6コール・・・お屋敷

 一人暮らしをしている中で、必ずやらなければならない事がある。それは部屋の掃除である。実家に居た時は、家族の誰かがやっていたので、そんなに大したことではないと思っていたけれど、(ちなみに、僕の担当は風呂場が多かった・・。)たとえ狭い部屋だとしても、風呂場とトイレと、キッチンと、強大な頑固汚れが待ち構えているのだ。それから、窓のカビとか。日頃から整理整頓していれば、そんなに大変なことではないのだけれど、それが、一週間、三週間、一か月、三か月、半年とサボってしまうと、中々、一筋縄ではいかなくなるのだ。

 はい、という訳で僕は今から、五か月 ぶりに部屋の掃除をするところなのである。季節はもう秋で、半袖がいいか、長袖がいいのか微妙な気温である。

べ、別にサボってた訳じゃぁないからね?仕事が忙しすぎただけだからね?

流石に、浴室の床が水垢だらけでうっすらと赤みを帯びていて、ぬるぬるしていたらもう、無視は出来ない・・後、髪の毛も排水溝のところに、沢山詰まっているし。ああ、これ、僕の髪の毛だ・・・一杯抜けてるなぁ・・きっと、現代社会のストレスのせいだわ・・絶対そうだ。誰か代わりに掃除してくれないかなぁ~・・まぁ、今日は特にすること無いし、徹底的に掃除するつもりだ。浴室の掃除は一旦置いといて、僕は、とりあえず床に散らばっている、服やらスーパーの袋とかを片付け始めた。

黙々と掃除を始めて三十分くらい経ったとき、ふいにスマホの呼び出し音が部屋に鳴り響く・・。

・・どうせ弟だろうな・・今は午前十一時過ぎか・・僕はしぶしぶ掃除の手を止めてスマホの通話ボタンを押した。

「私だ」

(・・はい・・暇を持て余す・・)

「・・えっ?。・・あっ・・神々のあそび!?」

・・・あれ?なんかいつもとパターンが違う気がするんだけど・・というか、全く暇をもてあそんでないから、掃除してるから!!

誰のネタだったっけ?・・最近というか、上京してからテレビ買ってないから、お笑い芸人とかあんまり分からないんだよね・・実家に帰省した時はテレビ見るけど・・帰省するたびにテレビの画像超綺麗じゃね?って感心してるんだよなぁ・・なんか薄いし・・画面かなり大きいし・・。弟は僕が覚えているであろうネタを使ってきたという訳か・・。というか、よく覚えてたな・・。

「・・で?どうした?」

(あっ、兄貴、今暇?)

「いや、僕は半年ぶりに部屋の掃除してるから、滅茶苦茶忙しい。掃除してるから滅茶苦茶忙しいからね?超汚れてるから、埃がヤバいから、髪の毛ヤバいから!」

(・・でさぁ、・・え?髪の毛?)

「浴室の排水溝のところにね・・」

(・・あぁ、あれを見るとなんか凄い髪の毛抜けてるなぁって思う)

「まぁ、僕の場合は半年分くらいだけどね」

といっても、片手でつかめる程度だけれど・・もう、掃除するときは気合を入れて一気にやってしまわないと、いつまでたっても手を付けずに終わってしまうからなぁ。今日は絶対に掃除するぞ!

「そういうお前は何をしてるんだ?」

(・・え?あ、俺?・・俺は新しい靴を買いにちょっと街に出てる。歩き疲れたから姫路城の近くのベンチに座ってる)

「へぇ、靴・・ね・・サイズあったのか?」

ちなみに弟の足のサイズは三十センチと、日本人離れしており、どのお店にも在庫が無い場合が多い。無駄にデカ過ぎなんだよな・・。

(・・うん、まぁ一応あったけど、デザインが・・なんか気に入らなかった・・)

「・・仕方なくね?よく靴とか、服とかサイズが大きくなるにつれて、デザインとかが雑になってくるじゃん?多分あんまり買う人が居ないから、デザインまで手が回らないんじゃないの?商品を作る時って、やっぱりなるべく多くの人に買ってもらわないといけないからな、性能重視なんだよきっと。すぐに壊れないようとか。あれ?でもオーダーメイドの靴屋さんがあったような気がするけれど?」

(今回は、大きいサイズを取り扱っているお店に行ってみた。ほら、体格が大き目の人用のあるじゃん?)

「ああ、大きいサイズ専門店な」

(それで、店に入ったらさ、え?何この客?的な目で店員さんに見られたんだけど・・まぁ、確かに俺の見た目は大きいサイズの人にはみえないからなぁ・・むしろ真逆かな)

「まぁ、ひょろいもんな・・電柱くらい?」

(いや、そこまでひょろくないから!)

「それで靴あったの?」

(えっと、とりあえず店員さんに三十センチの靴ありますか?って聞いたら、なんか、えっ?ほんとに?的な顔されて、最終的に足のサイズ測ってみましょうってことになって、測ったら、やっぱり三十センチだったから、なんか慌てて、在庫見てきますって走って奥の方に消えてった・・。)

「まぁ、あんまり三十センチのサイズを買っていくお客は居ないだろうからな・・そりゃあ、疑うのも無理はないな」

(いや!だって、店に大きなサイズ専門店って書いてあるだもん!無い方がおかしいでしょ!もし無かったら詐欺だからね!)

「で、サイズがあったけど、そのデザインがダサすぎたから、買わなかったと・・。まぁ、大阪の方になんか、もっといい店があった気がするんだけれど」

(近場で用事を済ませようと思って・・・)

「甘いな、もっと頑張らないと、気合が足りんな、気合が・・」

(・・う~ん、まぁ今度行くかな・・今日は店員さんと会話しただけで相当エネルギー使ったから、もういいや)

「いや、どんだけエネルギー使ったんだよ!少なすぎだろエネルギー!」

(まぁ、それで暇になっちゃたから、ぼーっとしてるというね・・)

「お前が、それでいいならそれでいいけれど・・」

(いやぁ、することなさ過ぎて、今、俺だったらどうやってこの姫路城を落とせるか考えてた)

「暇すぎだろ!もっと他のこと考えろよ!」

どんだけだよ、どんだけ暇なんだよ、今日は珍しく僕が真面目に掃除をしているというのに・・・。どこの武将になったんだよ、僕の弟は。いや、殿か?バカ殿なのか?まぁ、どうでもいいんだけれど・・ほんとに・・。

(・・それでぇ、改めて思ったけど、城って、本当に攻めにくい場所に建ててあるなぁって・・。周りとか、池みたいになってるもん・・単純に、石垣に梯子をかけてうまい具合に城の周りを取り囲むように・・と見せかけて、実は真正面から本隊を突撃させるのか・・どうだろう・・やっぱり堀を乗り越えた方がいいのか?それともやっぱり、一番手っ取り早いのは兵糧攻めかなぁ・・向こうが籠城してくるのは目に見えてる事だし・・・う~ん・・)

「知らねぇわ!!どんだけ真面目に考えてるんだよ!軍師か?今度は軍師が乗り移ったのか?」

(・・まぁ、俺たちの地元にある城跡さぁ、今思うと相当攻めずらいよね?凄い高い所にあるし、城にたどり着くのにかなり傾斜がきつい石の坂というか、階段みたいなの登らないといけないし、なんか、よく分からない池あるし・・崖もあるし・・春になると桜が綺麗だけどね・・)

「まぁ、確かに桜は綺麗だよな・・なんか小さい頃に武者鎧着て行進したような記憶がちらっと、蘇って来たけれど・・」

・・何歳くらいだったかなぁ・・幼稚園くらいかな・・なんか玩具の刀をひたすら振り回していたような気がする・・。いや・・旗だったかな・・。

(んで、本題に入るんだけどさ・・)

「今までのは、ただの前置きだったのかよ!長いわ!」

(さっき、城の周りを探索してたんだけど、なんかいつの間にか道に迷っててさ、周りを見渡すけれど、何故か人が全く居ない訳よ)

「んん?なんか前にも同じようなパターンがあったような気がするのだけれど」

(ほら、城下町だから、なんか建物とか大きなお屋敷とか、蔵とかしかなくてまるで江戸時代にタイムスリップした的な?地元にもそういう通りみたいなのあるじゃんか。とりあえず、全然道が分からなかったわけよ)

「・・迷ったのなら、仕方ないな・・というかスマホのGPS機能使えよ」

(う~ん、それが、使おうとしたんだけど、調子が悪かったみたいで、電波が悪かったのかな?で、適当に歩いてたら、大きなお屋敷があって・・なんか凄い立派な日本家屋的な?料亭みたいな感じの・・庭もあったし池もあったし、家の周りは塀で囲われてたし)

「そのお屋敷がどうかしたのか?」

(今まで、人の気配が全く無かったのに、そのお屋敷だけ人がいっぱい居た)

「どんな人達?」

(屋敷の使用人なのかどうか分からないけど、全員着物来てて、二十代から四十代くらいの女性がなんか、忙しそうに庭の掃除したり、洗濯してたり、食器を運んでたりしてた・・パッと見、十人以上は居たかな・・)

「・・旅館か何かかな?」

・・それ以外、考え付かないのだけれど・・・。

(・・う~ん、なんかそんな感じゃぁ無かったんだよねぇ・・でその中のリーダーっぽい女性と目が合っちゃって・・その三十代くらいの着物来た女性が・・あれ?こんな所に人が迷い込んでくるなんて珍しいですね・・って話しかけられたんだよねぇ・・。凄い綺麗な人だった・・こう・・なんて言うの・・内からにじみ出る日本の美、みたいな?クールジャパンみたいな?)

「・・なんだ?その言い回しは・・・。何だよ、クールジャパンって、んん?でも、なんでみんな着物来ててそんなに忙しそうにしているのに、その女性がリーダーっぽいって分かったんだ?」

(・・え?ああ、その人だけ何もせずに色々指示をしてたからかなぁ・・)

「・・ああ、なるほど、だからお前の存在に気が付いたと・・」

(で、その人がさらに、・・そうですね・・これも何かの縁ですし、良かったら中でお茶でもどうですか?って誘われた)

「なに?・・いや、何だ、その急展開!!」

(・・それで、なんか、凄い忙しそうだったから・・いつもの営業スマイルで、・・いや、たまたま通りかかっただけですので・・それにとても忙しそうなので、せっかくのお誘いですが、お邪魔になると悪いですので・・お気持ちだけ頂いておきます・・ちょっとこれから急ぎの用事がありますので、有難うございますって言った)

「お前、良くそうスラスラと、思いつくよな・・そういうセリフ・・」

(任せとけ!どやっ!)

「うぜぇわ!なんやのん、どやっ!って・・で?どうなったんだ?」

(そしたら、その女性が・・お菓子もあるんですけど・・そうですか・・用事があるのなら、仕方ありませんね・・って・・で俺が・・あのう、道に迷ってしまったんですけど、駅までの道を教えてくれませんか?って・・そしたら、詳しく教えてくれたから、その通りに道を歩いていったら、あっさりと、いつもの知ってる道に出たんだよねぇ・・)

「・・ふ~ん・・でもこれそんなにオチが無いような気がするんだが・・」

(いや、まだ続きがあって、さっき大きなサイズのお店に行ったって言ったじゃんか・・そこの新人っぽい女性の店員さんに、この近くに、大きなお屋敷があるんですねぇって話したんだけど・・その店員さんが・・え?・・そんな場所にお屋敷なんて在りましたっけ?って)

「んん?・・それは多分、そこで働き始めてからあんまり月日が経ってないんじゃないか?だから、その周りの土地勘とかがまだ無かったんだよ・・」

(そしたら、四十代くらいのおっさんの店員さんが話に割り込んできて、うん、確かに屋敷はあったと思うけど、あそこは滅多に人がいかないからなぁ・・もし人が居たら珍しいねって・・)

「・・え?・・なに?・・結局何だったの?」

・・滅多に人が居ないけど、弟が迷い込んだ屋敷には人が沢山居たと・・。たまたまその日が何かしらの行事ごとがあって、その屋敷を使うから、人が沢山居た・・という事なのか?・・結局謎のままなのだけれど・・。

(さぁ?俺にも分からんね・・)

「調べろ!なんかモヤモヤするから、もう一回その屋敷に行ってこい!」

・・変な次元に迷い込んだのか?・・漫画とかアニメじゃあるまいし・・これだけで、物語が書けそうなんだけれど・・。よく物語の始まりって、道に迷ってから知らない場所とかに来ちゃったりして、そこが異世界だったりとか、死後の世界だったりとか、色んなパターンに繋がっていくよね・・。いやいや、まぁ、それは置いといて、そんな事は無いでしょ、流石に。また、よく分からない事に巻き込まれていやがる・・。

(それが、さっき兄貴に電話する前に行こうとしたんだけど・・また道に迷いそうになったから、諦めた・・もう、たどり着けないな、こりゃぁ・・というかなんとなく、あんまり居てはいけない気がしたし・・)

「ふ~む・・そうか・・まぁ、じゃぁ、今度僕がそっちに遊びに行ったときにその場所を案内してよ」

(・・別にいいけど・・たどり着けるか分からないよ?)

「大丈夫、大丈夫。僕、地図見るの得意だから」

・・あっ、こんなに長く電話をしている場合ではなかった!僕にはやらなければならない事が今日は沢山あるのだ・・。

「でも、せっかくだから、お茶をご馳走になれば良かったのに・・というかそんにに忙しくしてるのに、客人を普通、屋敷に招かないでしょ?よっぽどの何かがあったんだよ・・お前に・・何かは分からないけれど・・」

(う~ん、そうなんだよねぇ・・どうして誘ってくれたんだろう?全く面識とかも無かったのに・・)

「お茶をご馳走になっていれば、そこがどんな場所かとかも、サラッと聞けたんじゃないか?そういうイベントなんて、滅多に発生するもんじゃぁ無いと思うんだけれど・・。僕だったら誘いに乗ってるね、多分・・」

(・・まぁ、そうなんだけどねぇ・・ちょっと勇気が出なかったというか、直感がやめとけって言った気がしたんだよなぁ・・)

「・・お前って、本当に毎回イベント盛り沢山だよな」

(いやぁ・・なんかこういう不思議系のイベントはあまり起こって欲しくないんだよねぇ・・・もうちょっと俺の頭で理解できる事ならいいんだけどなぁ・・)

「普通は不思議系のイベントなんて、起こらないと思うんだが・・」

・・それはそうと、早く掃除の続きをしなきゃな・・

「まぁ、次こそはちゃんと靴買っとけよ?・・僕はそろそろ掃除に戻らないといけないから・・というか、今から行けるだろ!」

(・・まぁ、確かに・・ちょっくら、行ってくるかな)

「ああ、そうしろ、それがいいと思うね・・」

(じゃぁ、行ってくる・・掃除頑張って・・)

              ・・通話終了・・。

さてと、掃除の続きでもするかな・・えっと次は・・おっ、とうとう来たな。浴室の掃除だ・・・これからぬるぬると、髪の毛との戦いが始まる・・。

                 ※

とまぁ、掃除はコマめにやった方がいいですね・・。とは言ってもなかなか、忙しかったりして、ついつい後に回してしまいがちです。そんな時は、少しだけ片付けてみるといいです。例えば机の上だけでも、埃をとって、モノを捨てたり整理したり、そうすると、近くの場所も、もちろん散らかってますので、その周辺も整理します。そうすると、どんどん片付けていき、気が付いたら、部屋の掃除が終わっていた・・ということになります。個人差があると思いますが・・。最初の取り掛かりが一番エネルギーを使うってことですね。一度始めたら終わるまで片付けるので、逆に途中で止めるという事が難しくなってくるはずです。よく部屋の中の状態はその人の心の状態を表すなんて言われていますが、あながち、間違ってないような気がします。今、あなたの部屋は片付いていますか?もし散らかっていたら、少しずつでいいので片付ける事を意識すると、部屋が綺麗になった時、少しは気分が気持ちよくなると思います。いや、きっと気持ちいいです!

            ・・・つづく・・・












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