最終話 光

昨夜は気持ちが乱れたのかどの道を通って帰ってきたのか覚えていない

帰りがかなり遅くなったから家族は皆眠っていて、一人で酒を呑んでいたようだ

それもかなり呑んだのか今朝は二日酔いみたいで気分が悪い

少し早く起きたから出勤時間まで余裕がある

コーヒーを飲みながら煙草を吸って考える

昨夜の気持ちの乱れはきっとストレスが大きかったんだろうな

自分が支えるものは家族

自分が大黒柱でそして家族皆で楽しい会話や出来事を繋いでいく大切なもの

それを否定するなんて馬鹿なことを考えてたんだろう

仕事で命を取られることは無い

仮に辞めることになってもいつもの「何とかなるさ」の精神で行けば乗り越えられる

嫌なことを消し去ろうなんて考えは何も産むことは無い

何かを残そうとする気持ちが心を軽くして次の夢を見ることが出来る

今日の作業は大変だけど、明日は日曜日

誰にも邪魔されないし自分の思い通りに出来るじゃないか

嫌なことを考えては前へ進めない

病気になっても支えてくれる家族さえいればそれで良い


さぁ時間だ


いつものように服を着替えて、玄関で靴を履く

今日は靴に埃が付いていないし、玄関も綺麗だ

おそらく妻が週末に仕事に行く自分に代わって掃除を早めにしてくれたんだろう

「行って来ます」

そう言うと妻が階段から降りてきて「あなた何処に行くの?」と聞いてくる

そういえば土曜の今日は出勤日になることを伝えてなかったのかもしれない

「しんどいけど今日は仕事なんだ、帰りも遅くなると思う」

「でも明日は日曜だから家族皆で出掛けような」


妻が言った

「もう会社なんて行かなくて良いのよ」

「もうしんどいなんて言わなくて良いのよ」

「もうゆっくりと休んでくださいな」


自分が言った

「何を言ってるんだ、仕事を投げ出すわけにはいかないよ」

「辛い仕事だけど、家族の為と思えば頑張れるよ」


妻が言った

「そう、」


「それじゃぁ次は家族皆で楽しく過ごしましょう」

「気おつけていってらっしゃい」


自分が言った

「そうだな、それじゃ行ってくるよ」


玄関のドアを開けると眩しい日差しが入ってきた

不思議と暖かい光、前は何も見えないけど何故か優しい感じがする


「なんだ?」


振り返るとそれまで居た自分家が無くなっている



そして何処から声が聞こえる


これがあなたの望んだ世界…



溶けていく

此処では全てが無になる世界

人々の思いや感情も全てが綺麗に無くなっていく世界

争うことも無い、競い合うことも無い、夢見ることも無い

甘い香りがしてきた

気持ちが軽くなり次第に自分の存在を理解出来なくなってきた

感じない

聞こえない

何かが終わるんだろうな

そしてまた何かが始まるのかも知れない

静かだ…

目を閉じるとそこにあるのは




昨夜11時頃に国道○○線で車がガードレールに衝突する事故がありました

現場は緩いカーブでブレーキ痕が無い所からスピードの出し過ぎで曲がりきれなかったようです

運転していたのは市内に住む会社員××さん

頭を強く打ち、病院に運ばれましたが1時間後に死亡が確認されました…






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最後の週末 湖国人 @pagu1800

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