無限の魔王と無限の勇者と

にょるにょる

The First. 「光あれ。」

「来い、無限の勇者。その無限を以ってして———僕の無限を超えてみせろ。」


そう言って目の前の若い男性、いや、そう見えるだけで実際は数千年数万年もしくはそれ以上の時を生きている魔王、はゆっくりと床に刺さった剣を抜く。その鋼色の剣身が太陽の光を照り返し、眼を細める。


天気は晴天。どこまでも広がる空はどこまでも透き通っていて、しかし、全く天は見えなかった。


その時私が感じた感情は———。


「やっとここまできたわ...」

そう言って私は目の前の黒を基調とした大きな城を見る。ここは魔王城。定かではないが一説では数万年前に建てられたと言われる魔王の城だ。目の前にある解放されたままの赤色の門は背後の黒と交わって禍々しく見える。門の奥にはさらに紫色の縁の、木材で出来た巨大な扉が見える。城は数十メートルの高さがかり、屋上には天を突き刺さんとばかりに鋭くそびえ立っている塔がある。外壁は綺麗で、草をモチーフとした装飾は現在においても中々の精度で、とても数万年前に造られたとは思えない。


上空には青い空がどこまでも広がっている。私の後ろから明るい朝日が照らして、ギラリと光る。

大きく深呼吸をする。

まだ冷たい空気が私の心を落ち着かせる。大丈夫、不安なんかじゃない。

私は門に入って、そっと扉に手をかけ、勢いよく開けた。


城の中に入ってみるとそこはもう玉座だった。

激しい抵抗を想像していた分、少し呆気にとられた。が、しかし私は、そんな事など足元にも及ばないほどの衝撃を、目の前の景色見て受けた。そこには、なんと魔王が、玉座に座っている金髪の女の子の上に座って、足を組んでいたのだ。端的に言うとつまり玉座が女の子だったのだ。玉座に玉座の女の子が座っていて、その女の子の上に魔王が座っていたのだ。

魔王は少女の胸に首を預けて、私に尋ねる。


「やぁ。よく来たね。給仕希望?」


その言葉にさらに混乱する。どう考えても魔王じゃない。こんなのは魔王じゃない。魔王でいいはずがない。ありえない。

辺りを見回す。左右には大理石でできた大きな柱が、高い天上を支えて大きな空間を作り出している。そして足元には玉座に続く真っ赤なカーペット。壁に吊るされた蝋燭の灯りと、天井からぶら下がる大きなシャンデリア。残念ながらそれらは全て目の前の男が魔王である事を示していた。しかし、少しの望みをかけて私は問う。


「あなたが魔王?」

「そうだよ?当たり前じゃん。」

そして希望は崩れ去った。

沈黙が訪れる。その間、私は今までの道のりがなんだったのか、哲学者のように考える。なんだろうこの期待を裏切られた感は。なんだろうこの虚しさは。

先にその沈黙を破ったのは魔王の方だった。


「で?君は誰なの?何の用?」


「え?あ、あぁー、ごほん。えー私は勇者よ。あなたを———倒しに来たの。」


気を取り直して言った私の言葉を聞いて、魔王は、その混沌よりも暗くて黒い、目を細めた。端正な顔立ちは面白そうに、しかし注意深く私を観察している。黒い髪黒い目。それに黒い服を着ている魔王は、その真っ暗な目と対照的な美しく白い肌は絶妙なコントラストを描いている。


「へぇ。勇者ねぇ。綺麗な金色の髪だからこの魔王城の給仕にでも来たのかと思ったよ。なぁ?ハジメ?」


「えぇ。最近は人手も足りないので丁度よろしいと思ってましたのに。」


そう問われて、玉座———もとい、ハジメと呼ばれた少女は答えた。


こちらの少女も髪が黒色だ。何色にも染まらない純粋な黒。目はぱっちりと大きく、深い大穴のように、暗くて黒い瞳を持っている。病的なまでに白い肌は、その黒色と素晴らしいバランスを取っている。顔だけでなく、体のバランスも素晴らしい。でかすぎず、小さすぎず、絶妙なバランスである。

そのバランスの良い顔立ちと、バランスのよいボディライン———むしろ、良すぎてこの世のものとは思えないような———その姿は、ある種の畏怖を私に覚えさせた。


「ははは。まぁ、給仕の件は考えておくよ。じゃ、まぁ移動しようか。」

「移動?」

「ん?あぁ、上だよ上。天の下で戦おう。」


ぞくり。と、嫌な感触が背筋を撫でる。戦おうと言った時、魔王がニヤリと笑ったからだ。


その姿に酷く嫌悪感を覚えた。


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