第3話
あぁなんでこうなったんだ。
そうだ。元はと言えば僕の隣で今、物語的なものが始まらんとしている僕的に最悪な状況で、目を
「
ほら。
だから僕はそれが嫌なんだ…。
こんなことならドーナツ屋まで行く道を歩いていた頃の方が断然マシだ。
あと10分歩いてドーナツを食べ、そのまま家に帰ればミッションクリア。
明日には夏休みに入り、クーラーの効いた涼しい部屋の中で冷たいジュースを飲みながら、山のように出た課題を消化して休憩時間には漫画やらアニメやらを
そんな明日が待っていたはずなのに………
「あぁ、かえりたい……」
本日何度目かの心の声が外に漏れるのとほぼ同時に動く床の行く先に出口と思しき光が見えてきた。
だんだん光が大きくなるにつれて床の動くスピードは緩んでいった。
光の中に入るとそこは狭い部屋だった。
入り口と同じように骨董や美術品のような物が沢山ある。それが壁一面を覆うように
そんな中に、いかにも怪しげな、THE占い師みたいな格好をした老婆がいた。
(もちろん、目の前には大きな水晶玉もある。)
すでに全てにおいて異様なこの部屋で最も異様なのは老婆が部屋にいっぱいになるほど大きいことだ。主にこの部屋を狭くしているのはこの老婆が原因と言ってもいいと思う。
「なんだここ…あんただれだ?」
さすがの
そんな僕の思考と萎え具合をよそに老婆は初めて言葉を発した。
「ここにたどり着いた者がいたのはたしか、7年前だったか……」
……いや、結構頻度高くないか。
っていうか質問に答える気は無いのか。
「ちょうど主らのような青年たちだった……。"せかい"に呼ばれた者。この世界に人が初めて入ってきたのは、そうさなぁ、300年ほど前か。"せかい"が、日本という国でなぜかゲートを開くようになった。」
「思ったより浅い歴史だな…………」
白也が残念とでもいいたそうにボソッと呟く。
いや、日本で何千年も前って言ったらもはや縄文人とかだからね。縄文人がこんなとこ来てどうするの。
これ以上黙って聞いているとため息が止まらなくなりそうなので渋々ぼくも口を開く。
「なんの目的でその…"せかい"ってのは、僕らを呼んだんですか。あの入り口じゃ、完全に誘ってるでしょうが。なんでそもそも僕らなんですか。」
僕が「帰りたい」以外に喋ったのが入り口以来だった上に唐突に真顔で核心をついたものだから、白也がぽかんとした顔でこっちをみている。
わざと敬語を使ったのはこちらの敵意を表に前面に出すためだ。
僕はちゃっちゃと話を終わらせて、あわよくば全てを拒否してちゃっちゃと帰りたいのだ。
老婆は静かに僕を見た。
正しくは見たように見えた。
(深くフードを被っているので老婆の目が見えないのだ)
こちらから目の見えない相手に見つめられてもなんの怖さもない。
ただ沈黙だけが流れる。
しばらくすると老婆は突然指を鳴らした。
驚いているとドタッという音がしたのでさらに驚いて振り返ると白也がその場に倒れていた。
「白也!?」
声をかけるとすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てていた。
ただ眠っているだけのようだ。
白也の様子を確認していると、老婆は僕の質問などなかったかのように僕に語りかけた。
「
「はぁ?!なんで僕!??」
冗談じゃない。何この急展開。2人で協力プレイRPGって話じゃないのか。なに勝手に僕だけを選んで呼んじゃってくれてんだ。何でよりによって白也じゃなくて僕なんだ。大体からして主人公なんて柄じゃないだろう。僕の中の何がそんな選ばれるようなことだっていうんだ。ていうか……
「さっきからこっちの質問にこたえないで勝手に白也眠らして、ベラベラとなんなんだよ!ってかなんで僕の名前………!!?」
老婆はひとつも僕らの質問に答えていない。
だから老婆が何者なのかも、"せかい"の目的も、僕を選んだ理由も、何もわかってない。
「理由も、目的も、我にはわからぬ。だが、"せかい"が主を選んだのだ。それに従い、我は主を"せかい"に招き入れる。それだけのこと。」
なんなんだその"せかい"ってのは。
あぁほら何もわからないじゃないか。
ふざけないでくれ。
僕は平々凡々と静かに不自由ないくらいに生きて、静かに平和に暮らしたいんだ。
主人公なんて本当にはた迷惑な話なんだ。
悪い夢ならさっさと覚めてくれ。
「何故に主はそんなにも拒絶するのだ。他の人間は平凡をつまらないと言い、脱するべく躊躇なく"せかい"を受け入れた。主は何故、そんなにも平凡を欲するのだ。」
僕の思考を見透かしたかのように老婆が僕に問いかけた。
あぁなんだよ悪いかよ。
平凡がいい。平和がいい。
それで何が悪いんだよ。
「平凡が一番平和なんだ、滅多に苦しいことも、つらいことも起こらない。死にもしないし痛くもない。平凡が幸せで何が悪いんだ。僕は平凡でいたいんだよ。深く干渉せず、最小限で静かに生きてたいんだよ。」
平凡こそが僕の幸せだ。
それでいいじゃないか。何が悪い。
老婆はしばらく黙ってまた僕を見ていた。
そして突然ニヤリと笑って言った。
「そんなお前こそ"せかい"が望む者かもしれぬ。さぁ、そろそろ時間だ。」
「はぁ?だから僕はそんな………」
僕が言い終わらないうちに老婆は指を鳴らした。
途端に目の前が歪み、ぐるぐると回りだす。
思わず僕はしゃがみこむ
ぐらぐらと揺れる頭の中に老婆の最後の言葉が響く。
「主は変えられるのかもしれぬ。主はきっと"変われる"…。」
意味がわからない、変えられる?変われる?
なんの話だ。いいかげんにしてくれ。
まだ聞きたいことも言いたいことも山ほど………。
グラグラぐるぐると歪んでいく視界が最後に捉えたのは、眠る白也とわらう老婆。
あぁ。最悪だ。
僕はいよいよ、『主人公』になったのだ。
ー続くー
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