9コール・・・キャラ
(つうか・・彼女、欲しい・・・)
「え?いきなり、なんなの?唐突過ぎるだろ」
今日は土曜日である。仕事はたまたま休みだった。せっかくの休日だというのに、外は生憎と雨が降っている・・・この一週間ずっと晴れていい天気だったのに、どうして休みの日に限って雨が降るんだよぉ・・何処にも行けないじゃん・・。
基本的に僕は外出する時、徒歩である。車は免許は持っているけれど、首都圏だと電車で十分だ。車は便利だけれど、維持費とか、ガソリン代とか結構バカにならない。もうちょっと給料が多ければ買えたかもしれなけれど・・。運動がてら、歩くことにしている。たまには、自分の足で道を歩くのもいいと思うけどなぁ・・。
そんなこんなで。部屋に引き籠って、ガンプラをゆっくり作っていた時、スマホの呼び出し音が鳴った。時刻は午前十一時を少し過ぎたくらいだ。
「いや、だいたいねぇ、彼女欲しいぃ~とか僕に電話するくらいだったら、街にくりだ出して、女の子に声かけてこいよ?どうせ暇なんだろ?僕は今、プラモのパーツをやすりで削っているところだから、忙しいんだよ」
(・・ふ~ん・・何作ってるの?)
「え?・・あぁ、ほら一番新しい、悪魔の名前を冠するガンダムさ」
(ああ、あれ、おもしろいよなぁ・・なんか、戦闘シーンじゃ無い所も普通に面白いというか・・・しかも、実刃と実弾とか熱いねぇ・・)
「そうなんだよ・・まぁ、でもシステムがなぁ・・あのガンダムにはあんまり乗りたくないなぁ・・背中がね・・というか、話題がずれてるぞ!街に出てブイブイ言わせてこいよな」
(いや、無理)
「即答かよ!」
(だいたい、このご時世、話しかけてみ?不審者扱いされて、警察に連れて行かれるだけだから、というか、そんなコミュニケーション能力無いね)
「いや、どんだけ被害妄想なんだよ?・・前も言ったけれど、お前はコミュニケーション能力、あるからね?じゃあ、どうやって、仕事してるんだよ」
(兄貴・・仕事は別)
「なんでそこ、別なの!」
(なんというか、仕事の俺がやってるから?かな?だからその俺を演じているというか、笑顔の仮面を被っているというか、そんな感じ?)
「う~ん・・何となく分かったような・・あれだろ?そのキャラを演じるってやつ、相手がそう思っている、自分を演じるっていう・・」
(兄貴は大得意だもんね?いろんなキャラを演じるの・・流石は道化師だよ・・)
「え?僕ってどういうキャラなの?」
(ほら、ほんとは分かってるくせに、そうやってワザと、分からないフリをするという、キャラを演じてるじゃん?)
「深読み過ぎるだろ!」
(って言う、ツッコミをするキャラを演じてるっていうね・・怖いわ~)
「僕、信用されなさ過ぎだろ!・・お前の中に僕、何人居るんだよ・・」
(さぁ?もう俺にはどれが本当の兄貴なのか、全く分からないなぁ・・)
「・・いやぁ、でも誰でもやってることなんじゃないかなぁ・・例えば閉鎖的な空間・・身近な所で例を言うと、職場だったり、学校の教室だったり、みんながみんな、あの人はああいう性格だよねって、思っていて、もしそれが、いつもと違う雰囲気だったら、あれ?どうしたんだろう?いつもは元気で、明るいのに今日は元気ないぞ?とか・・勝手にその人のキャラを作ってしまっているんだよね・・実のところ、その子はあんまり明るい性格ではないのだけれど、みんなが作り出している、自分のキャラを演じなければ、後々面倒な事になるのを知っているから、ちょっと無理してでも、その明るいキャラを演じてしまうんだよな。それも、もしかしたら、その人のとっては無意識でやっている事かもしれないけれど・・」
(ああ、あれでしょ?自分と話をしている時は普通なのに、急に授業中とか、注目されると、さっきと全くキャラが変わってたりとか?)
「・・まぁ、そんな感じ・・かな・・それを言うなら、さっきまで普通に話していたのに、他の人が来たら、まるで自分と仲良しじゃ無いよ?アピールして、その人たちと混じって僕の事をけなすんだけれど、その人たちが居なくなると、普通に戻って、いやぁ、さっきは変な事言ってゴメンね?・・みたいな感じ?謝るくらいなら、始めからそんな事言うなよなって思うけれど・・」
(なるほど、確かにそういう人居たな・・兄貴・・ほら、色々グループとかあるじゃん?野球部のグループとか、チャラい奴らのグループとか、女子のグループとか、とにかく面倒な奴らが集まったグループとか・・あんまり、面倒ごとにならないように、色々考えて振る舞っているんだよ・・)
「んん?グループ?・・あんまり学生の頃はそんな事を意識してなかったなぁ・・基本的に僕、一人で昼ご飯食べてたし、友達は・・居たと思うし・・日常会話をするくらいはね・・・・・・まぁ、教室か、図書室で本を読んでるのがほとんどだったけれど・・・・それ以外は机で寝てたし・・」
・・確か、こんな感じだったはず・・あんまりこれと言った思い出がないんだよな・・忘れてしまっているだけかもしれないけれど・・。
(・・まぁ多分そうだろうと思ったけど、兄貴はどこのグループにも属さない派だったな・・寂しくなかった?)
「別に?・・特にそれで困った事ないし・・でもさぁ、何故か変な意味で目立ってたんだよな・・僕自身は、大人しくしてるはずなんだけれど・・名前も顔も知らない別のクラスの人が何故か、僕の名前とか知っていたりとか、なんか、やけに男子に絡まれたりとか、全部適当に流してたけれど・・いやぁ、女子にも絡まれたりしてたなぁ・・一緒に弁当食べようとか・・なんか色々面倒だったから、最終的に僕は昼ご飯、誰も居ない教室を探して、食べてたね・・」
(・・あぁ、そういえば、俺が高校に入学した時、先輩たちが、・・・あ、あれがあの人の弟か!とか、えっ?あいつの弟?ちょっと見てこようぜ!とか、やけに俺、何もしてないのに目立ってた・・先生にも、おお、弟か・・みたいな感じで警戒されてたような感じ?・・・学校で何したんだよ?)
「さぁ?・・でもいきなりみんなから注目されるなんて、人気者だったんだなぁ!凄いね!お兄さん嬉しいなぁ!」
(ちげぇよ!、悪目立ちしてたの!・・何したらそんなに有名になるんだよ・・)
「・・んん?あれかな・・授業中よく寝てたから、それで良く叱られてたし・・テストの点数もそんなに良くなかったしね・・なんかこう・・ふわふわしてたからかなぁ・・怒られる要素は沢山あったけれど・・あんまり褒められる要素がなかったから?・・僕はちゃんとやってるのに、周りからみるとやる気が無いように見えたりしたのかも・・自分で言うのもなんだけれど、ずっと眠たそうな目つきしてたし・・それがやる気無いように勘違いされてたのかなぁ・・」
(・・いや、それだけだったらそんなに注目されないでしょ?)
「あはは、まぁ、この件に関しては、もうこれくらいにしておこう・・うん!」
(やっぱ!なんかあるんでしょ!何、しでかしたんだよ!)
「世の中には、知らなくてもいい事があるってことだな・・」
・・これ以上思い出すと、何故か良くない気がしたので、僕は話題を変えることにした。若気の至りってやつかな・・黒歴史的な・・・まぁ、いつか話そう・・。
「という訳で、街に行ってこい・・それがいいと思うね」
(・・ちょっと、気になるけど・・まぁいいか・・いや、だから無理だって・・)
「じゃぁ、街コンとかは?同僚とか誘って行ってみるのは?」
(・・街コンかぁ・・兄貴は行った事あるんだっけ?)
「んん?あぁ、・・あるよ・・」
(えっ‼マジで?・・どうだった?)
「確か、二人くらいと連絡先交換したかなぁ・・まぁ、その時僕は何も頑張ってないけれど・・一緒に行った同僚が頑張って、連絡先聞き出してたね・・」
(そこから何か、進展あった?)
「・・・残念ながら、何も・・」
(ええ!ダメじゃん・・)
「いや、だから一回行ってみればいいんだよ・・色々勉強になるよ?」
(・・う~ん、それ、兄貴的にはどうだったの?)
「えっ?僕的に?・・そうだなぁ・・僕は無理だと思ったね。街コンでうまくいくって言う人の特徴はやっぱり、明るくて、会話が上手なんだよな、巧みに話題を作って、最終的に今度会う約束をしてしまうというね・・相当慣れてないと厳しいな・・僕みたいに何も話題とかを考えないで行ってしまうと、そういうのに慣れてる男に全部もってかれるね・・一人だけだったら、女性に話しかける事すら出来なかったな・・多分・・。というかいきなり初対面の人と何を話せっていう訳?何回も行けばいいのかもしれないけれど・・慣れる意味で・・」
(兄貴、それ、ただの愚痴になってる・・・)
「だって、僕の持ってる話題っていったら、ガンダムとボカロとアニメくらいだよ?最近の流行りのお店とか服とか、芸能人とか全く分からないからね?美味しい食べ物屋さん知ってるなら、むしろこっちが教えて欲しいくらいだからね?・・そう言えば・・あんまり、ご飯的なものも食べられなかったなぁ・・量が少ない上に人が沢山いるから、飲み物くらいしか飲めなかったし、料理も言うほど美味しくなかったし・・やっぱり量が無いと駄目だよね・・あと、女性も意外と結構食べるからなぁ・・もうちょっとお腹一杯食べたかったなぁ・・というか、あれで六千円するもんなぁ・・完璧に運営側の勝利だよね・・」
(・・・いや、兄貴、それ、完全に食い物目当てで行ってるでしょ?)
「・・そうだけど?・・他に何かあるの?・・」
(・・彼女が目当てでしょ!!普通!・・どんだけ腹減ってたんだよ・・)
「そうかなぁ・・でもさ、六千円も払ったら基本的にお腹一杯食えるでしょ?某チェーン店の牛丼、何杯食えると思ってんの!」
(・・いやぁ、まぁ、確かにそうだけど・・)
「という訳で、街コン行ってこい♪?」
(説得力が微塵も感じられないんだけど・・)
「あれ?・・お前に彼女が出来るってことは・・そうか!イコール、僕の妹ってことになるのか!!!」
「え?まぁ、そうなるな・・」
「まさかの、リアル妹が本当に出来るなんて・・何でもっと早く気が付かなかったんだ!なんて、浅はかだったのか・・・僕は!・・」
(いや、浅はかでは無いと思うけど・・)
「絶対に、お兄ちゃんって言わせてやるぅぅぅぅぅぅ!」
(・・兄貴・・テンションがおかしい方向に向かってるけど・・)
「・・そうそう、昔から、妹が欲しかったんだよなぁ・・家は女性要素が足りないんだよ・・」
(まぁ、最強なのは母ちゃん・・いや、婆ちゃんだもんね・・)
「ああ、婆ちゃんね・・未だにガッツリ、ビール飲んでるもんな・・肌もツヤがあるし・・元気だよねぇ~・・この前とか、キュウリのハウス用の鉄骨運んでたしな・・」
(あれは、流石にビビったね・・俺、力には自信があったのに、なんてちっぽけなんだって、思い知らされたもん・・上には上がいるって・・)
「というか、あの鉄骨、成人男性でも、三本をいっきに運ぶのが限界なのに、二本担いでたからね・・農家の女って感じだよ・・底知れぬパワーがあるなぁ・・」
(あれは、流石に勝てないな・・喧嘩には自信あったのに・・自信無くなった)
「・・婆ちゃんって、確か・・八十過ぎてたよな?・・元気の秘訣ってなんだろ?・・酒か?・・でも家でお酒強いの婆ちゃんくらいだもんね・・爺ちゃんは、お酒あんまり飲まないって言ってたし、母ちゃんもお酒弱いし、父ちゃんも飲むけどそんなに飲まないし、僕は下戸だし、あ、お前は割と強かったな?」
(・・まぁ、ある程度はね・・でも酒豪とまではいかないな)
「僕なんか、コップ一杯のビールを飲んだだけで、寝ちゃうもんな・・酔う以前に完全に意識飛んじゃうから、あんまり飲めないんだよなぁ」
・・すぐに手も顔も赤くなるからなぁ・・
(・・まぁ、ほどほどが一番だよな・・)
「・・・なんと言うか、飲み放題のお店とかで出てくるお酒って、あんまり美味しくないよね・・アルコールが薄いというか・・お酒風味のジュースみたいな?」
(・・まぁ、だいたいそんなもんなじゃないの?飲み放題とかだったら・・)
「やっぱり、お酒っていうと、お正月に実家に帰って料理と一緒に飲む日本酒が、美味しいかなぁ・・なんかフルーティな味がするんだよ・・あんまりお酒詳しくないけれど、多分高い奴だな・・去年なんて、ちっちゃな杯を一杯飲んだだけで、酔って、意識失って、危うく、おかずが乗ってたお皿の上に顔面ダイブしかけたもんね・・とっさにお前が、お皿をどけなかったら、年初めから散々な目に遭うところだったよ・・・」
(あの時、机に頭が・・額がぶつかって、凄い音したよ・・たしか・・それでも起きなかったけど・・)
「朝ごはん食べてる途中だったのにねぇ・・目覚めたの十一時過ぎてたし・・もうすぐでお昼ご飯の時間だったな・・これぞまさに寝正月!」
(・・まぁ、いいんじゃね?・・お酒飲むとその人の本性が分かるって言うけど、兄貴の場合、お酒を飲ましても結局本性は分からないというね・・・)
「あぁ、泣き上戸とか、笑い上戸とかってやつでしょ?僕の場合は眠り上戸だな」
(まぁ・・お酒とかは週末に、ウメッシュ飲むくらいかなぁ・・そんなに飲まないな・・言われてみれば・・)
「・・ふーん、僕なんか、半年に一回飲むか飲まないかだね・・実家に戻ったときだけ飲んでるような気がする・・」
・・未だに、お酒の良さが分からないんだよなぁ・・まだまだ子供ですな・・
「・・どうでもいいけれど、とりあえず街コン行ってこいよ?」
(・・話飛んでね?・・お酒からの・・?)
「ほら、だから、街コンの時の自分っていうキャラを演じればいいんだよ。そしたら行けそうでしょ?だいたい最初なんて、みんな猫被ってるんだから、分かんないって・・凄い良さげな人を演じればイイのだよ、うん!」
(・・あれ?・・うまくまとまっている気がする・・気のせいか・・)
「という訳で、妹、楽しみにしてるからね!」
(・・兄貴も、姉さんよろしく頼むわ・・)
「・・まぁ・・そのうちな・・」
・・いつかは分からないけれど・・きっとなんとかなる・・はず・・。
※
なんとも、オチが無かったような気がしますが・・キャラを演じるというのは誰しもが経験したことがあるのではないでしょうか?学校での自分だったり、部活での自分だったり、職場での自分だったり、僕の場合はキャラというか、高校に入るまで自我が無かったような気がします。ただ漠然と周りに言われるがまま、生活していたような・・。だからキャラを作る必要も無かったし、人間関係だとか、グループだとか、教室での立ち位置だとか、他人に興味が無かったし、最悪自分にも興味が無かったのではないかと・・今振り返ってみるとそんな気がしました。つまりずっと素のまま過ごしてきたという事ですね・・(笑)そんなんじゃ、色々うまくいかない事だってあると思います。僕は嘘をつくのが苦手なので、直ぐに顔に出てしまうので、だいたい、思った事をそのまま口に出していたと思います。そんなんだと、嫌われたり、仲間外れにされたり、悪戯されたりしますよね(笑)
・・何だコイツは!って。でも、それが必要な時もあるという事は、後々分かるようになってきました。特に仕事をする時など、なんだかんだで、チームとして一つの目的に向かっているわけで、独断先行なんてしたら、とんでもない事になってしまいます・・。思い切って上司に意見しても、僕の場合は特に何も変わりませんでした。・・君はそんな事は考えなくていいと・・。とても悔しかったのですが、さらに盾突くともっと酷い状況になるのが目に見えていたので、我慢しましたね。
まぁ、僕の性格上、集団行動が苦手で、さらに人と同じ事をするのが嫌いだったので、会社で働くという事に向いてないのかもしれないですが・・生きるために、今はお金を稼がなきゃと、自分に言い聞かせて踏ん張っています。
話しが少しズレてしまいましたが、キャラを作り過ぎると、最終的に一体どれが本当の自分なのか分からくなってしまう、という事があります。本当の自分は一体どれ何だろう?と悩んだりするかもしれません。僕も悩んだ時期が・・短期間でしたがありました。
辿り着いた答えは、結局のところ、その全部が自分なんだと気が付きました。色んな性格や表情、考え方、振る舞い、そのすべてが自分なのだと・・。
実際のところは、僕の場合なんかは、そんな事で悩んでいる自分が面倒くさくなったので、全部自分で良くね?と開き直っただけなんですけれど・・・・(笑)。
・・色々取り繕わずに接しあえる相手が居るのが一番ですね・・。
ありのままの自分を受け入れてくれる、そんな人がきっとこの世界に居ると信じています。
・・・つづく・・
おとうとーきんぐ 高西羽月 @tetora39
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