきた一撃を股下へと通し、さらに頭を狙ってきた一撃は回転を利用して、一回転しつつ、聖剣に力を込め、斬撃し、斬る。
神の祝福とはすなわち光、光とはすなわち力。聖剣の間合いなんて関係なく、聖剣から伸びた光の剣が砂埃と魔王の魔法と城を切り裂く。
爆風が吹き荒れ、城の1/3が崩れる。斜めに切られた断面からずるずると落ちていく。断面は溶けた金属の様にどろどろとしていて、ゆっくりと、下へ落ちていく。
砂埃の舞う中、刺突が繰り出される気配を感じて咄嗟に聖剣をかまえる。連続で突きが放たれるのを剣の柄で逸らし、顔を捻って避ける。
「なぁ!」
「何?」
そう返して魔王の剣を弾き、カウンターに蹴りを入れる。が、それは軽く避けられ距離を取られる。
「知恵の実を食べたとされる人間と、生命の実を食べたとされる魔族。」
そういって魔王の姿がブレる。反射的に後ろに剣を回したが、違った。声がしたのは上からだった。
「そして無限の命をもつ君と、知恵を持つ僕。」
声がした瞬間にその場から飛びのいたが、右足が切られた。吹っ飛んでいく足と、吹き出る血液が妙に面白く、むず痒く思えて、気味が悪いのに慣れてしまったのはいつ頃だったろうか。
「魔族の王が僕で、人族の英雄が君。」
残った左足で跳躍し、数十メートルの高さへ魔王の突進を避ける。遥か下に屋上が見えて、魔王が壁に追突し、煙が上がってるのが見えた。
「僕たちは化け物だ。さっきの斬撃で顔が半分ぐらい消し飛んだけど元に戻った。」
そう声が聞こえたのは後ろから。頂点までいって、自由落下が始まる。
「だけど、神話的には僕たちは神だ。知恵も無限の生命も、持ってる。化け物であり、神でもあるんだ。」
後ろから踵落としをされる。地面が急激に近づき、顔が床を砕きながら私は一階へと落ちる。すぐに魔王も降りてきて、続けた。
「初めてだよ。僕についてこれた奴は。いつだって、僕は勝った。僕に勝てる奴なんて居なかった。僕に追いつくなんて、追いつこうなんて思う奴も居なかった。僕に見合う奴は居なかった。」
理解者なんて居なかった。理解されなかった。理解されようとも思わなかった。孤独で、孤高で、なにより、寂しくて。
だけど。
「知ったこっちゃねぇわ。魔王。さっさと死ね。」
もし、私達が違う場所で会っていれば。もし、私達が違う所で会って居れば。こんな事にはならなかったかもしれない。こんな物語にはならなかったかもしれない。だけど仕方ない。敵として会ってしまったのだから。
聖剣を掲げ、一気に光を解放する。極太のレーザーとなったそれは、魔王へと向い、そして建物を破壊する。
建物が崩れる音が鳴り響く。天井が崩れかつての尊大だった城はもうない。風が吹いて、砂埃が晴れ、辺りが見える。そこに立っていたのは、無傷の魔王。右手に魔剣を持って、俯いて立っている。風が吹いて、魔王の着ている服が揺れる。髪が揺れる。城が崩れる。燦々と輝いていた太陽が再び雲に隠れる。そして。
「僕は絶対だ。僕は神だ。僕は最強だ。だから。」
「死ね勇者!」
彼がバッと手を広げ、こちらを向く。それと同時に大量の魔法が展開される。
火、水、雷、氷、土。ありとあらゆる業が魔王の魔力を糧に発現する。
それを認識した瞬間に、その魔法に対抗する奇跡を起こす。水、氷、土、火、雷。
ありとあるゆる奇跡が私の信仰を糧に発現する。
そして駆け出す。走り出す。彼もこちらへと向かってくる。火が水を。土が雷を打ち消す。そして、魔王の斬撃を私の斬撃が受け止める。
光と闇が空へと打ち上がり、雲を吹き飛ばす。吹き飛ばした雲のせいで太陽が隠れる。空は蒼く。蒼く澄み渡っていた。
脳内で音楽が流れる。この場に相応しい。対等に渡り合える存在を見つけた喜びに、歌が流れる。それは歓喜の歌。
晴れたる青空。漂う雲よ。
飛び交う魔法に。通う剣撃。
小鳥は歌えり。林に森に。
トンビは鳴いた。彼に私に。
心はほがらか。喜び満ちて。
体はきずつき。時は回って。
見交す我らの。明るき笑顔。
見合う我らの———。
果たして無限と無限の戦いは。全てを破壊し尽くし、後には混沌が残るだけだった。
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