エルピナ歴170年一月 雪は止まず
・一月十一日
意味は特にないけれど雪だるまを作った。
モノ作りは一度嵌ると中々抜け出せないもので、これもついつい本気になってしまう。
最終的に身体は雪だるまなのに、顔は妙に精巧な爺さんと云う珍妙なオブジェが出来上がった。案山子にはなるかも知れないが、生憎最近は生き物を探すのも一苦労だ。
・一月十二日
朝起きて昨日作った雪だるまがあったからビビった。やっぱ壊そうかなぁ、アレ。
なんか常に視線を感じる一日だった。絶対なんか宿っちゃったって、アレ。
・一月十三日
ちょうどいい的があるのでナイフ投げの練習をした。
様々なナイフがキチンと整った刺され方をしているのはある種の規律を思い起こさせ、空から覗かせる陽光に反射する様は気分が良い。
的は最終的に蹴り壊した。
・一月十四日
一日の終わりに少し本を漁っていたら昔のアルバムが出てきて、つい見てしまう。
まだ社会の一員として生きていた頃はありとあらゆるものをデータ化しているのに、こういったものだけは紙媒体として独占したくなる。
クレスの写真が多かった。眺めていると声が聞こえそうな気がする。生真面目の癖に頭は良くなかったなぁ、アイツ。
・一月十五日
飲み水を熱消毒していたら中に変な虫が入っていた。
確か毒虫じゃなかった筈なので、汲み直しも面倒くさいしそのまま飲んだら、いい感じに出汁が出ていた。悪い方向に。
外れレーションに泥水を混ぜて、中華料理に使うようなマニアックな調味料をまぶしたような味だった。
・一月十六日
昨日の虫が気になったので給水パイプを調べる事にした。
この家は川の上流にある森を切り開いた平野に建っており、川から取り入れた水を、浄水用の菌が入ったタンク(内部は水力によって半永久的にかき混ざっている)に一旦溜めて、それから地下の給水管を通り此方の水道へ供給される仕組みだ。
蓋を開けたら虫がビッシリ居た。ああ、冬眠中なんだね、分かる分かる……と、ノリツッコミしたところで、背中に変な寒気を覚えながら焼き討ちした。どうやらプラスチック管な事と、甘い繋目が流水によって開いてしまったのが、侵入を許す原因になってしまったらしい。作り易さ優先しちゃったからなぁ。
・一月十七日
倉庫にあった水陸両用RDのジャンクパーツを流用して水道管を作った。
元は冷却水を通す為の給水管なので、今度こそ大丈夫だろう。金属製なので物凄い労働になったけど。運ぶのだけでも手間かかるのに溶接があるんだもんなぁ。
褒めて~、誰か僕を褒めて~。クレスだったら冷たい飲み物持って来てくれるのになぁ。
・一月十八日
朝は妙に晴れているが、嫌な予感がしたので外に出なかったらやはり雪が降りだした。
場所はここの森限定なので予報には記載されず、只大きな風が吹くとだけあった。思ったよりガタつく家だったんだなぁ。
・一月十九日
今日はかなりの猛吹雪なので外に出ない方が良いだろう。燻製にまだ余裕があるのは運が良い。ナズナの胡麻和えに燻製のスライスを添えて食べる。
今日は時間が余ってしまったので、適当にリュートを弾いた。無意識に弾いていたら、クレスが好きだった曲に集中してしまった。
・一月二十日
夢にクレスが出てきた。僕の事を「隊長殿、隊長殿」と子犬のように付いてきていた頃のクレスだ。
思わずベッドから無意識のうちに叫んで飛び上がり、呆然とした。嗚呼、僕はなんてことをしてしまったのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます