第2話 ラップ越しのキス

 俺物語がクラスの男子に妙に流行っている。

 いやいやいやいや、ないだろ。お前ら、ない。

 俺物語とか、見た目ごついけど意外とイケメンだし、ジャニ系主流の中で男塾みたいな筋肉キャラって噛ませ犬感強かったけどフォーカス当ててみたよ、でも少女漫画だからちゃんとイケメンなんです。お前ら、モブのそのかっすかすな筋肉と平凡なルックスじゃ追いつけない。せめて、マッスルキタムラ目指して筋トレ始めてから目指せ。

 「あれ、どうしたの腐女子ちゃん、スマホに難しい顔してる?」

 「あ、なんでもない、男子キモイなって。」

 クラスの中では一番美人、いわゆるクラスお局である。こうして女子に愛想を振りまき、自分が何かのターゲットになったときに身代わりを立てる嫌な女である。大体話を合わせておけば、飽きてどこかえ消えていく。

 そう暇なだけなのだ。

 「わかる、この前も三馬鹿にラップごしでいいからキスさせろって、バカじゃねーのって感じだよ、はぁ、ほんとうざ。」

 「えぇ、モテる女はつらいねぇ。」

 わかりやすいご機嫌取りである。ここで、外すといたずらに機嫌をそこねて陰口をいつもの数倍言われるので気を付けなければならない。それにしても、ラップ越しのキスってCMを見た限りでは男同士でするものじゃ?

 「あ、うん、いまいくー、なんかさみしそうだったから。うん、ウケるー。」

 ばいばい、クラスの中では一番の美人ちゃん。

 [勝手に人をかわいそうって落とすやつほんとうざい。]

 ついつい、ツイッターに毒を吐いてしまう。あとで消しとかないと。

 「ここにラップがあります。」

 誰かと思えば、吹奏楽オタの非モテ男子である。三馬鹿相手に何か話ている。というか、私の萌えネタに置く登場する三馬鹿よ、君たちはいったい何なんだい?ホモなのかい?

 「いや、男とキスとか無理だろ。」

 「ラップ越しでも?」

 「……無理だろ、なぁ?」

 急展開である。男子とは馬鹿なのか。吹奏楽に走りすぎて男同士の間接キスなんて当たり前の世界に身を置いていらっしゃる、非モテ様はおっしゃることが違う。

 「間接キスってしたことあるだろ?でもラップを挟むことで、間接ですらなくなる。」

 「確かに!」

 確かに、じゃねぇ!そこのハードルが高いから萌えなんだ、そこは馬鹿でももう少し抵抗しろ、バカ!!

 「いやいやいや、そういう問題じゃなくて、男同士でキスとかないだろ。」

 「だーかーらー、ラップ越しだからキスじゃないの。」

 「もう、行っていいよ。」

 説得の甲斐なく降られる吹奏楽オタの非モテ男子、三馬鹿にまで降られるとはつくづくモテないね。人のことは言えないが。

 「あれ?非モテ?またキモイこと言ってんの、だから彼女できないんだよ。」

 「は?じゃぁ、お前やってみろよ!」

 「……あとでね。」

 青天の霹靂。どうしてイケメンはすっと入ってきてカルチャーショックを与えて去っていくのだろうか。イケメン文化は闇が深い。吹奏楽部イケメンボーイの放った後でね、とはいったいなんなのか、間接キスもすでに済んでいるからそれくらいは余裕ということなのか。確かに吹奏楽部イケメンボーイは先輩にとっかえひっかえされており、経験豊富というのがみんなの常識だけれど、だけれども、そんなに安請け合いしていいのかよ!!逆に、処女喪失したみたいな顔になっている吹奏楽オタの非モテ男子に同情してしまう。お前の本命は三馬鹿だったのかよ、チクショウ!

 「ちょ、いいのかよ?俺の初キスもってかれちゃうぞ!?」

 「えぇ、なにいってん――」

 「一回だけだぞ。」

 今になって慌てふためく吹奏楽オタの非モテ男子。事の重大さに気が付いたらしい。いや、私としては美味し……。

 [いま、目の前で、私ん目の前で男子がキスしたんだけど、えっ?なに、?リアルホモ\(^o^)/オワタ]

 萌え死ぬ。

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