第四話 魔法少女三姉妹、日本滞在最後の思い出作り

 土曜日朝、十時頃。

「耕平くん、そんなに先々歩かなくても」

絵美は鶯色のカーディガンに、グレーのスカート。

「だってさ、固まって歩くのは恥ずかしいし」

耕平はデニムのジーパンに、黒地に白の英字がプリントされた半袖トレーナー。

「耕平ちゃんったら、シャイね」

マズアンは水玉模様の夏用セーターに黒のプリーツスカート。

「今日は晴れて良かったね。暑くなるのが欠点だけど」

クリュカはオレンジ色のチェック柄サロペット。

「絶好の秋晴れですね。昨晩の天気予報では、今日は午前中雨の予報だったはずですが」

バルルートはココア色の夏用ワンピース。

「ワタシ、晴れ女やからね」

里乃はピンク色セーターにベージュのキュロットスカート。

みんなそれほど派手ではない私服を身に纏い、平等宅から電車を乗り継いで三宮の繁華街へと向かっていく。

「クリュカちゃん達は、どこか寄りたい場所はあるかな?」

 絵美が尋ねると、

「あたし、映画を見に行きたぁーい。カナヨト王国には映画館がないから」

 クリュカが最初に希望を述べた。

「わたしも映画館での映画鑑賞というものを、一度体験しておきたいです」

「わたくしも。せっかくの機会だし」

 そんなわけで、みんなで三ノ宮駅近くの映画館へ。

「クリュカちゃん、見たい映画はどれかな?」

「あたし、これが見たーい! あたし達の国でも大人気だよ、これ」

 絵美に尋ねられると、クリュカは壁にいくつか貼られてあるポスターのうち、対象のものを指差す。

「えっ! あれが見たいの?」

 耕平は動揺した。

「耕平くん、かわいい女の子が大活躍するアニメ好きでしょう?」

 絵美は爽やかな表情で問いかけてくる。

「いや、俺は、べつに。守也が好きなだけで……」

 耕平は俯き加減で主張した。

「私も大好きなの。クリュカちゃんが見たがってることだし、せっかくだから見よう」

「ワタシもちょっと気になる。動物キャラ中心、イケメンショタもおるから大友受けは悪そうやね」

 それは、本日公開されたばかりの女児向け魔法もありのファンタジーギャグアニメだった。

「俺はこの辺で待っとくよ。チケット代の節約にもなるし。そもそも高校生が見るもんじゃないし」

 耕平は見る気には当然なれず。

「耕平お兄ちゃんも一緒にこの映画見ようよぅ。耕平お兄ちゃんの三倍くらいは年上に見えるおじちゃんも一人で入って行ったの見たよ。耕平お兄ちゃんは大和魂の日本人のくせに勇気が無さ過ぎるよ」

「仕方ない」

 クリュカに背中を押され、チケット売り場の方へ連れて行かれる。

「小中学生二枚、高校生四枚」

 絵美が代表して、お目当ての映画六人分のチケットを購入。受付の人がチケットと共に入場者全員についてくる、キラキラして可愛らしいおもちゃのペンダントをプレゼントしてくれた。

「クリュカちゃん、これあげるね」

「ありがとう♪」

 耕平は速攻クリュカに手渡した。クリュカが受け取ったものとは種類違いだった。

「クリュカもバルルートも映画が始まるまでに、おトイレ済ませておきましょうね」

「はーい」

「そうですね、マズアンお姉さん。映画一時間以上ありますし。お気遣いありがとうございます」

 こうしてクリュカとバルルートは一緒に最寄りの女子トイレへ。

「そういやコウヘイくん、小学生の頃、ド○えもんの映画一緒に見に行った時、途中でおしっこ行きたくなったのに我慢して漏らしたことがあったね」

 里乃はにっこり微笑みかける。

「あの、瀬木さん、思い出させないで。俺も、行って来るよ」

 耕平は決まり悪そうに、男子トイレへと向かっていく。

(耕平ちゃんったら、かわいいなぁ)

 マズアンはその様子を見て、にこにこ微笑んでいた。

 二分ほど後、三人とも同じようなタイミングでトイレから戻ってくると、

「はいどうぞ。落とさないように気を付けてね」

マズアンはチケット売り場向かいにある売店で購入した、ドリンク&ポップコーンを手渡してくれた。

「ありがとうございます。マズアンお姉さん」

「マズアンお姉ちゃん、ありがとう」

 バルルートとクリュカは喜ぶが、

「俺は、べつにいらなかったんだけど……」

 耕平はちょっぴり迷惑そう。それでも気遣ってくれたことに対する嬉しさは感じていた。

こうして六人、お目当ての映画が上映される5番スクリーンへ。薄暗い中を前へ前へと進んでいく。

「絵美ちゃん。周り、幼い女の子ばっかりだから、やっぱり、俺達は他の映画にした方が……」

「まあまあ耕平くん。気にしなくてもいいじゃない。たまには童心に帰ろう」

 耕平は否応無く、絵美に左手をぐいぐい引っ張られていく。

「昔と一緒の光景やね」

 里乃はその様子をすぐ後ろから微笑ましく眺める。

 真ん中より少し前の列の席で、耕平はクリュカと絵美に挟まれるようにして座った。座席指定なのでそうなってしまった。

(視線を、感じる)

 耕平は落ち着かない様子だった。

 他に五〇名ほどいた客、七割くらいは小学校に入る前であろう女の子とその保護者であったからだ。

上映時間八〇分ほどの映画を見終えて、

「とっても面白かったぁー。カナヨト王国でも放送したら人気出そう」

「わたしも愉快な気分になれましたよ」

「私もまた見に行きたいな」

クリュカとバルルートと絵美は大満足な様子で5番スクリーンから出て来た。

「思ったよりも良質な映画だったわ。耕平ちゃんもそう思うでしょ?」

 マズアンもお気に召されたようだ。

「まあ、思ったよりは……子どもの騒ぎ声がうるさかったけど」

「コウヘイくんも昔はあんな感じだったんよ。エミちゃんは大人しく見とったけど」

「そうだったかな?」

 里乃に突っ込まれ、耕平はちょっぴり照れた。

「私、子ども向けアニメ大好き。アン○ンマンとかド○えもん、今でも毎週欠かさず録画もして見てるもん」

「絵美お姉ちゃん、あたしと一緒だぁ。そのアニメ、カナヨト王国でも放送されてて大人気だよ」

「わたくしも子ども向けのアニメ今でもけっこう好きよ。そろそろ正午だから、お昼ごはん食べましょう」

マズアンはスマホの時計を眺め、提案した。

 こうして皆は、近くの大型デパート内のレストラン街へ向かい、

「ここがいいな」

 クリュカの希望したファミリーレストランへ入店する。

「六名様ですね。こちらへどうぞ」

店内に入ると、ウェイトレスに六人掛けテーブル席へと案内された。

バルルートと絵美を真ん中に、マズアンと里乃、クリュカと耕平が向かい合う形で座ると、里乃がメニュー表を手に取りテーブル上に広げる。

「ワタシ、スープカレーにする!」

「瀬木さん、相変わらず辛い物好きだな。俺は、月見うどんで」

「耕平くん、渋い。私はクリームシチューとパンのセットにしよう」

「あたしは、お子様ランチ♪ お飲み物はミックスジュース!」

「クリュカ、もう十代になったんだから、そろそろお子様ランチは卒業しなきゃ。わたくしは奮発して三田牛ステーキ定食にしよっと」

「わたしは、鰻定食にしますよ」

 他の五人もすんなりとメニューを決めた。

「みんな決まったね。ワタシが注文するよ」

 里乃がコードレスチャイムを押し、ウェイトレスに注文する。

それから五分ほどして、

「お待たせしました。お子様ランチでございます。それとお飲み物のミックスジュースでございます。はいお嬢ちゃん。ではごゆっくりどうぞ」

 クリュカの分が最初にご到着。イルカさんの形をしたお皿に日本の国旗の立ったチャーハン、プリン、タルタルソースのたっぷりかかったエビフライ、ハンバーグステーキなど定番のもの。その他お惣菜がバリエーション豊富に盛られ、おまけには可愛らしいパンダさんのストラップが付いて来た。

「……ワタシのじゃ、ないんやけど」

 里乃の前に置かれてしまった。里乃は苦笑する。

「あらまっ、里乃ちゃんが頼んだように思われちゃったのね」

 マズアンはくすくす笑う。

「里乃ちゃん、若手に見られてるってことだから、気にしちゃダメだよ」

「あのウェイトレスさん、里乃お姉ちゃんがあたしと同い年くらいに見えたのかなぁ?」

クリュカは少し申し訳なさそうに、お子様ランチを自分の手前に引っ張った。

(ウェイトレス、どっちか悩んでたよな)

 耕平は笑いを堪えていた。

「……確かにワタシ、一六歳だけど小学生に見えるよね」

 里乃は内心ちょっぴり落ち込んでしまった。

さらに一分ほど後、他の五人の分も続々運ばれてくる。

 こうして六人のランチタイムが始まった。

「エビフライは、あたしの大好物なのーっ♪」

 クリュカはしっぽの部分を手でつかんで持ち、大きく口を開けて豪快にパクリと齧りつく。

「美味しいっ♪ 日本のエビフライは最高だよ」

 その瞬間、とっても幸せそうな表情へと変わった。

「モグモグ食べてるクリュカちゃんって、なんかキンカンの葉っぱを食べてるアオムシさんみたいですごくかわいいね」

「クリュカ、あんまり一気に入れすぎたら喉に詰まらせちゃうかもしれないですよ」

絵美とバルルートはその様子を微笑ましく眺める。

「クリュカちゃん、ワタシが食べさせてあげる。はい、あーんして」

 里乃はお子様ランチにもう一匹あったエビフライをフォークで突き刺し、絵美の口元へ近づけた。

「ありがとう、里乃お姉ちゃん。でも、食べさせてもらうのはちょっと恥ずかしいな」

 クリュカはそう言いつつも、結局食べさせてもらった。

「耕平くん、育ち盛りだし月見うどんだけじゃ足りないでしょう? 私のも分けてあげるよ。はい、あーん」

 絵美はクリームシチューの中にあったチキンの一片をフォークで突き刺し、隣に座る耕平の口元へ近づけた。

「いや、いいから」

 耕平は困惑顔を浮かべ、昨日の昼食時と同じく左手を振りかざして拒否。右手で箸を持ち、麺を啜ったまま。

「あーん、今日もダメかぁ」

 絵美は微笑み顔で嘆く。でも嬉しそうだった。

「あらあら、失敗しちゃったわね」

「耕平お兄さん、お顔は赤くなっていませんが、照れていますね」

「コウヘイくん、一回くらいやってあげなよ」

 マズアン、バルルート、里乃はにこにこ笑いながらそんな彼を見つめた。

「出来るわけないだろ」

 耕平は苦笑いしながら伝え、引き続き麺をすする。

「赤ちゃんみたいで、恥ずかしいもんね」

 クリュカは耕平の気持ちがよく分かったようだ。

昼食を取り終え、レストランから出た直後。

「あの、私、おトイレ行きたい」

 絵美はもじもじしながら伝える。

「ワタシもちょうど行きたいと思ってたんよ」

「あたしもー。漏れそう」

「わたしも、急に行きたくなって来てしまいました」

「わたくしも」

 他の四人も同調した。

「じゃあ荷物、見張っててあげるよ」

 耕平は優しく気遣う。

「サンキュー、コウヘイくん。さすが男の子、頼りになるね」

「ごめんね耕平くん、すぐに戻ってくるから」

「申し訳ないです」

「耕平お兄ちゃん、ありがとう」

「耕平ちゃん、ここから動いたらダメよ。迷子になっちゃうから」

 五人は安心して荷物を耕平に預け、最寄りの女子トイレへと向かっていった。

(余計なお世話だ、マズアンちゃん)

 耕平は受け取ったリュックサックや鞄を自分の側に固め、近くの長椅子に腰掛ける。

(早く、戻って来ないかなぁ)

 待っている間、そわそわしていた。

「お待たせー、耕平くん」

「大変お待たせしました耕平お兄さん」

「混んでて思ったより時間かかっちゃったんよ」

「耕平ちゃん、よく出来たね」

「耕平お兄ちゃん、悪い人に誘拐されてなくて良かった」

五分ほど待って全員戻ってくると、耕平はホッと一安心。彼もトイレに行って来た後、

「あのう、わたし、どうしても寄っておきたいお店があるのです。日本橋のでんでんタウンへは行きそびれたので」

バルルートの希望により、センター街に佇むアニメショップに立ち寄ることにした。

発売中または近日発売予定のアニメソングBGMなどが流れる、賑やかな店内。

 この六人と同い年くらいの子達は他にも大勢いた。

「やはりわたし達が住んでいる街のアニメ専門店『アニシャバダント』と比べると、品揃いが豊富ですね。長居すると腐女子化しちゃいそうです」

 バルルートは嬉しそうに店内を散策する。

「お店の名前を見るとアニメグッズしか売られてなさそうだけど、お菓子もいっぱい売られてるね」

「お菓子もアニメグッズの一種だと思うよ。あたし、一〇個中八個が激辛のキャンディー買おうっと!」

 マズアンとクリュカもけっこう楽しそうにしていた。

「バルルちゃん達が住んどる国でもアニメキャラの中の人、声優さんはやっぱ人気あるん?」

 里乃はこんな質問をしてみる。

「はい、日本と同様熱心なファンもたくさんおられますよ。ただ、カナヨト王国では当然のことながら、生の声優さんと触れ合える機会はありません。声優さんのイベントに参加出来るのは羨ましい限りです」

 バルルートがやや残念そうに呟くと、

「ワタシ、声優さんのイベントはそんなに魅力は感じないんよ。特に女性声優の場合、客はディープな男の人ばっかりで怖いから」

 里乃は苦笑いを浮かべながら伝えた。

「ああいうの、男の俺から見ても怖いよ。守也がよく見てる、ライブイベントのブルーレイで声優さんが挨拶する度に、うをおおおおおーっ、とかオットセイみたいに叫んで、声優さんが歌ってる時はうぉうぉ叫びながらペンライトぶんぶん振り回してすごい激しく踊ってる集団」

「私は恥ずかしがり屋さんだし怖がりだから、声優さんは絶対無理だなぁ」

 耕平と絵美も苦笑いを浮かべる。

「ワタシも無理や。でもアフレコ体験だけはしてみたいよ」

「話を聞く限り、声優さんのイベントはけっこう過酷そうですね」

 バルルートは声優さんとイベントの参加者に尊敬の念を抱いたようだ。

「あっ!」

耕平はラノベコーナーにいた誰かに気が付き、近寄っていく。

「おう、耕平ではないかぁ。奇遇であるな」

 守也であった。

「守也、ラノベ大人買いだな。俺はラノベの表紙のキャラクター、全部同じに見えるんだけど」

 耕平は平積みにされている新刊を眺めながら呟く。

「耕平、全く違うではないかぁ。まだまだ学習不足であるな。これらのキャラの見分けが簡単につくようになれば、これから習う、似たようなのが多い三角関数の公式や、有機化合物の化学式や性質を暗記するのも楽に出来るようになるぜ」

 守也はにっこり笑顔で言う。

「教科の勉強とこれとは全く関係ないだろ」

 耕平は呆れ顔だ。

「やぁ、モリヤくん、やっぱりいたね」

「こんにちは、守也くん」

 里乃と絵美は嬉しそうにご挨拶。

「どっ、どうも」

 この二人にまさかこの店でぱったり出会うとは、と守也は思っていた。

「あーっ、お相撲さんがいるぅ。ねえねえ、お兄ちゃんの四股名は何って言うの? 出身地と所属部屋はどこ? 番付の最高位は? 通算成績は何勝何敗何休?」

 クリュカも守也の姿に気付くと、彼の側にぴょこぴょこ近寄っていく。

「いや、オレ、お相撲さんではぁ」

 守也はかなり緊張気味に否定した。彼の心拍数、ドクドクドクドク急上昇。小学生くらいの現実の女の子は特に苦手なのだ。

「この子が耕平ちゃんのお友達かぁ。とっても大きいわね」

「両国にいそうな感じですね」

 マズアンとバルルートはにこにこ微笑む。

「耕平、あの二次元美少女みたいなやつらは一体?」

 守也は驚き顔。

「母さんの知り合いの海外からのお客様だ。訳あって今、俺んちにホームステイしてるんだ」

 耕平は守也が混乱しないよう、こう嘘の内容も伝えておく。

「そういうことであったか。耕平んち元民宿だから広いもんな。では耕平、またな」

 守也は居心地が悪くなったのか、そそくさ店をあとにした。

「モリヤくん逃げちゃったね」

 里乃はにこっと笑った。

「早く帰らないと門限に間に合わなくて親方に叱られちゃうのかな?」

「クリュカ、さっきのお方は体こそ力士サイズですが普通の高校生、いわば耕平お兄さんのお友達ですよ。本物のお相撲さんは今、明日から秋場所なので東京の両国周辺にいるはずです」

「そっか。よく考えたらそうだよね。ねえ、次はゲームセンターへ行こう。日本のゲームセンター、一度行ってみたーい」

 クリュカは強く懇願した。

そんなわけでみんなはこのあと、近くのファミリー向けアミューズメント施設へ立ち寄った。

「いとうるさいですね。落ち着かないです」

 バルルートの第一感想。苦笑顔を浮かべる。

「やっぱりカナヨト王国のゲームセンターよりも豪華で賑やかね。プリクラも種類が豊富だし。みんなで記念に取りましょう」

「いいですねマズアンお姉さん」

「撮ろう、撮ろう」

「私、プリクラ撮るの久し振りだな」

「ワタシもや」

 女の子五人はいくつかあるうち最寄りのプリクラ専用機の前へ近寄っていく。

「耕平くん、いっしょに写らないの?」

「絵美ちゃん、状況的に考えて俺は写らない方がいいだろ。俺も写りたくないし」

「耕平ちゃん、女の子五人の中に男の子一人だからって恥ずかしがらなくてもいいのよ」

「耕平くんも写ろう」 

「コウヘイくん、高校時代の思い出作りになるから、一緒に写ろうや」

「耕平お兄さん、お願いします。耕平お兄さんが仲間はずれになっちゃいますし」

「いや、いいって」

 耕平は気が進まなかったが、

「耕平お兄ちゃんもいっしょに写ろうよぅ」

「分かった、分かった」

クリュカに腕や服を引っ張られたりしがみ付かれたりすると断り切れなかった。

みんなはプリクラ専用機内に足を踏み入れると前側に三姉妹、後ろ側に耕平達三人が並ぶ。背の高いマズアンは前かがみになってあげた。

「このパンダさんと写れるやつがいい!」

クリュカの選んだフレームに他のみんなも快く賛成。

「一回五百円か。けっこう高いな」

耕平はこう感じながらも気前よくお金を出してあげた。

 撮影&落書き完了後、

「おう、めっちゃきれいに撮れてるやん!」

 取出口から出て来たプリクラをじっと眺める里乃。自分が見たあと他のみんなにも見せてあげた。

「画質も最高ね」

「学校のお友達に自慢しよっと」

 マズアンとクリュカは大満足な様子。

「瀬木さん、耕平くんとデート、ハートマークとかって落書きしないで」

 耕平は迷惑顔を浮かべる。

「いいじゃん、コウヘイくん、ほとんど事実なんだし」

 里乃はてへっと笑い、舌をペロッと出した。

「バルルートちゃんは、表情がちょっと硬いね」

「ほんまやー。なんか弁護士みたい」

 絵美と里乃の突っ込み。

「あれれ? 笑ったつもりなんだけどな。わたし、生徒証の写真はもっと表情硬いですよ」

 バルルートは照れくさそうに打ち明ける。

「私も生徒証の写真はそんな感じだよ」

「ワタシも生徒証の写真は表情めっちゃ硬いよ。睨んでるような感じや」

 絵美と里乃がさらりと打ち明けると、

「絵美お姉さんと里乃お姉さんも同じなのですね、よかった」

 バルルートに笑みが浮かぶ。

「あたし、次はこれがやりたいなぁ」

 クリュカはプリクラ専用機すぐ向かいの筐体前に移動していた。

「クリュカちゃん、動物さんのぬいぐるみが欲しいんだね?」

「うん!」

 絵美からの問いかけに、クリュカは笑顔で嬉しそうに答える。クリュカがやりたがっていたのはお馴染みのクレーンゲームであった。

「動物さんのぬいぐるみは特にかわいいもんね」

 絵美は同調する。

「あっ! あのピグミーマーモセットのぬいぐるみさんとってもかわいい! お部屋に飾りたぁい」

 クリュカは透明ケースに手の平を張り付けて、大声で叫んだ。

「クリュカ、あれは隅の方にあるし、他のぬいぐるみさんの間に少し埋もれてるから、難易度はかなり高いわよ」

「大丈夫! むしろ取りがいがあるよ」

 マズアンのアドバイスに対し、クリュカはきりっとした表情で自信満々に言った。コイン投入口に百円硬貨を入れ、操作ボタンに両手を添える。

「クリュカちゃん、頑張れーっ」

「クリュカちゃん、ファイトやっ!」

「クリュカ、慎重にね」

「クリュカ、落ち着いてやれば、きっと取れますよ」

「頑張れよ」

 他の五人はすぐ後ろ側で応援する。

「みんな応援ありがとう。あたし、絶対取るよーっ!」

クリュカは慎重にボタンを操作してクレーンを動かし、お目当てのぬいぐるみの真上まで持っていくことが出来た。

 続いてクレーンを下げて、アームを広げる操作。 

「あっ、失敗しちゃった」

 ぬいぐるみはアームの左側に触れたものの、つかみ上げることは出来なかった。

クリュカが再度クレーンを下げようとしたところ、制限時間いっぱいとなってしまった。クレーンは自動的に最初の位置へと戻っていく。

「もう一回やるもん!」

 クリュカはとっても悔しがる。お金を入れて、再チャレンジ。しかし今回も失敗。

「今度こそ絶対とるよ!」

この作業をさらに繰り返す。

クリュカは一度や二度の失敗じゃへこたれない頑張り屋さんらしい。

けれども回を得るごとに、

「全然取れないよぅ」

 クリュカは徐々に泣き出しそうな表情へ変わっていく。

「あのう、クリュカ、他のお客さんも利用するので、そろそろ諦めた方がいいかもです」

 バルルートは慰めるように忠告したが、

「嫌だぁっ!」

 クリュカは諦め切れない様子。ぷくぅっとふくれる。

「気持ちは分かるのですが……わたしも一度やると決めたことは、最後までやり遂げたいですから」

 バルルートは深く同情する。

「このままだとクリュカちゃんかわいそう。ねえ耕平くん、取ってあげて」

絵美が肩をポンッと叩いて命令してくる。

「でも、俺も、クレーンゲーム得意じゃないし。真ん中ら辺のカバのやつはなんとかなりそうだけど、あれはちょっと無理だな」

 耕平は困惑顔で呟いた。

「ねーえ、耕平お兄ちゃん、お願ぁい!」

「……わっ、分かった。取ってあげる」

 クリュカに寂しがる子犬のようにうるうるとした瞳で見つめられると、耕平のやる気が急激に高まった。クレーンゲームの操作ボタン前へと歩み寄る。

「ありがとう、耕平お兄ちゃん。大好き♪」

 するとたちまちクリュカのお顔に、笑みがこぼれた。

「さすが耕平くん、男の子だね」

「コウヘイくん、きみの判断は正しいよ」

「耕平お兄さん、心優しいですね」

「耕平ちゃん、たとえ失敗したとしてもその心意気は高く評価するわ」

 他の四人も、彼に対する好感度が高まったようだ。

(まっ、まずい。全く取れる気がしないよ)

 耕平の一回目、クリュカお目当てのぬいぐるみがアームにすら触れず失敗。

「耕平お兄ちゃんなら、絶対取れるはず♪」

 背後からクリュカに、期待の眼差しでじーっと見つめられる。

(どっ、どうしよう)

 当然のように、耕平はプレッシャーを感じてしまう。

「耕平くん、頑張れーっ!」

「コウヘイくん、ドンマイ!」

「耕平お兄さん、ご健闘を祈ります!」

「耕平ちゃんなら、きっと成し遂げられるわっ!」

(よぉし、やってやろう!)

 他の四人からの声援を糧に耕平は精神を研ぎ澄ませ、再び挑戦する。

 しかしまた失敗した。アームには触れたものの。

けれども耕平はめげない。

「耕平お兄ちゃん、頑張ってーっ。さっきよりは惜しいところまでいけたよ」

 クリュカからも熱いエールが送られ、

「任せてクリュカちゃん。次こそは取るから」

耕平はさらにやる気が上がった。

 三度目の挑戦後。

「……まさか、本当にこんなにあっさりいけるとは、思わなかった」

 取出口に、ポトリと落ちたピグミーマーモセットのぬいぐるみ。

耕平は、クリュカお目当ての景品をゲットすることが出来た。ついにやり遂げたのだ。

「やったぁ! さすが耕平お兄ちゃん! だぁぁぁーい好き♪」

 クリュカは大喜びし、バンザーイのポーズを取った。

「耕平くん、おめでとう! 三度目の正直だね」

「耕平お兄さん、大変素晴らしいプレイでしたね」

「コウヘイくん、ワタシ感動したよ」

「耕平ちゃん、よく出来ました」

 他の四人もパチパチ拍手しながら褒めてくれる。

「たまたま取れただけだよ。先にクリュカちゃんが、少しだけ取り易いところに動かしてくれたおかげだよ。はい、クリュカちゃん」

 耕平は照れくさそうに伝え、クリュカに手渡す。

「ありがとう、耕平お兄ちゃん。ピグマモちゃん、こんばんは」

 クリュカはさっそくお名前をつけた。受け取った時の彼女の瞳は、ステンドグラスのようにキラキラ光り輝いていた。このぬいぐるみを抱きしめて、頬ずりをし始める。

「クリュカちゃん、幸せそうだね」

 絵美はにこやかな表情で話しかけた。

「うん、とっても幸せだよ」

 クリュカは恍惚の笑みだ。

「クリュカ、観光以外でも楽しい思い出が出来てよかったね」

 マズアンは優しく微笑み、クリュカの頭をなでてあげた。

 その時、

「アタシもめっちゃ感動したよー」

 背後から拍手音と共にこんな声が――。

「あっ、ジルフちゃんじゃないですか」

「ジルフマーハお姉ちゃん、二日振りだね」

「またいきなりの登場ね」

 三姉妹はくるりと振り向く。

ジルフマーハは涙をぽろぽろ流していた。

「この子が、ジルフマーハちゃんか。鮮やかな赤毛だね」

「ワタシよりちっちゃくてかわいい子やね。まだ小学生かな?」

 絵美と里乃は興味深そうにお顔を見つめた。

「惜しい、中一なんよ」

 ジルフマーハはてへりと笑う。

(日本人基準でも、小柄な方だよな)

 耕平もちらっと眺め、こんな第一印象を持った。

「アタシの風魔法使ったら、一発で簡単に取れるから助けてあげようと思ってんけど、それはあかんよなぁって思ってやめたんよ」

 ジルフマーハがこう打ち明けると、

「えらいですジルフちゃん、なんでも魔力に頼るのは良くないですからね」

 バルルートは大いに褒めてあげた。

このあとはみんなで神戸市内の観光名所、南京町と異人館を訪れたのであった。

夕方、地元最寄り駅に戻って帰り際。

「今日もすっごく楽しかったぁー。作文に書けることがたくさん出来たよ」

「今回の日本視察では、現地の人々の暮らしにも密着出来て大満足です」

「この四日間、とっても貴重な体験をさせてもらったわ」

「大阪神戸は蒸し暑過ぎるのはネックやけど、予想以上におもろい街やった。このこと話したらカヤロンきっと後悔するわ」

 三姉妹とジルフマーハはご満悦な様子で伝える。

「みんな今日帰っちゃうのは残念だよ。またいつか絶対来てね」

「日本まで片道四日もかかるようやから無理は言わんけど、一年以内には来て欲しいよ」

「俺も、これで会えなくなるのは寂しい」

 絵美達三人は名残惜しそうにしていた。

「もちろん来るよ、絵美お姉ちゃん、里乃お姉ちゃん、耕平お兄ちゃん。楽しみに待ってて」

「カナヨト王国の学校の冬休みは十日ほど、春休みは一週間ほどしかしないので無理ですが、来年の夏休みには絶対来ますよ」

「なるべく訪れるから、悲しまないでね」

「アタシも絶対行くから、みんな楽しみに待っといてな」

 三姉妹とジルフマーハは固く誓う。彼女達の目が、ちょっぴり潤んでいた。やはり別れを寂しく思っていたのだ。

「クリュカ、飛行船はちゃんと無くさず持ってるかな?」

 バルルートが確認を取ると、

「もっちろん」

 クリュカはそう言って、例の圧縮された飛行船をリュックから取り出そうとした。

「あれ?」

 クリュカは目が点になった。

「クリュカ、無くしちゃったとか?」

「いや、あるにはあるんだけど……ぺっちゃんこ。潰れちゃった」

 取り出して恐る恐るバルルートの目の前にかざす。

 上からぐしゃっと押し潰されたような感じで、庵の形が原形を留めていなかったのだ。

「これは、修復不可能っぽいですね」

 バルルートは苦笑いを浮かべた。

「見事に全壊だな」

「これ、やばいんやない?」

「魔法で直せないのかな?」

 耕平達三人は心配そうに見つめる。

「大丈夫よ。わたくし得意の修復魔法で直すから」

 マズアンはそう言ってハンカチをかけた。

 五秒くらいして外したのち、

「あらら? 全く変わってないわ」

 不思議そうに、壊れたままの圧縮飛行船を見つめた。

「わたしが、やってみますね」

 続いてバルルートが挑戦。両手をかざしてみる。

「やはり自然のものじゃないと、無理みたいです」

 またも失敗。バルルートは困惑顔を浮かべる。

「アタシの魔法なら、何とかなるかも。そりゃっ!」

 ジルフマーハも手をかざし、修復魔法をかけてみる。

 けれども同様に全く変化はなかった。

「機能が複雑過ぎて、アタシの魔法でも直せんわ」

 ジルフマーハは申し訳無さそうに伝える。

「こんな時は、パパを呼べばなんとかなるよ」

 クリュカは落ち着いた様子だった。

「そうか。その手があったわね」

 マズアンはすぐさま父にスマホで連絡を取る。

『自家用機は今、友人に貸してるんだ。だから公共交通機関を使って迎えに行くよ。今から出れば日本時間の明日朝に着く便には間に合うな』

他にもいろいろ伝えられ、日本時間明日の朝、関空に到着するとのことだった。

「耕平お兄ちゃんちにもう一泊出来るね」

 クリュカだけでなく、

「私もお別れが一日伸びて、嬉しいよ」

「なんか、意表をつかれた感じや」

 絵美と里乃も大喜びした。

「耕平お兄さん、申し訳ございませんが、もう一晩だけお世話になってよろしいでしょうか?」

「まあ大丈夫だろうけど、姉ちゃんが許してくれるかな?」

「アタシは、今日もビジネスホテルに泊まるから。ほな明日、関空で」

 ジルフマーハはそう伝えて、転送魔法の呪文を唱えようとしたら、

「えーっ、ジルフマーハお姉ちゃんも一緒がいーい!」

 クリュカに服を引っ張られる。

「ジルフちゃん、日本滞在最後の夜ですから、わたし達と一緒に泊まりましょう」

 バルルートも強く誘った。

「うーん、まあ、コーヘイ兄さんちが安全なことは確証出来たし、ホテル代も節約出来るし、泊まってあげても、いいかにゃ」

 ジルフマーハはてへへと笑う。じつは泊まりたかったらしい。

「耕平ちゃん、この子も泊めてもべつにいいわよね?」

 マズアンににこやかな表情で問われ、

「うーん、どうだろ? たぶん大丈夫だとは思うけど」

 耕平は若干困惑気味。

 午後六時頃に帰った後、耕平は三姉妹を迎えに来てくれる父親の到着が予定より遅れて明日になるからもう一泊だけ泊めて欲しいと伝え、飛行船のこと云々は隠しておいた。

すると、

「もちろんオーケイよ」

「いつまででもいていいぞ」

両親は快く賛成。

「そういうことなら、仕方ないわ。ていうか、一人増えてるんだけど……父さんも母さんも突っ込みなし?」

 香子も認めてくれたが、ジルフマーハをちらっと睨む。

「どうも初めまして、コウヘイ兄さんのお姉さん、おじちゃんおばちゃん。アタシ、バルルの竹馬の友のジルフマーハでーす! 趣味はお絵描き、好きな言葉は全身全霊です」

 ジルフマーハはにこやかな笑顔で自己紹介した。

「あっそう」

 香子は呆れ顔で軽くあしらう。

「こちらこそよろしくね、ジルフマーハちゃん」

「この子も可愛らしい子だな」

 両親は爽やかな表情で会釈した。

「今夜はうち、友達と漫研サークルのお泊り会でおらんけど、耕平に何かしたら承知せんからねっ」

 香子はニカッと笑って忠告する。

「香子お姉さん、明日はいつ頃お帰りになるのでしょうか?」

「夜遅くよ。十時は過ぎるかな」

「それだと、わたし達とはこれで最後のお別れになりますね。香子お姉さん、このたびは大変お世話になりました」

「ばいばい、香子お姉ちゃん」

「わたくし、香子ちゃんと遊べて、すごく楽しかったわ」

 三姉妹は少し寂しそうな表情。

「うちはすごく嫌やったわ。それじゃぁ、うち、そろそろ行くから」

香子は苦笑顔でこう告げて、家を出て行った。

六時五五分頃。テレビで近畿地方の天気予報が流れると、

「今夜は大雨かぁ。でも明日未明には上がるみたいでよかったわ」

「星空が楽しめないのは残念です」

「雨は嫌だよねー。雪は大好きだけど」

「湿度も高くなるもんね。アタシべとべとなん苦手や」

 三姉妹とジルフマーハはやや不満そうに反応した。

 けれども夕食時にはすっきりとした気分へ。今夜は焼き肉。

「カナヨト王国の焼肉の肉は、羊がメインやねんで」

 明るい子が一人増えて、昨日よりも賑やな団欒に。

 耕平は、今日は三姉妹とジルフマーハのあとに入浴した。

 けれども、

「耕平ちゃん、こんばんはー」

「こんばんはです」

「耕平お兄ちゃん、やっほーっ!」

 三姉妹、

「失礼するね、コーヘイ兄さん」

さらにはジルフマーハまで入り込んで来た。耕平に裸を見せるのはやはり恥ずかしいようで、マズアン、バルルートと同じくスクール水着姿だった。

「あのう、今日はみんな先に入っただろ?」

 湯船に浸かってくつろいでいた耕平は当然のように迷惑顔を浮かべるが、

「また汗をかいたので、二度風呂しようと思いまして」

「日本はお風呂の国だもんね」

「今夜は香子ちゃんいないから、思う存分楽しめるわね」

「コーヘイ兄さん、アタシ達は家族同然やん。かたいこと言わんといてーな」

 三姉妹もジルフマーハもお構いなし。

「俺はもう出るから」

「ねえ耕平ちゃん、絵美ちゃんとキスしたこと本当にないの?」

「ないに決まってるだろ」

 マズアンに唐突にこう質問され、耕平はやや照れくさそうに否定する。

「あらら、十年以上も付き合ってるみたいなのに勿体無い」

「べつに付き合ってるわけじゃないって。単なる幼馴染なだけだから」

「耕平お兄さん、男の子にとっての女の子の幼馴染というのは、日本ではお互い仲が良いのは幼少期くらいのもので、思春期を迎える頃には敬遠疎遠されるのが一般的なのでしょう? 耕平お兄さんはラブコメマンガやギャルゲー、ラノベの設定みたいに恵まれているのですから、絵美お姉さんを大切にしてあげなきゃダメですよ」

「それは、分かってるけど……」 

 バルルートの力説に、耕平が迷惑顔で呟いたその時、ガラガラッと出入口扉が開かれ、

「こんばんはー耕平くん、お部屋越しに今からみんなで入ると伝えられて来ちゃった♪」

 絵美も二日振りに訪問。バスタオルは肩の辺りから膝下までしっかり巻かれていたが、

「絵美ちゃん、困るよ」

 やはり耕平はとても気まずく感じ、即効湯船から上がって浴室から逃げていった。

「耕平ちゃん、この様子じゃ絵美ちゃんの仲がこれ以上なかなか進展しそうにないわね」

 マズアンはにこっと微笑みながら見送る。

「なんで逃げるんだろう?」

 絵美は不思議そうにしていた。

「やっほーエーミン」

「こんばんは、ジルフマーハちゃん」

「エーミン、じつは、一昨日トイレットペーパーあげたんも、昨日お膝の怪我治してあげたんもアタシなんよ」

「そうだったんだ! あの時はありがとう。本当に助かったよ」

「いやいや、どういたしまして」

「お礼にお背中流すよ」

「メルシー、エーミン」

「絵美お姉ちゃん、今日はお船で遊ぼうね」

 クリュカが近寄って来てお願いすると、

「うん」

 絵美は快く応じてあげる。

「クリュカン、アタシが泡系の魔法見せたげるぅ。名付けてバブルケーキ。日本ではもう二度とやって来ないであろうあの豊かな時代のことじゃないよ」

 ジルフマーハはシャンプーやボディソープに向けて、両手をかざす。

 すると泡が押さずとも出て来てやがて、ザッハトルテやモンブランのような、いわゆるケーキの形になった。

「ジルフマーハお姉ちゃん、すごーい。美味しそう」

「私も食べたーい。羨ましいな、こんな魔法が使えるなんて」

 このあとは三姉妹とジルフマーハと絵美、五人で楽しく入浴タイム。


 午後十時半頃、耕平が自室の机に向かい古文の宿題に取り組んでいたところ、

「耕平ちゃん、今晩はわたくし達のお部屋で一緒に寝ましょうね」

「コーヘイ兄さん、蒸し暑い夜をより蒸し暑く過ごそうぜ」

 三姉妹とジルフマーハがノックもせずに入り込んで来て誘ってくる。

「いいって」

 耕平は断るが、

「耕平お兄ちゃん、せっかくのチャンスなんだよ」

「コーヘイ兄さん、頼むよ」

クリュカとジルフマーハにぐいぐい手を引かれ、

「耕平お兄さん、最後の思い出ですから。香子お姉さんもいないことですし、鬼の居ぬ間に洗濯です」

バルルートに背中を押され強制的に連れて行かれてしまった。

「耕平ちゃんの香りがするわ。良い匂い」

 マズアンは耕平の普段使っているお布団一式を運ぶ。

「あの、みんな、暑いのは分かるけど、もう少し露出を減らして」

 三姉妹もジルフマーハもノースリーブシャツとショーツだけの下着姿で、耕平は困惑する。スズムシのために今日もクーラー魔法を控えたのだ。

「申し訳ございません。目の毒ですよね」

 バルルートはぺこんと頭を下げる。彼女だけはこのあとすぐにパジャマを着てくれた。

「あたしは日本の蒸し暑さにもだんだん慣れて来たよ。ねえ耕平お兄ちゃん、あたしと一緒に寝て欲しいな」

 クリュカが突然こんなことをお願いして来て、袖をぐいぐい引っ張って来た。

「ダッ、ダメだよ」

 耕平は困惑顔で浮かべ、きっぱりと断った。

「あーん、お願ぁい」

 クリュカは駄々をこね、耕平の肩を掴んで体を揺さぶる。

「耕平お兄さん、一緒に寝てあげて下さい」

「耕平ちゃん、せっかくの機会だし、寝てあげて」

「コーヘイ兄さん、クリュカンはお兄ちゃんを欲しがってた甘えん坊さんやから、願い叶えてあげなよ」

 他の三人も要求してくる。

「無理に決まってるだろ。クリュカちゃん、悪いけど、諦めて」

耕平は少し照れ気味に、申し訳無さそうにお願いする。

「あーん、耕平お兄ちゃんのケチィィィッ」

「あのう、クリュカちゃん、痛いから」

 クリュカは迷惑がる耕平の肩を構わずこぶしでドンドンドンと叩き続ける。

その最中だった。

窓の外に、ピカピカピカッとジグザクに走る稲光が見えた。

その約二秒後、

ドゴォゴォーン! と強烈な爆音が鳴り響く。

「おう、雷様の到来や」

 ジルフマーハは思わず呟いた。

「びっくりしたぁー。こっ、耕平お兄ちゃぁん。さっきの雷さん、もの凄かったね。近くに落ちたのかも……」

「あっ……あの、クリュカちゃん」

 耕平はかなり気まずい心境に陥る。クリュカが耕平の腕にコアラのようにしがみ付いて来たのだ。

「ごめんなさい耕平お兄ちゃん、あたし、今でも雷さんが怖いのぉ」

 クリュカは顔をこわばらせ、プルプル震えていた。

「そっ、そうだったんだ」

 耕平は意外に思った。

 その直後、

ズダァァァッン、バリバリバリビッシャーン! と耳を劈くようなさらに強烈な雷鳴が轟いた。

「耕平お兄ちゃぁん、怖いようぅぅぅぅ」

 クリュカはさらに強くしがみ付いてくる。

「いっ、痛いよクリュカちゃん」

 耕平は苦笑する。

「クリュカ、まだ雷嫌いなのね」

「クリュカン、屋内やから安心しーや」

 マズアンとジルフマーハは優しく微笑み、クリュカの頭をなでてあげた。

「カナヨト王国でも、雷は発生するのか?」

 疑問を浮かべた耕平に、

「はい、年に五、六回程度は鳴りますよ。あの、耕平お兄さん、じつはわたしも雷さんが怖いのです」

 説明したバルルートも強くしがみ付いてくる。今にも泣き出しそうな表情をして声も震えていた。

 雷はまだ、数十秒おきに鳴り続けていた。

 ザーザー雨脚も急に強くなってくる。

「二人ともずるいわ。わたくしもー」

「アタシもコーヘイ兄さんと遊ぶぅ」

 マズアンとジルフマーハまで加担して来た。この二人は状況を楽しんでいる様子だ。

「みんな、密着しないで。暑苦しいって」

今、耕平の右腕にクリュカ、左腕にマズアン、右膝にバルルート、左膝にジルフマーハが抱きついている。耕平は自由に身動きが取れない状態になっていた。

「夜は雷雨になるって予報、当たっちゃったみたいね」

「寒冷前線の通過によるものだから、すぐに治まってくれるとは思うんだけど、怖ぁい」

「日本の八百万の神様、お願いですから雷さんを、早く治めて下さい」

「コーヘイ兄さんが炭素原子、アタシら四人が水素原子でメタンごっこ♪」

 大きな雷鳴が轟く度、三姉妹とジルフマーハは耕平の体に強く密着してくる。

「あっ、あの。すごく痛いから、あまりきつく締め付けないで。というか正直、早く退いて欲しい」

 こんなハーレム的状況でも、耕平は嬉しさよりも苦しさの方が遥かに強く感じていた。

 鳴り始めてから十分少々もすると、雨と雷は小康状態になった。

「耕平お兄さん、ありがとうございました。もう平気です」

「耕平お兄ちゃんの腕、すごく柔らかかったよ」

「耕平、とても男の子らしく見えたわ」

「コーヘイ兄さん、お疲れ様でした」

四人はようやく耕平の体から離れる。みんな全身汗びっしょりだった。

「暑かったぁー」

 耕平はかなりくたびれた様子。彼も汗をけっこうかいていた。

「あの、耕平お兄ちゃん、あたし、やっぱり自分のお布団で寝るよ。さっき無理なお願いして罰が当たったもんね」

 クリュカがそう伝えると、

「分かった」 

 雷のおかげで助かったぁー、と耕平は内心ホッとした。

 ほどなく、外からガラガラと向かいの家の窓が開かれる音が聞こえて来て、

「あのう、みんな、さっきの雷、大丈夫だった?」

 絵美の叫び声も聞こえてくる。

「すごく怖かったけど、耕平お兄ちゃんがずっと側にいてくれたから大丈夫だったよ」

 クリュカは窓を開けて、向かいにいる絵美に話しかけた。

「そっか。私は、お母さんと一緒に震えてたよ」

「今夜は香子ちゃんいないし、絵美ちゃんもこっちで泊まらない?」

 マズアンがこう誘いかけると、

「そうしたいところなんだけど、校則で友人宅での外泊は禁止されてるから。それじゃ、おやすみなさい」

 絵美は残念そうに伝えて、窓を閉めた。

「あまり守られて無さそうな校則もきちんと守るなんて、絵美ちゃんとってもいい子ね」

「カナヨト王国民基準でもええ子やわー」

 マズアンとジルフマーハは感心する。

「品行方正さは桜豊高一だと思う」

 耕平は自信を持って主張した。

「また鳴るかもしれないから、おへそしっかり隠さなきゃ」

 クリュカはもう一度おトイレに行ってから、お布団にしっかり潜り込む。耕平に取ってもらったピグミーマーモセットのぬいぐるみもお隣に置いて。

「クリュカ、子どもっぽいですよ」

「クリュカンめっちゃかわええ。妹に欲しい」

 先にお布団に入っていたバルルートとジルフマーハはその様子を横目に見て、くすりと微笑む。

「それじゃ、消すね。おやすみ」

 マズアンが紐を引いて電気を消し、みんな就寝準備完了。

 それから五分も経たないうちに、三姉妹とジルフマーハはすやすや眠りについた。

(緊張して眠れない)

 こんな状況のためか、耕平は目が冴えてしまう。

この子達の寝顔、どんなのかな? と耕平は気になってしまった。けれども罪悪感に駆られ、覗こうとはしなかった。彼が眠りつくことが出来たのは、布団に入ってから一時間以上が経ってからだった。

 

 真夜中、二時頃。

 平等宅に、異変が起きた。

(GPSによれば、バルルちゃん達がいらっしゃるのは、このお部屋のようですね。あっ、お姉様達、いました、いました。気持ち良さそうにぐっすり眠ってますね。うわっ、おっ、男の子も、いました。バルルートちゃんとクリュカ様に挟まれるように眠って、とても幸せそうです)

 耕平と三姉妹が寝ている部屋の窓から、黒い布を顔以外の全身に纏った一人の侵入者が――。

(バルルちゃん達がまだ日本から飛び立ってないようなので、最高時速三千キロの超音速飛行船で飛んで来てみたら、不健全で不県人な少年のお部屋に泊まっているなんて。やはりまだバルルちゃん達だけでの日本への視察は早過ぎたようですね。この男の子、バルルちゃん達を無理やり監禁しましたね。この子を即処刑しなくちゃ!)

 険しい表情で耕平の寝顔を見下ろす。

(炎魔法であっちっちの刑にしようかな?)

 こう思いつくと、カヤロンはポーチから唐辛子を一粒取り出した。

一呼吸置いて、それを口に放り込む。

(アギャーッ、辛いよぅ)

 するとたちまちカヤロンのお口から怪獣のごとく炎が噴き出したのだ。

(これは良く考えたら、非魔法使いの人間に使うのは危険だわ。リアルに火傷しちゃうもん。やめておこっと。ワタクシの舌も痛いし)

 涙目になりながら後悔する。続いてミルク入りの哺乳瓶を取り出して、口に銜えた。チューチュー吸ってお口直しである。

(何とか収まったよ。この魔法の連続使用は無理無理。別の方法で処刑しなきゃ)

 ホッと一息つくと、

「あの、起きて下さい。関西弁なら起きーや、でしょうか?」

 中腰姿勢になって囁くような声で命令し、耕平のほっぺたをペチペチ叩く。

「なっ、何? うわっ! だっ、誰だよ? きみ。忍者?」

耕平は目を覚ますや、びくっと反応してガバッと上体を起こした。

「フレッシュチーズになりたいの~。カヤロンこと本名そのまま、カヤロンです」

 カヤロンは下を俯きながら、頬をカァーッと赤らめ、かなり照れくさそうに小声で自己紹介した。

「A○Bの市○美織のパクリかよ。レモンじゃなくチーズって言う辺りにヨーロッパ人らしさを感じる」

 呆れ顔になった。休まず、

「カヤロンって、この、バルルートちゃん達の、親友って言ってた」

 こう質問した。

「はい。その通りです。関西人の少年、おはようさん。ワタクシは、バルルちゃん達を迎えに先ほどカナヨト王国から大急ぎで飛んで来たでまんねん」

 カヤロンはどこか照れくさそうにしながらも、険しい表情で伝える。 

「まんねんって?」

 耕平は思わず笑ってしまった。

「何がおかしい、でまんねんっ?」

 カヤロンにそう言われると、

「あの、今時、関西人でも、まんねんって言う人なんて、ほとんどいない、ですよ」

 耕平は途端に顔をこわばらせ、唇をカタカタ震わせながら教える。彼はいきなり銃口を鼻頭に突きつけられたのだ。

「ほんまでっか? 日本の関西地方で暮らす人々の日常会話表現やでって近所のおばちゃんから教わってん。せやから言葉が通じるように、事前にジルフちゃんと一緒に関西弁と呼ばれる日本語方言の勉強までして来たのに。まあ、とりあえず、キミを始末するでまんねん」

 カヤロンは銃をもう一つ取り出し、こめかみに突きつけると、

「まっ、待ってくれ、落ち着けって。俺が、何をしたって言うんだよ?」

 耕平は強い恐怖心からかとうとう身動きが取れなくなってしまっていた。

「とぼけるなでまんねん! バルルちゃん達を監禁したんやろ?」

 カヤロンは耕平の鼻頭とこめかみに銃口を突きつけたまま、きつい口調で問う。とは言っても三姉妹を起こさないようにするための配慮なのか、小声で迫力はなかった。

「しっ、してないよ」

 耕平はかなり怯えながら主張するが、

「嘘やっ!」

 全く信じてもらえなかった。

「ほっ、本当だって」

 耕平は今、こんな時、側に姉ちゃんがいてくれたらな、と心の中で思っていた。

「じゃあ、バルルちゃん達はなんであなたの側にいてはるん?」

 カヤロンは怒りに満ちた表情で問うた。

「それは、この子達から、誘って来たんだ」

 耕平はこう主張したが、

「分かり易い嘘をつくなです、まんねん」

 カヤロンは信じてくれず。

「しっ、信じてくれよ」

 耕平は今にも泣き出しそうな表情で主張したが、

「問答無用でまんねん、撃つよぅ!」

 カヤロンの構えていた銃の引き金がついに引かれ、発射されてしまった。

 一発、耕平の鼻頭に諸に命中する。

 ほぼ同時にこめかみにも。

計二発食らわされたのだ。


 しかし、それでも耕平は生きていた。


しかも、顔が粉々にされたどころか、血が一滴たりとも出ていなかったのだ。

「あれっ? 痛く、ないぞ」

 耕平は呆気に取られていた。

「ん? この色、この匂い、これって……」

 頬を伝ってパジャマの上にぽたぽた流れ落ち続ける、薄黄色の液体を見て彼は目を丸くする。

「レモンティじゃ……」

 こう呟くと、

「その通り。砂糖未使用、口に入ったら酸っぱいよ」

 カヤロンは得意顔で言った。

「おねしょの刑!」

 休まず耕平の股間目掛けてもう一発銃を撃った。見事直撃する。

「冷たっ」

 耕平は思わず声を上げる。

「どう! この色、おしっこそっくりやろ?」

 撃った本人はにやにや笑う。

「あのう……」

 耕平が意表を付かれた攻撃に呆然としていたところ、

「なんか、騒がしいわね」

「何の音ですかー?」

「うるさいよぅ」

 三姉妹も目を覚ました。

「あら、カヤロンちゃん、どうしてここに?」

 マズアンは、銃を耕平の眼前に向けていたカヤロンに不思議そうに尋ねる。

「おう、カヤロンやん。日本に来たんか」

 ジルフマーハもついに目を覚ます。

「皆様、お目覚めですか。貞操はご無事ですか? 今すぐ皆様をカナヨト王国へ連れて帰りますのでご安心下さい。皆様も、男の子のお部屋で寝泊りするなんて不純過ぎます。しかも薄着で。この男の子、ばっちり処刑しといたよ」

 カヤロンはぷんすかしながら興奮気味にこうおっしゃる。

「落ち着いて下さいカヤロンちゃん、じつはですね――」

 バルルートは眠たそうにしながらもカヤロンに、自分達がなぜ一緒のお部屋で寝ているのかの理由を冷静に説明した。

「……そういうことでしたか。平等耕平様、でしたね。早とちりしてしまい申し訳ございないです」

 カヤロンは事情が分かると耕平に向かって土下座姿勢で謝罪した。

「いやいや、俺、べつに気にしてないから」

 耕平はけっこう戸惑う。

「それでは、失礼致しますね。皆様も、お気をつけてお帰り下さい」

 カヤロンは窓から外へ出て、平等宅庭に留められてあった一隻の小型飛行船に乗り込んでいく。その飛行船の形は、まるでチョコレートケーキのようであった。

「耕平ちゃん、災難な目に遭わされちゃったみたいね。元はといえば、わたくしがあの子に帰りが遅れること連絡するのを忘れたせいだわ。ごめんね耕平ちゃん」

 マズアンはぺこんと頭を下げる。

「耕平お兄ちゃんを悪い人だと思っちゃうなんて、カヤロンお姉ちゃんは用心深過ぎるね。大丈夫? 耕平お兄ちゃん」

「怖かったよね、コーヘイ兄さん。いきなりあんなことされたら」

 クリュカとジルフマーハはとても心配してくれ、頭を撫でてくれた。

「大丈夫。だけど俺、あの子に銃で撃たれる直前、死を覚悟したよ。おもちゃの銃でよかったぁ」

 まだ恐怖心から若干震えていた耕平に、

「カナヨト王国の人々は皆、争い事を好まず、とっても温厚ですから人殺しなんてしませんよ。カナヨト王国では戦争も殺人罪も窃盗罪も過去に遡っても存在しません」

 バルルートは笑顔で説明した。

「そうなのか……本当に平和だな。パジャマがレモンティ塗れだよ。下着まで染みてる」

 耕平は苦笑いを浮かべる。すぐにお部屋から出て自室へ向かい、新しい下着とパジャマと持って洗面所兼脱衣場へ。着替えた後、汚された下着とパジャマを水で洗って絞り、続いて自分の髪の毛と顔を洗って、タオルで拭き取る。

洗った下着とパジャマは洗濯籠に入れておくと後で母におねしょを疑われかねない、と危惧した耕平は、それは自室に干しておくことに決めた。

 耕平があのお部屋に戻ると、

「あのう、耕平お兄様」

 カヤロンがいた。

「カッ、カヤロンちゃん。どうしたの? 忘れ物?」

 耕平は驚いたが、冷静に尋ねてみる。

「カヤロンちゃんの乗って来た飛行船は、着陸時に壊れちゃったみたいです」

 バルルートが代わりに説明してくれた。

「エンジントラブルみたいなの」

 カヤロンは照れ笑いしながら伝える。

「カヤロンちゃんも災難でしたね」

「そういうわけで、カヤロンもここに泊まるって」

「カヤロンお姉ちゃんも一緒だよ」

 ジルフマーハとクリュカはとても嬉しそうにしていた。

「耕平ちゃん、この子もよろしくね。わたくしと一緒のお布団に寝かすから」

「まあ、いいけど」

 耕平は断るわけにもいかないと思い、承諾。

「Dekuji! お世話になります耕平様」 

 カヤロンは深々と頭を下げてお辞儀し、パジャマは持って来てないため私服のままマズアンのお布団に潜り込んだ。

「このスズムシさんと呼ばれる、日本にはたくさんいる昆虫さんの音色、素敵ですね。いい子守唄になりそうです。では、Gute nacht!」

 そう告げて三秒のちには、カヤロンはすやすや眠っていた。

「寝るのはやっ!」

 耕平はけっこう驚く。

「カヤロンちゃんの幼児期からの特技ですから」

 バルルートはにこっと微笑む。

ちなみに先ほどの騒動は両親にも、絵美にも全く気付かれなかったようだ。

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