4コール・・・夜道

会社から続くこの裏道は駅までの近道だ。普段はあまり通ることが無いが、遅刻しそうなときは、たまに通ったりする。夜になると街灯が点いているところと、点いていないところがあり、ほとんど真っ暗な道なのだ。街灯の明かりも点滅を繰り返していて、いかにも何かが出てきそうな雰囲気である。その近くの建物の物陰に隠れて、人が通るのをこっそりと、下賎な考えをもって隠れている男がいた・・・。

                  ※

十月の下旬にもなるとかなり肌寒くなってくるもので、もう長袖を着ていてもおかしくない気候である。今日は土曜日。休日出勤もなく、というか僕にはこれといった予定なんかもなくただ何となく、ポータブルゲーム機で、だらだらと部屋のベットの上に寝っ転がり遊んでいたのであった。

・・ああ、暇だなぁ・・なんか面白い事ないかなぁ・・一緒に買い物行ってくる人居ないかなぁ・・・やべぇ・・なんか凄く虚しくなってきた・・街コンとかに行けばいいのかもしれないんだけれど、初対面の人と何話せばいいか分からないし、やっぱ、同じ趣味の人の方がいいのかなぁ・・・それだったら会話弾むかも・・。今日はもう、ずっと部屋に引き籠っていよう・・うん。

そんな事を考えていると、ふいに、着信音が部屋に鳴り響く・・。

・・まぁ、多分弟だな・・まだ、朝の九時だけれど・・僕はしぶしぶ、通話ボタンを押したのだった。

「・・わてやで!」

(って・・だ・・えっ?誰だよ?)

・・中途半端な返答が返ってきた・・まぁそんなに期待してなかったけれど・・。

(兄貴、今、どうせ暇でしょ?)

「いやいや。僕は今、大剣を持って凶暴な雷を撃ってくる狼みたいなモンスターと命のやり取りをしてるんだから、それどころじゃぁないんだよね・・タイミングが悪いんだよいつも・・だから、暇じゃないね」

(なんだ、もう俺そいつ、倒したよ?)

「えっ?マジで・・早くね?」

(まぁ、ネット通信で、他の人と一緒にだけど・・)

・・あっ、その手があったか・・まぁ、いいか、僕はゲーム機のポーズボタンを押して机の上に置いた・・。

「んで、どうした?」

(・・ああ・・兄貴・・夜道には気を付けような?・・)

・・なんだろう・・いつもよりも、始まりのテンションが低い気がするのだけれど・・また変なことに巻き込まれたのかな・・。

「・・は?・・夜道?・・なんで夜道?」

ふう、とため息をついてから、弟は昨日あったという、出来事を語りだした。

(・・いやぁ、ちょっと上司と揉めちゃって、イライラしながら会社から帰ってたんだけど・・後、残業で疲れてたのもあったんだけど・・いつも通らない駅までのショートカットの裏道を通って帰ったのね?)

「ん、うん。それがどうかしのたか?」

(いやぁ、たまたま白いパーカ着てて、白い鞄を持ってたんだけど・・その路地裏ほとんど、真っ暗でさ・・手元がギリギリ見えるくらい?まぁ、だから裏道なんだけどさ・・)

「ふ~ん、裏道ねぇ・・」

(その裏道を早歩きで歩いてたら、いきなり右手の袖を摑まれて・・へへっお姉ちゃん、こんな暗い道を一人で歩いてると危ないよ?、はぁはぁ・・っておっさんに話しかけられた)

・・ん?・・あれ?・・僕の思考が一瞬だけ止まってしまった・・。

「・・ごめん。ちょっと待って・・考えが追い付いていかない、話の展開が僕の予想の斜め上を行ってて、考えがまとまらない・・はぁ?」

・・どうなったんだ・・これ?・・予想外過ぎてよくわからない。

(・・まぁ、咄嗟に摑まれた方の手で、相手の手首掴んで、こっちに引っ張りながら、思いっきし、後ろ蹴りを喰らわせてやった・・男だよ!って言いながら)

・・いや、これ、おっさん無事じゃないよね?・・弟の本気の後ろ蹴り喰らったら・・大の大人でも吹っ飛ぶよ・・つい弟よりもおっさんの心配をした僕であった。・・弟は昔サッカーをしていたので、蹴る力はとんでもなくある・・まぁ僕でギリギリ躱せるくらいなので、暗い道で避けるなんて無理だ・・しかも手首を摑まれた状態だとなおさらである。ちなみに僕と弟は中学校では剣道をしていた。その教えてくれる師匠が無茶苦茶強かったので、自然と剣道の腕も強くなっていったのである・・ちなみに最後の県大会でかなりの強豪校と当たった時に、僕は大将でほかのチームメイトが全員引き分けか負けてしまったにも関わらず、対戦校の大将だけは僕が倒したという事があった・・・。まぁ、チームは負けちゃったんだけどね。そんなこんなで、師匠からは、剣道するとかなり喧嘩が強くなるから、喧嘩はしてはダメと言われていたのである。・・まぁ弟と最後に殴り合いの喧嘩をしたのは、高校生の時で、お互いに成長期で、バリバリ部活もしていたし食べ盛り。そんな血の気溢れる高校生が家の中で殴り合いの喧嘩をすると、たちまち、障子は破れるわ、窓ガラスは割れるわ、モノは壊れるわ、で家が壊れそうになるという・・母親の「外でやりな!」で落ち着いたのである、その後、滅茶苦茶怒られてしばらくお小遣いもらえなかったんだよね・・今になっても、どうしてあんなに喧嘩したのか原因が思いつかないけれど(笑)

「・・いや、君は男の子だよね?・・」

(そうやけど?)

「身長、僕より高いよね?」

(まぁ・・そうやけど?)

「・・おっさん、バカなの!天地がひっくり返っても、お前は女には見えな・・あっ!!・・」

・・僕はあることに気が付いた・・そう言えば・・こいつ確か手元くらいしか見えないって言ってたな・・なるほどね・・それに白い鞄に、パーカー・・・。

「なるほどね・・手、だな?」

(・・まぁ・・たぶん・・)

ちなみに、弟の手は普通の成人男性よりも、細くて白くて長い・・そう、まるで白いアスパラガスのような・・これを言うと弟はキレるが・・。バスケットボールを片手で持ち上げることが出来る・・。

「まぁ、確かにお前のふにゃふにゃの白アスパラガスみたいな手だけを見ると間違えるかもな・・暗いし・・。」

(はいっ、兄貴、それ言ったら駄目だからね!実家に帰って、兄貴のプラモ片っ端にハンマーで砕いていくからね!って誰が白アスパラガスやねん!)

「お前だよ・・ていうか、それは止めれ、マジで泣くから、僕、立ち直れないからね・・そんなことしたら」

(ふ、ふにゃふにゃって・・確かに・・)

「いや、そこは納得するのかよ・・」

そして、一番に気になっていたことを聞いてみた。

「でさぁ、そのおっさん、どうなったんだ?」

(えっ、あぁ、二メートルくらい吹っ飛んで、尻餅ついて、三秒間くらい唖然としてて、俺が近づいたら物凄い速さで逃げていった・・まぁ、追いかければ、追い付いたんだけど・・途中で、ふっと、我に返って・・なんで、金曜の夜におっさんを蹴らなければならないんだって思って、悲しくなったから、帰った・・)

「・・うん、まぁ、そうだろうな・・普通、何が悲しくて、おっさんを蹴らないといけないのか、僕にも分からないね・・」

・・災難だったというか、なんというか・・というか、夜道、こわっ!そんなことってあるんだなぁ、僕は男だからそんな目に遭ったことはないけれど・・というか、あんまり夜道も歩かないけれど・・。まぁ少しはこれで、そのおっさんも懲りたんじゃないかな・・。まさか、とんでもない反撃を喰らうとは思ってもみなかっただろうし・・。

「おっさん・・身長は何センチくらいやった?」

(・・んん?・・確か・・百六十五センチメートルくらいかな?で、顔はあんまりよく見えなかったけど四十代くらいかな・・声と匂いから判断したけど)

・・まぁまぁの体格じゃん・・それを吹っ飛ばすって・・どんだけイライラしてたんだよ・・というか、こんな時代で、そんな事をしてくる大人がいるなんて、怖いわ~、絶対夜道危ないわ~・・ちなみに僕はヤンキーにすら話かけられたことすらもない・・話しかけれるとしたら、日本を観光中の外国人の人とかかな・・秋葉原に友達と行った時も、メイドさんに話しかけられなかった。友達は話しかけれてたのに・・試しに一人でメイドさんが沢山チラシを配っている通りを歩いてみたけれど、不思議と話しかけられなかった・・なんで?・・そんなに僕から話しかけないでオーラが出てるのかな・・それとも影が薄いの?・・あ、そういえば、絵画見て行きませんかって、声をかけられたな・・お金ないから無理ですって言ったけれど・・キャッチにはよく引っかかるなぁ・・そんなに僕の顔は騙しやすそうな顔してるのかな・・まぁ・・いいけれど・・。

「いやぁ、でも・・いくらなんでも自分よりデカイ人を襲うなんて思う?」

(いや、だから暗くて手元しか見えなかったんだよ、上まで見てないね)

「・・なんか・・なんとも言えない・・なんだろ?」

(まぁ、普段の俺やったら蹴ってないね、たまたま、イライラしてたから、つい反射的になんのリミットもかけずに、兄貴を蹴るように蹴っちゃったからね・・そりゃぁ、吹っ飛ぶね・・あははは)

「・・まぁ、少しはストレス発散出来たんじゃないの?お互いにタイミングが悪かったんだよ・・きっと・・。」

(いや、むしろ相当疲れた・・精神的に・・)

「・・まぁ、そのまま、おっさんに何かされるよりは、良かったよ・・うん」

(・・なにも良くないわ!・・もう、色々なんか嫌だ!今度あったら、ぎったんぎったんにしてやる!・・あぁ、働きたくないでゴザル・・・。)

「いや、最後の関係無くね?」

(・・なんかいい事ないかなぁ・・というか、どうせなら可愛い女の子が良かったよ、話かけられるの・・なんで、おっさんなの?)

「まぁ、僕もどうせなら、可愛い女の子の方がいいに決まってるけれど・・」

・・つくづく、世の中、色んな人がいるなぁ・・・。

                  ※

・・なにはともあれ、男女関係なく、夜道を歩くときは十分に気を付けましょう。今回は弟だから、防ぐことが出来ましたが、普通にパニックになってしまう事も考えられますので、なるべく夜は一人で行動するのは避けましょう。何かあってからでは遅いので・・当たり前の事だと思いますが・・・。それでは今回はここまで。

               ・・つづく・・ 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る