第2話 いつものこと

会社に着くと既に数台の車が駐車場に停まっていた

僕は渋滞を避ける理由でいつも皆より早めに出勤しているのだが

中には午前中の業務を少しでも早く終わらせる為に残業の付かない時間を使って仕事をしている社員もいる

自分の朝の仕事その一はまず駐車場のチェックから始まる

嫌な上司の車が停まっていないか確認するのだ

いつも場所に車が停まっていれば今日も何かのミスが起こり、事務所で延々と叱責を受ける時間が待っていて

車が停まっていなければ定時に会社を出る自分の姿が見えてくる

さて、今日は…

やれやれ、何を言われるのだろうと思った


事務所のドアを開けてすぐに上司に朝の挨拶をする

まず目をみるとその日の機嫌が分かり頭の中をフル回転しながら会話のネタを探す

上司は自転車を趣味としている

休日はサイクリングをするのが好きで、僕も誘われて高価な自転車を買わされた

プライベートなら上手く付き合うことが出来るかもと休日は一緒にサイクリングに行くことがあったのだが、実際はその時間も苦痛なことだった

昨日は何km走っただの、次はあんな自転車を購入するだのと自慢話が続く

朝の仕事その二はまず上司の世間話を聞くことになる


一通り話しを聞いた後で自分の本当の仕事が始まる

工程を確認し段取りをして作業機械の安全確認をしてからスイッチを入れてスタート

今日は何もミスが起こりませんようには無理なので、今日のミスは軽い物でありますようにと願う

まっ、大抵そんな希望願望が神様に届くはずも無く警報のアラームが鳴り

社内放送で自分の名前が呼ばれ、汚い作業服を綺麗な服に着替えて事務所に向かう

仕事のことだけ怒られるのならば良いのだけど、その間に自分の武勇伝を挟むのが苦痛だ

「私ならこうした」「昔の私はこんな仕事で乗り越えた」「昔の上司に私は意見を言って喧嘩した」「私は上司から嫌われているようで頼りにされている」

etc…

嫌な顔して聞いていると機嫌を損ねてしまって大変なことになるので「そうなんですか!、それからどうなったのですか?、もっと聞かせてくださいよ」

心にも無い言葉が出てきては自分を苦しめる


一通り話しを聞いてようやく開放されたらここからがまた苦痛の始まり

停まっていたラインを動かし工程を終わらせる為に休み無く働かないといけない

ラインの作業者は定時で作業を終え、今日も自分の自慢話を言い終えた上司も

「お疲れ、早く帰れよ」と軽く挨拶をして消えていく

その後、僕は事務作業に入り、終わる頃には月の明かりが眩しい夜になっていた





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