最終話 三姉妹達、カナヨト王国へ帰国?

三姉妹日本滞在五日目の早朝。六時頃。平等宅。

「はじめまして。耕平お兄様がの○太様だとしたらし○か様的な存在の、絵美お姉様。ワタクシ、バルルちゃん達のお友達のカヤロンです。真夜中に迎えに訪れました」

「あなたがカヤロンちゃんか。背が高いね。はじめまして」

 カヤロンは朝起きるとさっそくお部屋の窓を開け、向かいの絵美に挨拶した。

続いて茶の間に向かい、

「はじめまして。耕平様のお父様、お母様。ワタクシ、バルルちゃん達のお友達のカヤロンです。真夜中に迎えに訪れました」

耕平の両親にもご挨拶。

「あら、よろしくねカヤロンちゃん」

「どうも、どうも」

 両親は特に疑問を浮かべることなくごく自然に挨拶を返した。

「あの、ワタクシの分の食事はけっこうですから」

 カヤロンはそう伝えたものの、

「いいのよ、香子の分もついうっかり作っちゃったから、食べてって」

 千賀子は強く勧める。

 確かに応接間に朝食が八人分、用意されていた。

「では、お言葉に甘えまして」

 カヤロンは申し訳なさそうにしながらも応接間の座布団に腰掛ける。

 香子を除く八人で一緒に朝食を済ませて、七時頃。

三姉妹と他二名、いよいよ平等宅をあとにした。大阪の空の玄関口、関西国際空港へ。

耕平、絵美、里乃。そして耕平の両親みんなで見送りに行く。

「カヤロンちゃん、めっちゃ背ぇ高いね」

「いつの間にか大きくなってしまいました」

「ワタシに十センチくらい分けて欲しいよ」

「出来ることなら分けたいです。よくぶつかるので」

 里乃とカヤロン、初対面の挨拶を交わした後の会話である。

「おばちゃん、おじちゃん、さようなら」

「おば様、おじ様。この度は突然訪れたわたし達を四泊もさせて下さり、誠にありがとうございました」

「旅費もたくさん頂いちゃって、大変お世話になったわ」

「ほんの数時間だけでしたが、お世話になりました」

「アタシも一泊だけやったけど、いい思い出が出来たよ。突然押しかけて申し訳ない」

 空港待合室にて、三姉妹と他二名は耕平の両親に向かって深々とお辞儀をし、最後の別れの挨拶をした。

「いえいえ、そんな。家事を手伝ってもらってこっちが礼を言いたいくらいよ」

「僕の方こそ、きみ達に感謝すべきだと思う。久し振りの体験が出来たのだから」

 両親は謙遜気味だ。

 例の五人はこの二人から生八ツ橋、京友禅の扇子やハンカチ、紀州梅干、信楽狸の置物、御座候、出石そば他、関西の土産もたくさん受け取った。

「そろそろパパが来る頃だね」

 クリュカがそう呟くや、

「クリュカ、バルルート、マズアン、ジルフマーハちゃん、カヤロンちゃん、迎えに来たぞ」

 三姉妹の父がここへ迎えに来てくれた。お歳は四〇代後半くらい。背丈は一六五センチほど。黒色の髪の毛に白髪交じり。色白でほっそりしていて、気弱そうな感じのお方だった。

「パパァ。八日振りーっ!」

 クリュカは嬉しそうに彼の側へ駆け寄り、ぎゅぅっとしがみ付いた。

「お父さん、心配かけてごめんなさい」

「父さん、ありがとう」

 バルルートとマズアンも感謝の言葉を述べる。

「謝らなきゃいけないのは、ボクの方だよ。じつは、おまえ達に貸した飛行船には重大な欠陥があってな」

「圧縮すると、非常に壊れやすくなるということですね」

 バルルートが指摘すると、

「その通りだ。さすがバルルート、勘がいいな」

父は苦笑する。

 その直後、

「本当にいいお友達が出来たみたいね」

 みんなの前に、四十代半ばくらいのブロンドロングヘアーの女性が一人現れた。

「ママだぁーっ!」

「マッ、ママ」

「お母さんも来たの」

 母の登場に、三姉妹は少しだけ驚いていた。

「おばちゃん、日本へようこそ。っていうか初めての訪日じゃないよね」

「女王様も来て下さり、とても嬉しいです」

 ジルフマーハとカヤロンは笑顔で迎えた。

「ジルフマーハちゃん、日本の学校視察、さらには体育祭での競技記録平等化、中止させようと試みた努力。よく健闘したわね」

 母ににこにこ顔で褒められ、

「いえいえ、アタシ、全然たいしたことしてないっすよ」

 ジルフマーハは照れくさそうに謙遜した。

「バルルート、クリュカ、マズアン。あなた達三人は、学校視察をろくにせず、観光地巡りばかりしましたね」

 三姉妹の母は娘達にニカッと微笑みかける。

「だってママ、日本がとっても素晴らしくて」

「ママ、学校を見るだけじゃ日本のことは何も分からないと思うよ」

「お母さん、一応は学校視察したのよ。初日だけだけど」

 三姉妹は苦笑いを浮かべて言い訳し始める。

 このあと、母から衝撃的な発言が――。

「べつに任務が上手くいかなくたっていいの。ママが怒ってるのは、あなた達がサボる気満々だったことに対してよ。あなた達、日本が大好きなようだから……」

 一呼吸おいて、

「日本の学校への〝長期留学〟を命じます。マズアンはこの子達が通う高校、バルルートとクリュカはそこの近隣の小中学校よ。もう手続きは済ませたから。さっそく明日から通ってね」

 笑顔でこう命じたのだ。

「えっ! 留学!?」

「マッ、ママ、冗談ですよね?」

「お母さん、本気なの?」

 三姉妹は当然のようにあっと驚く。

「ええ、本気よ」

 母はきっぱりと言う。

「パパもおまえ達の日本留学を応援するぞ。魔法少女が魔女へと成長するための儀式みたいなものだから、頑張ってくれ」

 父も大賛成のようだった。

「おばちゃぁん、藪から棒過ぎやで。バルル達がするなら、アタシも留学するぅ!」

「ジルフちゃん、ダメだよ。ワタクシもバルルちゃん達がするなら留学したいんだけど、日本はとっても危ないよ」

 悲しいのか今にも泣き出しそうな表情のジルフマーハを、カヤロンは優しくなだめる。

「あの、ママ。耕平お兄さん達の通う学校に、学生寮はないみたいですよ」

 バルルートが困惑顔で伝えると、

「大丈夫よ。住む所ならちゃーんと確保してあるわ。あなた達が泊まった、耕平ちゃんって子のおウチよ。引き続きホームステイさせてもらえることになったから」

「えぇっ!」

 耕平はあっと驚いた。

「昨日のお昼くらいに、こちらのお方から引き続きホームステイさせてあげてって電話で頼まれて、受け入れることにしたのよ」

「断る理由なんて何もないもんね」

 耕平の両親はほのぼのとした笑顔で打ち明ける。

「父さん、母さん、そんなことを計画してたとは。昨日の内に言ってくれたらよかったのに」

 耕平は呆気に取られる。

「それじゃサプライズにならないじゃない」

 母、千賀子はにこにこ微笑んでいた。

「よかった。まだお別れしなくて」

「予想外の展開やね。マズアンちゃんには生物部に入って欲しいわ」

 絵美と里乃は大いに喜ぶ。

「困ったことがあったら、このお方達に相談すればいいから」

 三姉妹の母は爽やかな笑顔で言う。

「お母さん、急に言われても」

「耕平お兄ちゃんちにずっと泊まれるのは嬉しいけど、カナヨト王国にも帰りたいよぅ」

 マズアンとクリュカはけっこう寂しそうにしていた。

「おば様、おじ様。わたし達を、今後もホームステイさせてもらっても、本当に良いのでしょうか?」

 バルルートは今の状況がまだ把握出来てないのか、やや放心状態で問いかける。

「ええ、もちろんよ。なんといってもうちの元民宿は、あ」

千賀子がそう伝えている途中、

「お久し振りです千賀子さん、達也さん」

 三姉妹の父が耕平の両親に向かって、深々とお辞儀をして来た。

「秀吉さん、お泊り下さったあの時以来二十何年か振りね。あの頃とあまり変わってないわね」

「本当にかなり久し振りだなぁ、秀吉くん。元気にしてたか?」

 両親も深々とお辞儀をする。三姉妹の父の名は秀吉というらしい。もろに日本人名だ。

「父さん、耕平ちゃんのご両親とも知り合いだったんだ!」

「びっくりです」

「パパ、意外だね」

 三姉妹はとても驚いていた。

「じつはボクも昔日本留学したさい、民宿にタダで長期滞在させてもらっていたのさ。それがおまえ達の泊まった所と同じだったことを昨日知って、ボクもとても驚いたよ」

 秀吉は照れ笑いしながら打ち明ける。

「パパが泊まったことがある所に、あたし達が泊まってたなんて――運命の巡り合わせだね」

 クリュカはとても嬉しがっていた。

 そんな時、

「マズアンさんは、うちのクラスに編入させるわ」

 背後からこんな声が。

 そこに現れたのは、大八木先生だった。

「どっ、どうも。あら、お久し振り」

 マズアンは緊張気味に挨拶する。

「あっ、あの時のおばちゃんだ」

「耕平お兄さん達のクラス担任の大八木先生、四日振りですね」

「おはようございます、大八木先生」

 クリュカとバルルートと絵美は嬉しそうにご挨拶した。

「まさか大八木先生まで現れるとは」

「大八木先生、なぜここに?」

 耕平と里乃はやや驚く。

「そちらのお方から昨日、学校へ連絡があったの。校長先生と相談して、うちのクラスに決めたのよ。平等くん達がこの間連れてた子かなって思ってたけど、予感的中ね」

 大八木先生は三姉妹の母を指しながら伝えた。

「大八木先生、娘のマズアンをよろしくお願いしますね。それじゃ、もうすぐ飛行機の時間だから、カヤロンちゃんとジルフマーハちゃんは帰りましょう」

「あの、女王様、日本留学命令はいきなり過ぎると思うの。バルルちゃん達には早過ぎるよぅ」

 カヤロンは三姉妹の母の側に寄り説得する。

「アタシからもお願いや。バルル達の日本留学命令は、今はやめて」

 ジルフマーハも説得に加わった。

 さらに、

「私も正直、おば様の一存で決めるのは、ダメだと思う」

「おばさん、個人の意思を尊重することが大事やで」

「カナヨト王国って、個人主義が尊重されるお国柄なんでしょう」

 絵美と里乃、耕平、

「この子達の希望を聞くことも必要ね」

「この子達にとっては今回初めて訪れた異国の地だから、いろいろ戸惑うこともあるだろし、無理やり留学させることも無いと思う」

「うちもそう思いますよ。特にクリュカさんとバルルートさんは、まだ十代前半の子どもですし時期尚早かと。なによりいきなりのことだから」

耕平の両親と大八木先生も説得に加わる。

「ママ、わたし、日本は大好きだけど、住み続ける覚悟はないです」

「日本は旅行で行くのが一番だと思うわ。お母さん、日本留学の話、今は無しにして」

「ママ、カナヨト王国のお友達ともまだまだ一緒にいたいから、留学の話はなかったことにして」

 三姉妹は自分の意思を母に強く伝えた。

「娘達がこう望んでいることだし、急遽中止ということで、いいんじゃないか」

 秀吉も笑顔で説得する。

「……負けたわ。あなた達の日本長期留学は、とりあえず延期にします」

 母は十秒ほど悩んだ後、ついに認めてくれた。

「安心しました」

「日本は遊びに行く所であって、住む所じゃないもんね」

「まだ心の準備が出来てないし、よかったわ」

 三姉妹はホッと一息つく。

「バルルちゃん、クリュカ様、マズアンお姉様。日本へ留学せずに済んでよかったね」

「バルルゥ、クリュカン、マズアン姉さん、交渉した甲斐があったな」

 カヤロンとジルフマーハも安堵し喜ぶ。

「でも、この子達の分の航空機チケット取ってないのよ。あとカヤロンちゃんの分も。いるとは思わなくて。今からじゃもう今日の便の分、購入出来ないかも」

 三姉妹の母は苦笑いを浮かべて伝えた。

「それなら大丈夫。こんなこともあろうかとボクがきみにナイショで、同じ便のを取っておいたんだ」

 秀吉はすぐにそう伝え、三姉妹とカヤロンの分のフランクフルト行き航空チケットを鞄から取り出した。

「あらぁ、そうだったんだ」

 意表をつかれた三姉妹の母は、目を丸くする。

「さすがパパ」

「パパ、用意周到ですね」

「メルシー、お父さん」

「国王様、嬉しいです」

 三姉妹とカヤロンはありがたく受け取った。

「日本のみんな、この度は大変お世話になったよ。楽しい思い出をたくさんありがとう。ほな、おおきに」

「それでは日本の皆様、Na shledanou!」

 ジルフマーハとカヤロン、

「では日本の皆様、またいつかお会いしましょう」

「日本の皆様。またいつかお伺い致します。この度は娘達が大変お世話になりました」

 三姉妹の両親、

「ばいばーい、みんな」

「さようならです。また近いうちに日本へ遊びに来ますよ」

「それじゃ皆さん、またね」

 そして三姉妹も別れの挨拶を告げて、搭乗手続き窓口へと向かっていく。

「さようなら」

「ばいばい、みんな元気でね。またの来日待っとるで」

「みんな絶対また日本へ来てねーっ」

「またのお越しを、お待ちしてます」

「また来てくれよ」

「またいらしてね。いつでも受け入れるわ」

 耕平達六人は彼女達の後ろ姿が見えなくなるまで温かく見送った。

       ☆

 平等宅。その日の夜、まもなく日付が変わろうという頃。

「姉ちゃん、なんでまた俺の部屋に?」

 耕平の自室に、香子が布団一式を持って入り込んで来た。

「だって、うち一人で寝るのは寂しいねんもーん♪」

 香子はてへっと笑う。

「幼稚園児じゃあるまいし。帰れ」

 耕平は不機嫌そうに命令し、香子の腰の辺りをぼかっと蹴った。

「いったぁーい、ちょっと耕平、か弱いお姉ちゃんにそんなことしていいのかなぁ?」

 香子はニカーッと微笑みかけ、耕平の右腕をガシッと掴む。

「ごめん、姉ちゃん」

 耕平の表情は途端に蒼ざめた。咄嗟に謝るが、

「お仕置き♪ えいっ!」

香子は容赦なし。担ぎ上げるようにして耕平を投げ飛ばした。

「いってぇぇぇぇぇ! あばら骨がぁぁぁ」

 一瞬のうちに畳の上にびたーんと叩き付けられた耕平、悶絶する。

「うちに逆らうとこうなるからね♪」

 香子はにこっと微笑んで、お構いなくお布団を敷いたのであった。

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