第2話


4月。

きっと世間では出会いの季節と称されて、桜の舞い散る中で新たな生活への期待と

不安を交えながら結局心躍らせながら新しい生活へ踏み出す。

なんてことが言われているのだろう。


きっと昔だったらそういえたのかもしれないけど、

今の僕にはそれは少し厳しいかもしれない。


だって、もうすぐ高校を卒業する高校三年生になった身分であるし。

それにどちらかと言えば、大学への受験が本格化してしまうという事実を

たたきつけられるのであるから。



いつものように、通いなれた通学路を歩いていく。

僕が通う私立水川学園高校は学力が高いことで有名である。

通称水学とよばれ、毎年多くの有力な進学実績を出してきた。

その実績は県内でも無敵を誇るもので、

水学に通うことはこの付近では一種のステータスとなっていた。


そんなこともあってか、僕がこうやって毎日の日課にしてる

桜の木が並んでいる通りでの桜の木鑑賞をしてるとたまに通りかかる人は

疑問の視線を投げよこしてくるけど、僕にはそんなのは関係ないんだ。


この桜の木たちには、今までのすべてをかけても勝てることのない思い出が存在してるんだから。



そんなに長い時間ではないとわかっていても、気を抜いていたことで思ったよりも

時間が過ぎてしまっているのではないかと思って急ぎ目に時計を確認する。


大丈夫。いつもと同じ。


僕は見慣れたいつもの桜並木の入口に進んで、学校へと向かった。



水学についていつものように教室に向かった。

昨日始業式があったので間違えて2年次の教室に行きかけたけど、

よくよく思い出して少し抜けた自分にあきれながら教室に向かった。


この学校には下駄箱は存在しない。

いや、存在自体はするのだけれどそれは教室のロッカーの中に存在する。

教室はすでにほとんどのクラスメートが登校していて、騒がしいというかどちらかというとにぎやかであった。


ローファーを履き替えて、席に着く。

少しだけ多くなった階段といつものように桜並木の下で考えていたせいか

疲れていたのかもしれない。


「ふぅ。」

と1つため息をついた。


そんなに大きな声ではなかったはずだけれど、それが聞こえたのか

前に座っていた顔なじみが体を反転させてこちらを向けてきた。


「優斗、まだ二日目なのにもう学校生活に疲れたのか?」

スポーツをやっている高校生の代表的な特徴である坊主頭の顔なじみが

少し呆れ気味なニュアンスで話しかけてきた。


「おはよう、大吾。別に特段の意味なんかないよ、階段に疲れただけかな。」

そうやって苦笑いを浮かべながら、僕は返した。


ほんとかよ、と心配するそぶりをしながら購買で勝ったであろう惣菜パンを

かじる彼は中学からの同級生である岡島 大吾。

幼いころから続けてきた野球で水学にスポーツ推薦で入学したほんとに野球バカ

みたいなやつだ。


水学は屈指の進学校でありながら、創学者の意向を受け継いで野球と

なぜかバレーボールに力を入れている。

そのため、大吾のように毎年優れた能力をもつ生徒を何人か推薦入学という形で

入学させて部の強化に努めている。


「優斗は体があんまり強くないんだから、気をつけなきゃダメだぞ?

 一年のころなんか、周りに知らないやつしかいなくてたまたま見つけた

 俺に泣きついてくるぐらいなんだから。」


「それは別に関係ないことじゃん!あんまり思い出させないでよ…」

いきなり言われた昔話に照れ隠しを込めて持ってたタオルを大吾に投げつけた。

大吾は悪かったと笑いながらパンを食べ終えた。


人見知りもあってこうやって力を抜いて何でも話せる大吾の存在は、

僕の中ではすごく大きな存在だった。


一限の授業の準備をしていると、そういえばと大吾が質問してきた。


「優斗はさ、バレーボール好きじゃん?うちは野球とバレーだけ推薦とってて、

 お互いに情報を交換したりするんだけど今年の一年生にすごいやつが

 いるらしいぞ?」


僕はバレーボールが好きだ。僕自身はあまり運動の素質がなかったから中学でやめてしまったけど、あの一瞬で繰り広げられる頭脳戦がたまらなく好きではまってしまった。


「そうなんだ、名前とかわかるかな?もしかしたらしってるかもしれないし。」

語尾に隠し切れない期待感を漂わせながら大吾に聞いてみた。

大吾はうーんと思い出そうとした後で、一言放った。




その時、僕は唯一予想していなかった名前をそこで聞いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る