第8話 誘う
ラインの作業を終えていつもの事務作業に入る
花金と呼ばれる今日の日は疲れたサラリーマンにとって至福の時間だ
誰もが「今夜は何処で呑む?」とそれぞれ仲の良い友人や同僚
また上司の財布が目当てで無理矢理誘うものもいる
自分にそんな誘いは無く、会社の自動販売機で買ったコーヒーと小さな菓子パンだけが楽しみ
作業の実績と納入品の数字を計算して明日の工程を作り
機械の稼働時間をパソコンへ入力
グラフと数値に追われる自分が目指したものは何だったのだろうと考える
次第にキーを押す指が遅くなり、何故か涙が出てきた
誰もいない事務所だ、大声で叫んでも誰にも聞こえない
いっそのこと辞表を置いてこのパソコンを壊して出て行けたらと思う
家族がなんだ!仕事がなんだ!自分を犠牲にして、病気にまでなって支えるものにどれだけの価値があるんだ!!
隣にある上司の椅子を蹴飛ばし、机に唾を吐いてみる
もう怖くない、月曜の朝に此処がどんな風になっているか目に物見せてやれ!
…ふと我に気づくと涙に濡れた自分の手だけがそこにあった
椅子も机もパソコンも何も壊れていない
壊れたのは自分の心だと思った
作業を終え会社を出て月の光が眩しい空を眺める
明日また仕事が始まる
本当に今夜は月が綺麗だ
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