勇者の決戦

 翌朝、俺は仲間達に魔王城に乗り込むと告げた。


「なによ?随分と急な話じゃない」


「悪いな。だが、いい加減もういいだろう。俺達はもう充分強くなった。魔王に引導を渡すときが来たんだ」


「よっしゃあ!待ってたぜこの時を!存分に暴れてやるぜぇ!」


 戦士が重さ100キロはあるであろう、巨大な戦斧を片手で振り回しながら意気込んだ。やれやれ、すっかり化け物だな。まあ、こいつに限ったことではないが。魔法使いもいつも通り反対することはなさそうだ。


「いくぞ!」


 俺達は真っ直ぐに魔王城を目指した。固く閉ざされた扉は戦士があっさりとぶち破った。その先に広がるのは大広間。そして、かつてない程の魔物の大軍。だが、俺を含め誰一人として怖じ気づく者はいなかった。


「ウオオオオオオオ!!」


 俺達の姿を見るなり、魔物が一斉に押し寄せてきた。魔法使いが杖を横に払うと同時に大爆発が起こり、耐久力の低い魔物は一斉に塵となった。残った魔物も俺と戦士が次々と斬り捨てていく。しつこく蘇ってくるアンデッド系の魔物は女僧侶が一瞬で浄化させていった。あれだけいた魔物も、戦闘開始して10分後には全滅していた。


「がっはっは!!魔王直属の手下も大したことねえな!」


「張り合い無いわねぇ。やっぱ強くなりすぎたんじゃないの?あたしら」


「油断するなよ。まだ奥には俺達の知らない強力な魔物がいるかもしれないからな」


 とは言ったものの、そんなことは微塵も思っていなかった。最初は嵐のように感じた魔王の魔力の波動も、今ではそよ風程度にしか感じない。鼻くそをほじりながら戦っても、万が一にも雑魚に負けることなどあり得なかった。


 案の定、女僧侶の回復魔法もほとんど使うこともなく、俺達は魔王の間へと辿り着いた。遂に終わるのだ……長かった旅が。そう思うと、さすがに少し緊張してきた。平民の俺が、もうすぐ世界を救うのだから。


「……大丈夫か?」


 魔法使いだ。思えば、俺のことを一番気遣ってくれたのはいつもこの爺さんだったな。確かに不安はある。と言ってもそれは魔王に対してではなくその後の事に対してだが。


「当たり前さ。あっさりと片付けてやるよ」


 不安を払拭するかのように、魔王の間に続く扉を蹴破った。これでもう後戻りは出来ない。


「来たか……勇者共め……」


 いた。魔王だ。何だか凄く小さく感じる。こんな奴に世界は恐怖に陥れられていたのか。


「魔王よ、貴様の悪行もここまでだ。今こそ貴様に正義の鉄槌を下してやる」


 えーと、こんな感じでいいのか?あまり慣れない言葉は使うもんじゃないな。まあいい、サクッと終わらせるか。そして、世界の命運をかけた戦いが幕を開けた。……というには、あまりにも一方的なリンチだった。


魔王の攻撃……戦士はビクともしない。

俺の攻撃……魔王の腕がもげた。

魔王が地獄の炎を吐いた……あったかいなぁ。

魔法使いの大火炎魔法……魔王はもだえ苦しんでいる。

女僧侶は後ろで暇そうにあくびをしている。

戦士の攻撃……魔王が血反吐を吐きながら吹っ飛んだ。


 弱い、弱すぎる。これまた開始数分で既に魔王は虫の息だった。


「おのれ…こんな馬鹿な。この私が人間ごときに………うぅ」


「これで終わりだ魔王。地獄で悔やみな!」


 剣を魔王の脳天から一閃。真っ二つになった魔王は断末魔の叫びをあげながら蒸発した。実にあっけない。さっきまでの戦いが嘘のように静かになった。終わった………。


「勝った!勝ったぞぉぉぉ!!うおおおお!!」


 戦士が感極まって号泣して抱きついてきた。正直気色悪かったが、まあ今回だけは許してやるか。


「あー終わった終わった。さっさと帰りましょ。こんな辛気くさいところにいつまでもいたくないわ」


 まったく、感動の欠片もないな。まあいい、早いところ国王に報告に行かないとな。戦士を引き剝がし、帰り支度を始めた。魔法使いが、主を失い床に転がっている魔王の衣服や装飾品を見つめていた。まるで哀れむような目で。まあ確かに最後は少し可哀想だったかもしれないが。


「爺さん、行こうぜ」


「あ、うむ……そうだな」


 帰ろう、俺達の国へ。きっとみんな喜んでくれるさ。帰ったら宴だ。美味い飯を食べて、美女達を侍らせて、何不自由ない余生を過ごすんだ。何せ俺は世界を救った勇者なんだから。大丈夫……。大丈夫だ……。

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