8コール・・・道案内
僕は、玄関の鍵をポケットから取り出し、ドアの鍵穴に差し込む。
「ガチャッ」っと音がして、鍵が開いた音がした。今日は日曜日で天気も快晴だったので、運動がてら、外に買い物に行っていたのである。先週の金曜日に給料が振り込まれていたので、日頃仕事を頑張っている自分に何か買ってあげようと思ったのがきっかけである。自分にご褒美と言っても、特に美味しい物を食べるでもなく、服を買うでもなく、結局購入したのは、新発売のプラモデルと、CD、小説と、普段の買い物とそんなに変わらなかった。僕は今のところ、これで満足しているので特に問題は無いと思う。そういえば、働き出してから、買った最も高額なモノって、パソコンくらいかなぁ・・後は、可動フィギュアとか、プラモとか、漫画とか、小説とか、CDとかくらいしか買ってない気がする・・車も一応首都圏だから、電車か歩きで十分だし。というか、車買ったら僕の全財産が無くなってしまうのだけれど。自転車を買おうかと考えた事もあったが、同僚がこの前、自転車のタイヤを盗まれたって嘆いていたから、やっぱり少し抵抗があるんだよなぁ・・・うん。都会コワイ・・僕は歩きで大丈夫だ。しかもいい運動になるし、一石二鳥だね。
僕はさっそく、今日購入してきた品々を鞄から取り出して、机の上に置いていった。とっても幸せな時間である。とりあえず何からしようかな・・ふんふん♪・・そうだなぁ・・とりあえず、パソコンに新しく買ってきたCDでも読み込ませるかな・・・・とそんな至福な時を満喫していた矢先、スマホの呼び出し音が鳴った。
・・・ん?・・誰だ?・・せっかく人が幸せタイムに浸っていたというのに・・まぁどうせ、弟だろうな・・そう思いながら、スマホの通話ボタンを押す。表示されていたのはやっぱり弟であった。時刻は午後三時を回ったところだ。
「・・もしもしもしもしもし・・・」
(あ、もしもし・・っていつまでもしもし言ってんの?)
「・・で?どないしたんどすか?」
(あぁ、兄貴今暇ぁ?でさぁ・・)
「・・僕に返事をする時間をくれ・・回答出来てないからね?返答聞こうね?」
(・・それでぇ・・給料が入ったから、久しぶりに街にに出て買い物言って来たんだよねぇ・・いやぁ、人がいっぱい居た)
「・・まぁ、今日は日曜だからな・・というか僕も丁度、金曜日に給料が入ったから、さっき買い物から帰ってきたところなんだよね・・」
(ふ~ん・・で?何を買ったん?)
「え?・・あぁ、まぁいつもと変わらず、新しいガンプラと、CDと、小説買ったくらいかな?・・他は特に欲しいの無かったし・・」
(だよねぇ・・なんか最近、欲しいの売ってないしなぁ・・)
「君は何を買ったのかね?」
(え?・・ああ俺?・・それは・・あっ!そうそう、本題に入るんだけどさ・・)
「え?本題じゃなかったのか?・・というか僕の質問に答えろ」
・・本当に、人の話聞いてないよな・・というかいつの間にか、話題が変わってる・・。またトラブル的なものに巻き込まれたのかな?トラブル体質にも程があるというかなんと言うか・・・どこの漫画の主人公だよ・・・。
(昨日さぁ、休日出勤だったんだけど、・・ほんとは休みなのに・・クソがっ!)
「いや、落ち着こう?暴言吐いてるから、心の声がダダ漏ね?・・」
(で、同僚と一緒に帰宅してたんだけど・・帰り道でさ、なんか道に迷ってたおばあちゃんが居てさ・・・)
「ふむふむ。で、道案内してあげたと・・」
・・まぁ、弟にしては、普通だったな・・うん・・。何が基準で普通なのかちょっと分からないけれど。
(なんか、同僚が、どうしましたって言って、おばあちゃんに話しかけたんだけど、で、俺はちょっと離れてその様子を見てて、なんか道を同僚が説明してるっぽかったんだけど、俺の待ってる場所に戻ってきて、ワリィ、ちょっと俺用事あるから、って言って先に帰りやがったんだよ)
「んん?道説明して帰ったんならいいんじゃないの?」
(いや、それが、俺も帰ろうとしたんだけど、ちらっとおばあちゃんの方を見てみたら、なんかいまいち分かってないような感じで、佇んでたんだよね・・多分同僚の説明が悪かったのか・・そこは分からなかったけど・・ほっとけなかったというか・・取りあえず、おばあちゃんに話しかけたんよ・・)
「ふ~ん・・それは確かに見ちゃったら、ほっとけないよな・・」
(・・で、何処に行くんですか?っていつもの営業スマイルで聞いたら、なんでも携帯ショップに行きたいみたいで、まぁ、確かにその辺りの地形というか、区画というか、結構入り組んでいるから、分かりずらいんだけどさ・・)
「へぇ、携帯ショップねぇ・・」
(で、よくおばあちゃんを観察してみると、何故か凄い大荷物なんだよな・・でっかい風呂敷に・・手押し車みたいなのと、よくある手提げ鞄と、とにかく、凄い量の荷物だったわけ・・俺は仕事終わってるし、後は帰るだけだったから、その場所まで付いくか、と思ったんだけど、その肝心の携帯ショップが何処にあるのか俺も知らなかった・・あはは)
「まぁ、あんまり行く場所じゃぁ無いからな・・でもそれお前も一緒に迷子になるパティーンじゃん?」
(ふっふっふっ、甘いな兄貴・・現代の技術力は凄いんだぞ・・スマホのGPS機能があるのだ!これで現在位置を特定出来るのだよ!)
「あーはいはい、凄いなぁー」
(で、GPS機能使おうとしたんだけど、なんか、パスワードがどうのこうの、電話番号がどうのこうのと、はい、使い方が分からなかった!)
「頑張れよ!現代っ子だろ?スマートに活用しような?」
(いやぁ、よく分かんねぇわ・・仕方ないから、近くに居た郵便屋さんに場所を聞いたんだよな・・)
「いや、郵便屋さんって、また凄いチョイスだな。」
・・どんな人選だよ、周りに人が居なかったのか?それなら仕方ない・・多分。
「・・あれ?でも郵便配達の人なら、知ってそうだな・・ショップの場所・・」
(でしょ?流石俺!どやっ!)
「知らねぇわ!・・携帯使え!僕のより高性能なやつのくせに」
(でまぁ、道を聞いて、おばあちゃんが持っていた一番重そうな荷物を持ったんだけど・・その風呂敷に入ってたのが、高そうな木箱でその中に、いい感じの
「ん?壺?いやぁ、重たいだろそれ・・というか、なんで壺なんて持ち歩ているんだろ・・」
(・・さぁ?俺には分からんね・・というか、壺を落とさないように運ぶのが大変だったなぁ・・というか、今まで、どうやってこのおばあちゃんは、これだけの荷物を運んでたんだろ・・)
「・・普通にタクシーとかなんじゃないの?」
(・・あぁ、確かに・・それだったらそのまま、タクシーで、携帯ショップまで行けばよかったのにな・・)
「・・それか、バスとか?」
(まぁ、いいや、それで・・郵便屋さんに聞いた道を歩いて行ったわけで、途中で壺が重すぎたから、休憩してたら、ふっと残りの道を忘れちゃってさぁ・・あせったね・・仕方ないから近くの八百屋さんのおばちゃんに、店の場所を聞いて、う~ん・・三十分くらいかけてゆっくり歩いて、ようやく到着したんだよ・・)
「はい、お疲れ様でした!・・意外とハードな道案内だったな・・」
(・・まぁね・・で、携帯ショップの店員さんに、おばあちゃんが用があるみたいなんですが、話を聞いて貰えませんかって言ったんだよねぇ・・対応をしてくれた店員さんは、いい感じの女性の人で、笑顔で、・・はい、どのような要件ですか?ってちゃんと会話してくれた・・)
「いや、普通はちゃんと会話してくれるだろ・・会話しない店員ってどういう店だよ・・お前店員さんを何だと思ってるんだよ・・」
(いやぁ・・コミュニケーション能力が無いに等しい俺にとっては、店員さんに話しかけるのも、そうとうなエネルギーを消費するわけよ・・下手すれば、壺を運んだ事よりも、疲れたんじゃないかな・・うん・・)
「いやいや、どんだけだよ!十分おばあちゃんとコミュニケーション取れてるだろうが!なんで、見ず知らずの人に話しかけることが出来て、お店の店員さんに話かけるのが難しいんだよ・・逆だよ、逆、僕は店員さんに話かける方が楽だと思うのだけれど・・」
(そうかなぁ・・で、店員さんがおばあちゃんに、・・お孫さんですか?って笑顔で話しかけてたんだけど・・俺が間を置かずに・・いえ、違います、それでは、自分はこれで帰りますのでって言って帰ろうとしたんだけど、店員さんが、凄くびっくりした顔してて、なんでだろ?って思ってたら、おばあちゃんが俺に、すみません、ここまでわざわざ、有難うございました・・本当に助かりました、あの、お礼をしたいので、お名前と住所を教えて頂けませんか?って聞かれたんだよね・・)
「・・まぁ・・店員さんがびっくりする気持ちが何となく分かる気がするのだけれど・・おっと、ラッキーじゃん!よかったね・・教えたんでしょ?」
(・・いや、自分はお礼を貰いたいから、あなたを助けた訳ではないので、名乗るほどの者ではありません・・それではっ!て営業スマイルで言って、店から出た)
「・・やべぇ、イケメンがいる!・・」
(ほらだって、兄貴が昔、簡単に知らない人に住所とか、名前とか教えたらいかんって言ってたじゃんか?・・)
「・・・確かに言ったような気がするけれど・・いやぁ、でもそのおばあちゃんには教えて良かったと思うなぁ・・それだと、おばあちゃんの気が済まないと思うよ?僕だったら、もしおばあちゃんの立場だと、なんかモヤモヤした気持ちが残るもん・・何が何でもお礼したくなるよ、そこまで親切にしてもらったらね」
(・・そうかなぁ・・まぁ、別にもう済んだことだし・・いいんじゃないの?)
「お前が、それでいいなら、いいんじゃないか?・・でもなぁ、受け取らなければいけない時もあるからなぁ・・せっかくの厚意を台無しにしちゃぁいけない時もあるんだよ・・今回の場合は、なんの下心も無い純粋な感謝の気持ちだったと思う」
(・・感謝の気持ちか・・・まぁ、今度こんな機会があったときは、有り難く頂戴しようかな・・)
「・・そうしろな・・道案内といえば、僕はよく外国人に話しかけられるね・・周りに人が沢山居るのに、何故か僕に尋ねてくるんだよなぁ・・この前、秋葉原に行った時とか、まぁ、あそこは、外国人の観光客が多いのは確かだけれど・・信号機を待っている時に、アジア系の・・インドとか?そんな感じのおばちゃんに英語で・・トイレって近くにありますか?的な事聞かれたもんね・・仕方ないから、つたない英語で、あそこに見える出っかいお店に行ったらありますよ?的な事を言ったけれど・・ちゃんと伝わったかどうか、分からない・・」
・・急に話しかけられたし、焦ったからなぁ・・あの時は・・。でも頭を下げられたから、伝わったって事でいいよね?・・多分・・。
(へぇ~・・あ、俺もあるよ、研修旅行の時、俺と同じくらいの身長のがっちりした体格の黒人の人に・・ヘイっボーイ?チカクニイイトコアルヨ?ヨッテカナイ?・・サービススルヨっ!!hahahaha!!って)
「いや、それ違うだろ!・・どう考えてもただのキャッチャーだよね?・・」
(・・まぁ・・たぶん・・)
「それはそうとして・・まぁ、順調にお前は徳を積んでるよ・・」
(・・ん?徳?・・)
「・・そうだ・・まぁ、死んだときは、天国行けるって事かな?」
(・・・ふ~ん、ああ、なんかいい事ないかなぁ・・なんかこう、すっげぇ、楽しい事とか・・彼女できねぇかなぁ・・)
「話が飛び過ぎてるような気がするけれど・・多分出来ると思うよ?」
(その根拠は!?)
「・・凄い喰いついてきたな・・根拠はないけど、徳ゲージが溜まったらできるんじゃね?いや、もう十分に溜まってるような気がするけど・・」
(・・いやぁ・・やっぱり・・なんというか、イメージが沸かないんだよなぁ・・女性と一緒に居るという、イメージが・・まぁいいやっ、兄貴、頑張って!)
「いやいやいやいや。お前も頑張るんだよ、まぁ、そこはお互いに頑張りましょうという事で・・そう言えば買い物で結局何買ったの?」
(・・え?・・ああ、お店を何件か見て回って、いいの無かったから、結局そう言えば、洗剤切れてたなぁ、と思って、業務用スーパーで特売の洗剤買って帰った。他は、今日の晩御飯とか、会社にもっていくお菓子とか?一番お買い得だったのが卵かな?全部特売だったし、ラッキーやったな・・それがどうかした?)
「・・主婦か!!」
※
という訳で、たまには日頃頑張っている自分のために、何かご褒美を買ってみるのもいいと思います。もちろん誰かに日頃の感謝の気持ちを伝えるのもいいですね。感謝の気持ちを伝えるって事は、とっても素敵なことだと思います。この話を読んで下さった皆様にも、感謝です。有難うございます!
・・・つづく・・・
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