第5話 ズレル
いつもの朝
家族に起こされて会社に行く
玄関に立つと靴に埃が付いている
よく見ると玄関のドアや窓にも埃が薄っすらと重なっているのが見えた
妻も平日は仕事に出ているから週末は家の掃除から始まる
玄関は家族皆が使う場所だからすぐに汚れが目立ち始める
掃除は嫌いな方ではないので「また週末は此処から掃除だな」
そう思い会社に向かう
今日は雨
鬱の病気にストレスの次に危険なのが天候の変化だ
特に雨の日は普通の人でも気分が落ちるのに、病んでいる自分にとっては恐怖の一日になる
頭が重く、体がダルイ
こんな症状はどれだけ言葉を捜しても伝えることは難しい
見えない何かとも戦わないといけない
会社に着くと何やらアクシデントがあったらしく、すぐに上司に呼ばれて事務所に入った
どうやら作業者の一人が怪我をして会社に来れないらしい
工程の内容を見て調整を行うもどう考えても人数が足りない
此処でこそ管理者が工程や作業者の穴埋めをしなければいけない所なのだが
言われた言葉は
「休日に出てこれないか?」
これはお願いではなく命令だ
「実はその日には用事があって」とは言わせてくれない
「もちろん出ますよ」
笑顔で答えるしかなかった
上司は自分の考えが通り、工程が自分の手を汚すことなく進むのが分かると満足した顔で「では今日の作業に掛かりなさい」と一言だけ自分に伝えた
何度も転職を考えたことがある
でも病んだ自分を引き受けてくれたこの会社
年齢も転職を可能にするにはもう遅く、何の資格も持っていない
独り身でも無く家のローンもまだまだ続く
此処で生き抜くしかないのだ
雨が強くなってきた
自分の中で何かかがズレ始めるのが分かるも、どうしようもない
念の為に持っておいた薬を飲んで作業に取り掛かる
体が重く、頭の回転が鈍い
辛い時間が始まる中である思いが浮かんでは消える
「あの火事で亡くなった人は、もう生きる苦しみを感じることないのだろうな」
雨が強くなってきた
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