桜雨
鍋井 沙希
第1話
最後に涙を流したのはいつだろうか。
流したこと事実は覚えているのに、時期を覚えていないことはなんだかおかしい気がする。
けど、忘れるはずがないんだ。
まるで桜が雨のように降り注ぐ中でつぶやかれたその言葉に、
気付かないうちに涙が流れたことが。
だけどこれだけは言える。
たぶん僕が流したであろう唯一の涙は、決して悲しい色ではなかったということを。
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