The Second. No life?No death?

青い空が広がる。日は登り今はお昼の少し前だろうか。魔王に連れられてやってきたのは城の屋上。左右には天を突き刺す屋根が建っている。石造りの床には装飾はほとんどない。単調な造りである。

ある程度の広さが確保されている、その闘技場のような屋上の中心に私たちは立っていた。


「ふふっ。勇者かぁ。久しぶりだな。何年ぶりだろうか。300年前に1人来たっけか。」

「正確には287年と128日前ですよ。」


そんな会話を聞いて、改めて目の前の男が魔王である事を認識する。そしてそれと同時に高揚感も覚える。今からこの男と戦うのだ、と思うと自然と昂ぶってくるのだ。特にこの魔王は悠久の、永久無限の時を生きる魔王である。心踊らずには居られない。

頃合いを見てハジメがゆっくりと優雅に下がる。決闘は一対一で行うものなのだ。


「さぁ、勇者。決闘だ。我は———」


魔王が両手を大きく広げて天を仰ぐ。黒色の瞳が上からこちらを見る。空気が変わる。


「我は不死王。黄泉の住民にして、不死の存在。故に不死王。故に無限王。故に神に最も近い存在。汝は我を殺める者や?」


そうして冷徹な魔王の目がこちらを見下ろす。

ぞくり。と背中を悪寒が駆け巡る。しかし、嫌な感触ではない。不思議と高揚感を誘うようなそんな悪寒。


魔王に習って私も言う。


「私は——」



「私は無限の勇者。人々曰く、最強の勇者。曰く、聖王。曰く、神に最も愛された者。私は——汝を冥府に封じる者なり。」

そう言って背中に背負っている聖剣を———私の身長程もある、大きな白い大剣。豪華な装飾がほどこされている———を構える。

魔王は一瞬目を見開いて、驚いたような顔をした後、すぐにニヤリと笑う。

今度は嫌悪感はない。私もきっと似たような顔をしているだろうから——。


私の構えを見て、魔王も腰の剣を抜く。こちらは黒と紫の色をした禍々しい剣だ。細長い剣身は何でも切り裂くのだろうか。


互いに構える。

風が吹き、トンビが空高く舞い上がる。

甲高い鳴き声が辺りに響き渡る。


事前から決めていたわけではない。ただ、なんとなく、それが合図であると悟った。


同時に地を駆る。

お互い近づいているため、物凄いスピードで魔王が迫る。

その勢いが乗せられた剣を、聖剣で受け止める。金属と金属のぶつかる音が響き渡る。

剣と剣が重なり、押し合う。

魔王の顔が目の前にある。笑みが浮かべられている。

力の入れ方を変え、魔剣を右にそらし、そして左から魔王の首を狙う。

しかしながら、その斬撃はすんでのところで魔王の剣に邪魔をされた。

勢いは減り、弾き飛ばされる。

よろめきながら、後退する。

そこに追撃の魔剣。

それを後ろに飛んで避ける。

さらに追撃。

足を伸ばし、着地を無理やり早めてなんとか避ける。

さらなる追撃の動きが見える。

さらに、後退...しようとしたところで、背中が後ろの壁に当たってしまう。

次の瞬間には胸の辺りから激しい痛みが襲う。


胸に突きつけられた魔剣。さて、こんな風に傷つけられたのはいつ以来だろうか。痛みを噛み締めながら目を瞑る。静かだ。今、戦っているとは思えないほどに、静かだ。大量にアドレナリンが放出されてるはずなのに、それを超える冷静さに自分でも驚く。しかし、溢れ出る感情はとめどない———。


聖剣を強く握り、目の前の魔王を蹴りで押し返す。その後、聖剣を下から上へと振り上げた。

真っ赤な血飛沫。それとともに、魔剣は魔王の手ともに空へと弾き飛んだ。魔王の顔が、驚愕と愉悦を含んだものに変わる。飛ばされた魔剣が重力によって地面に突き刺さる。


再び魔王と私は互いに向き合う。

胸の傷は既に血が止まり、そして修復されている。対する魔王も切り飛ばされた腕から新しい腕が生えていた。


「くっ。あははははははは——」

狂った笑い声が響き渡る。


「楽しいね!実に楽しいよ!僕が腕を飛ばされたなんて何年ぶりだろう!それに無限!僕と同じ力のやつがいるだなんて!」


あはははははは——。



魔王は笑う。

楽しそうに。

天気は晴天。

空は青く。

どこまでも広く。

透き通っていて。

天は見えない。

トンビは輪を描き。

そして物語は冒頭へ。


「来い。無限の勇者。その無限を以ってして———僕の無限を超えてみせろ。」






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