エルピナ歴170年二月 街へ行く
・一月三十一日
今日で日記をつけて一ヶ月だ。
文字が白紙を埋めていく様は、パズルのピースを埋めているようで心地よい。
しかし焦ってはいけないのだろう、そうしてしまえばこのメモ帳には文字の羅列が並ぶだけになってしまう。
・一月一日
スコップと、ついでに幾つか雑貨を買うために街へ行く。街は一日では戻れそうにない程遠いので、トラックを使った。
もう型落ちし、三十万キロ程も走ったが燃費が良く、整備も簡単で、荒道も踏み潰して進めるパワフルなマシンなので大分愛用している。今のところ買い替える予定は無く、ガタゴト揺れる感触を一興と歌いながら走った。
・二月二日
宿を取った。資金的には一流の宿に泊まる事も出来るが、なるべく大衆向けの宿に泊まるようにしているので今日もそうした。『またたび亭』と云う名の、ストリートから少し外れた小さな宿だ。
最近は小さな宿でもエネルギーをガンガン使う。前の戦争によって使われたRD用のリアクターがサルベージされたりと、余剰分が市場に流れているらしい。
食事そのものは食堂で取った。やはり民間用の合成肉は美味しくなるよう味が調節されていて、良いものだと思うが、僕はたまに食べる分で良いなと思った。
女将のアンナさんは中々崩れた感じの人で、直ぐに仲良くなれた。
明日はバザーが開かれるらしい。
・二月三日
バザーが開催されたようなのでそこに向かう。広場には沢山の人がシートやテント等で場所を取り、活気があるのは非常に喜ばしかった。
リュートの弦、中古のスコップ、食器が売っていたので購入。また、性能の良い軍用小型バッテリー(単一電池サイズ。しかし軽自動車程度なら一時間ほど動かす事が出来る)が売っていたので、格安で購入出来た。
シールダー(警備用RD。ずんぐりした体形で、整備性と装甲が魅力)を背景にリュートを弾いたら、それなりにお捻りを貰えた。
ただ、変なのが居たから適当に流しておいた。まだ、街でも治安は良くないらしい。
・二月四日
市場で幾つかの食料を購入した。パン、麦、ドライフルーツ、缶詰、携帯食料だ。
しかし、流石にパンは戦前と比べて多少高く、また、市場の外れには身を売る子供が大量に居た。助けたいし、今の資金があればどうにか出来る。
でも、僕はもう終わった人間なんだ。だから、見捨てた。しかし、トウモロコシの缶詰と乾パンを与えてしまった。あれは奪い合いになって、直ぐに元に戻るだろう。
さて、明日でこの宿ともお別れだ。今日は早めに寝よう。
・二月五日
この日記は車内で書かれている。
今日は野宿になりそうだ。この間のバザーで絡んできたチンピラが盗賊だったらしく、戦車で追ってきたのだ。幸い小回りが利かないタイプだったので、ドリフトで翻弄して崖の下に叩き落してやった。
今になって、あいつらも戦車の維持費でカツカツだったんだろうなと思う。しかし僕に関係は無い。携帯食料を火で炙って食べた。
不味い携帯食料が、少し不味い程度になった。またたび亭の温かい食事が多少懐かしくもあるが、あそこは僕の居場所では無い。
・二月六日
今朝、自宅に到着した。一日の大半を荷物の整理で済ます。
疲れたので狩りは無く、乾パンとドライフルーツで済ませた。
泥棒は居なかった。
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