回胴黙示録マドカ――賭場に舞い落ちた肝汚太――
和大雄
第1話人食いスロット(大嘘)
五月九日某パチンコ店に男はいた…!
名は和大雄…極めて普通の
彼が遊戯する台、それは幾多の
管理関係で引っかからない為に〇字で一部を誤魔化しているが、それでもこの名を聞いたものは震え上がらずにはいられない人食いスロットである…!
時間つぶしで打つには些か過激な台でははあるが、この台はゲーム数によってうま味がある所謂ゾーンがあり、それを突く為に遊戯していた…!
そしてそのゾーンは実る…!253
(ダメだ……流れが切れている…運が尽きている……!)
そう思うのも無理はない…PBは獲得枚数も少なく、
落胆する和大雄…!もう伸びる事はないと思っていた…!
たが否……!そうではなかった…実はこのPB引きこそ予兆、第一歩だったのだ…通常の波高を遥かに超える百に一度の…高波……!
それはPB消化中に起きる…思ってもいない光景が液晶に現れる…!
そいつは突如現れた……!本来忌み嫌われる外道、吐き気をもよおす邪悪…!白き淫獣
想定外の登場、和大雄に電流走る……!
ざわ…
(ククク…きたぜ、ぬるりと…)
ざわ…
これにより強烈に匂い立つ……最高設定5、6の気配……!
故に感じる……!快勝…大勝…圧勝の未来……!
周りもざわめき始める…本来ありえないと思っていた高設定の投入…その気配が浮き彫りになったからだ……!
隣の台で遊戯していた
「なんでっ……なんで俺じゃなくてこんなキモイ奴にっ……普通俺だろっ……俺のほうが
安藤から漏れ出す罵りにも似た愚痴…謎だ……まあ安藤ほどじゃないが……多かれ少なかれ
(ククク…悪いなっ
ネジを巻きなおし、スマフォの子役カウンターのアプリまで起動して設定看破まで始める……凡人丸出しだ…見てられない……!
だが期待を込めた割には至って平凡な展開……! 艶の無い子役落ち……増えないメダル……溜まる負債……!
ざわ… ざわ…
(なんだよっ…!なんだよこれは……!ありえるのか……?こんなこと……!)
ざわ… ざわ…
本来QBは最高設定でなければ基本拝めない…だがあくまで基本…低設定でもごくまれに出なくもない…故に暗雲立ち込めれる…破滅…崩壊への足跡……!
(くっ……頼むよっ神様っ……強運なんかじゃ…なくていいっ……!奇跡もいらないっ…!平運っ…!起こってくれよっ…!ごく普通の現象…!確率……!)
この時高設定という事すら疑っていた…! しかし事態は激変する…!
156G中にスイカをツモ…その後
ボーナスはBB…ここは何としても決めたいが……が、駄目っ……!
ボーナス間中高確率の以降も無いパッとしない展開…!思わず嘆く和大雄…が、しかし…しかし…!
ボーナス終了画面中にプッシュボタン演出発生…!恐る恐るボタンを押す和大雄……画面に広がる
そう、いつの間にかに引いていたのだ……このボーナス中に……ART並び特化ゾーン入賞を決定させる……
ざわ… ざわ… ざわ…
ざわ… ざわ… ざわ…
(う……うわあああああああああああ……! か……神様…ありがとうございますっ…)
ざわ… ざわ… ざわ…
ざわ… ざわ… ざわ…
この時和大雄は思い出した……この台には…あるのだ…!
奇跡も……! 魔法も……! あるんだよっ……!
やがて勝者の証コインを山の様に積む和大雄…!
それと同時に突き刺さるヲタクを毛嫌う目線…だが意に介しない…!
ざわ… ざわ…
ざわ…
(ククク…気持ち悪いヲタクと思ってるのかい……!上等だよっ…! 大事なのは熱っ…! 熱を失わないことっ…! 熱いキモヲタなら上等よっ……!)
ざわ… ざわ…
ざわ… ざわ…
そしてその特化ゾーンは爆裂、順調に上乗せを刻む……! だがここで問題が生じる……! それは時間……友人との飲みの時間……!
本来ならここで止めて、飲みに行く場面……! しかし高設定……この響きが和台雄に産ませる…欲望という魔物を……!
(続投だ……ケチな友情拾う気なし……!)
友人を捨てて遊戯続投……当然だ…和大雄はその身を持って味わっている……金は友情より重い…!
おまけに本来LINEで報告するが、ダラダラ時間をかけたくないのでメール一通だけで済ませる徹底ぶり…その後は返事は一切無視…鉄のガード…要塞対歩兵……!
だがしつこく連絡を取ろうとする友人…が、意に介しない…!
(おいおい…! よせよせ…! 沢山聞けばその分いい人間…上等な人間になった気か…? 胸クソ悪い…! 気がつけ……! 行動なんだよ……! 人生は……! 浪花節だろ……人生は…!)
そうしてる合間にも積む…積み上げる…大金を呼び込むゲーム数…大金に化けるコインを……!
その枚数、約五千枚…! (平成28年のコイン五千枚は現在の十万円程度)
周りから刺さる脚光…勝者だけが浴びられる称賛…!
そう…和大雄はこの時この場所に限り勝者になったのだ…よく戦ったのではない…勝って来たのだ…
ヤンキースの田中…フィギュアの羽生…ログ・ホライズンの橙乃ままれ…!
彼らが称賛されているのもまた勝ったからだ…!もし彼らが負け続けの人生だったらどうか……? これは言うまでもないおそらく…
田中はハンカチ…羽生は織田に食われ…橙乃は…いけすかない脱税野郎…!誰も相手にさえしない…わかりきったことだ…
だからこそ、このまま積まなければならない…勝って…勝って…勝ち続けなければ……!
(唱えな……念仏っ!……落ちてもらうぜ
◇
長かったARTも終わり、気が付けば既に21時…この店の閉店時間は22時40分なので残りわずかとなる…
現在メダルは九千五百枚…大勝確定…!
このままやめるのもありだが…欲が出る……才と運…その両方を兼ね揃えてなければ到達しえない高み…万枚に…!
(設定は恐らく6っ…最高設定だっ……恐らく行けるなっ…)
終了はせずあくまで続投…最高の高みを目指して通常時を突き進む…!
だが波に乗らない…ここまでか…? そう呟きたくなるスネた展開…!
しばらくしてBB入賞するもARTは実らず…! だが天国に入賞すればまだ幾分
よりにもよって一番聞きたくない一番悪い台詞……時間が惜しいこの場面でこれは痛恨……!
何かの間違いだと思い、再度確認……
ざわ… ざわ… ざわ…
ざわ… ざわ…
(黙れっ…! ムダ口はさえずるな…おまえの台詞にはヘドが出る…やめてくれ……衝動的に
ざわ… ざわ… ざわ…
ざわ… ざわ… ざわ… ざわ…
結局天国は無く100G消化…時間は既に10時25分、タイムアップ…そう思えた……!
だが…起きる…! またも奇跡が…! 魔法が…!
――さあ、鹿目まどか、君はその魂を代価にして何を願う――
(えっ……?)
それは間違いなく奇跡…! 1/98304の奇跡…!
最強の
本来なら狂気乱舞…蜂の巣突いた様に大慌て…父ちゃん喜び…庭駆け回るっ…!
だが、そうも行かない…時間…タイムリミット……それがもう、刻……一刻…!
ざわ… ざわ… ざわ…
ざわ… ざわ…
(なんでっ……なんでっ……なんでこんなことにぃっ………)
ざわ… ざわ…
ざわ… ざわ… ざわ…
残りは後十分足らず……取り切れる訳がない……!
ましてやフリーズはその名の通り…止まるのだ……台が演出によって…一時的に……!
どうあがいても一分は生贄に捧げなければならない…一秒たりとも無駄に出来ない和大雄にとってこれは…痛恨……!
永遠にも感じた停止…! やがて稼働…! 本来至福の七揃い…言うまでもなくスキップ……! 今、和大雄は恐れている…この奇跡を無駄にる事…失う事にっ…!
そして始まるエピソードボーナス…本来なら感涙すら起きうるが…今回は別…!
何も響かない…! 何も感じない…! ただただ、時間のムダ…!
――誰も祟らない――
否、祟らずにはいられない…!
――誰も呪わない――
否、呪わずにはいられない…!
――因果は全て私が受け止める――
否、受け止めきれない…! 今ここに新たな穢れが生誕している…!
和大雄からしてみればもう、ただの御託…! いいから進め…進まないから祟る、呪う、受け止められぬ……実を成してない御託…!
エピソードボーナスが終わる頃には既に40分……!
この後光悦至福の
(やめよう…もう……)
諦め、コールボタンを押し店員を呼ぶ和大雄…!
大勝には変わらないが腑に落ちない…! ムシャクシャする…!
数分後店員到着……! 液晶を見て仰天……!
(くっ……止めろっ……! 見るんじゃないっ……! 生殺しっ……! 死体に鞭だろっ……それっ……)
「お、お客様打たなくていいのですか?」
「ええ、もう時間ないし……会員カードもないですし……」
このホールには後日精算という条件付きで閉店時間延長サービスがある……!
が、それは持つ者のみが恩恵受ける仕組み……! 持たざる者はただ指を咥える事しか出来ない…!
「チッ……!……出せ…!」
「えっ…? 何を……!」
「出せ…身分所…10分ある……! 打って来い……!」
「はあ……?」
「やる……10分やる…!」
「やる…? やるって…? 店が……?」
「店じゃねぇ……オレだ……!オレが作ってやるっていってんだ……! だから打て…! 楽しんで来い……くそヒーロー……!」
「おじさん…! やさしいおじさん……!」
「行けっ…! 行けっ…! 打て、さっさと……!」
「ありがとうございますっ……! 忘れません……! このご恩は一生……!」
延命…! 心通う店員による配慮により延命する和大雄…!
どうあれ…こぎつける…再戦の機会…!
(戻って来たぜっ…! 悪魔めっ……!)
そして始まる最終決戦…開かれる究極対戦っ…!
(うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ…!)
ある意味桃源郷…!
飛ぶ…! 飛ぶ…! 敵が爪弾を108発連射するならこちらは1200発のオサレな本数を連射し、いなす……!
払う…! 払う…! 敵の攻めを……! 耐える…! 耐える…! 敵の怒涛を…! 叫ぶ…! 叫ぶ…! 屈しようと
だがそれは実らない…! 実らぬ蓄え……! 回らぬゲーム数……!
至福…! 至福…! 見るに耐えない至福……!
「お客様すいません、暗証番号はご本人様のご記入でお願いします…!」
(ちっ…うるせーなっ…いまそれ所じゃないんだよっ……!)
他を寄せ付けぬ極限状態が和大雄にとっての一生を一瞬に変えていた…!
◇
未練はあった…! だが仕方ない…!
世の中にはどうしようもない事はあるのだ……!
22時50分……! 閉店……!
そして和大雄の積み上げたコイン……その数一万枚(平成28年のコイン一万枚は現在の二十万円程度)
大勝成就……!
(ざまあみろ……! 文句あるまいっ……! 金持ちっ…! 一時的金持ちっ…!)
大勝を噛み締め、夜の街に駆け出す和大雄……!
その日のビールはキンキンに冷えていた……!
◇
「ひでぇ事を……! くっ…くっそ……! 見てろっ……! 店長…! 店長のヤロー……後悔させてやる…! 必ず……! 味わわせてやる……! 俺と同じ苦しみ…! 痛みを……!いつか…! いつか…! いつか……!」
後日……メダルを精算する為、また同じ店に向かった和大雄は、心のぜい肉とゆとりにより…脳が緩み…結局…爆散…!
自堕落に身を任せ……貢いでしまった……!
結果惨敗…! 圧倒的惨敗……!
とは言え……仕方ない…! 自分で打つと決めた事……! 自業自得……!
そうとも……!
閉ざされた明日へ…!
回胴黙示録マドカ――賭場に舞い落ちた肝汚太―― 和大雄 @qnpn
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