3コール・・・通勤電車
まだまだ蒸し暑さが残る九月中旬。
僕はエアコンの効いた部屋で、ぼーっと漫画を読んでいた。
今日は日曜日なので、会社は休みだ。時刻は朝の十時を少し過ぎたくらいだ。
・・はぁ、やっぱりエアコンは最高だぁ・・
なんてことを思っていると、唐突にスマホの着信音が鳴り響いた。
・・ん?・・誰だろ?・・まぁ、僕に直接電話をかけてくる人なんて限られているしなぁ・・。たぶん弟だね。
僕は何も考えずいつものように、スマホの通話ボタンを押した。
「私だっ!」
・・どうせいつもの返答がくるはずだ。いつものパターンだし。
(・・ん、あれ?・・〇〇さんの携帯電話であってます?)
「・・え?・・あ、はい・・あってますけど・・」
・・誰だよ?!!・・思わず心の中でツッコミを入れてしまったのだけれど、誰だろう・・日曜だし・・。というか思いっきし、渋い声で私だ!とか言っちゃったよ、恥ずかしぃ・・なんか穴があったら入りたい・・なんで弟じゃないんだよぉ・・もう、バカなの・・僕はどうしようもなく恥かしくなったので周りを見渡すけれど、もちろん、穴なんてどこにも無いので、ベットの布団に頭から潜り込んだ・・。エスケェェェーーーープっ!!!
「ああ、○○です・・いやぁ、休みなのになんか、すまんね・・」
会社の上司だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!・・しかも部長だぁ!。なんか色々終わった感がする・・え?なんでこの携帯番号知ってるんだ?・・あっそういえば、なんか緊急連絡先とかって言ってなんか、会社で記入したかも・・。
「あ、いえ、大丈夫です。ど、どうかされましたか?」
何かやらかしてしまったのだろうか?う~ん、こんなんでも一応は仕事しっかりやってると思うんだけどな・・なにかミスでもしたっけ・・
(ん、いやぁ、金曜に評価試験したサンプルがあったよね?)
「え、あ、はい、自分が評価試験した断面のサンプルですよね?」
(そうそう、それ。それって何処に保管してある?)
僕はホッと胸をなでおろす・・何だ・・そんな事か・・それなら・・
「試験サンプル保管ロッカーの二番目の棚に金曜の日付を書いた袋に入れてあります・・上から三番目の棚に置いてます。」
(おお、そうか、ありがとう、急にサンプルを送ってくれと、客先に言われちゃってね・・)
「あぁ。そうだったんですか、でも今日、日曜日なのに会社・・ですか?・・」
・・まぁ、よくあることなのかな・・管理職ともなると、色々大変そうだからなぁ・・。なんか少し、申し訳なくなるような・・気がしないでもない・・かも?
(はは、うん・・そうだな・・お!今から来る?)
「ゑ!・・いやぁ・・それはちょっと・・今外に出てますので・・はい・・」
(ははは、冗談だよ、冗談。・・じゃあ、ありがとね、また明日からよろしく)
「あ、はい、お疲れ様です。失礼いたします・・」
・・びっくりしたぁ・・焦るわ・・思わず、外出してるって嘘ついちゃったし・・。心臓に悪いな・・うん・・電源・・切っとくかな・・・。
そう思って、僕はスマホの電源を切ろうとしたとき、本日二度目の着信が・・。
今度はしっかりと誰からの着信かを確認した。一呼吸置いてから・・、
「私だ!・・バカなの?」
(って誰だよ?!・・え?ばかなの?)
※
「という訳ね・・分かった?」
僕は今までの出来事を簡単に説明した。弟はどうせ、軽く笑うのだろう・・
(・・ん・・なんか、ドンマイ!)
うわ、逆に励まされちゃったよ・・余計になんか来るものがある・・・。
まぁいいや、話題を変えよう・・。
「で、今日はどうしたんや?」
(ああ、えっと、木曜日の話なんやけど・・)
「え?木曜日?なんかずいぶん前のことやな?」
(今週末まで、かなり忙しかったから途中で電話、出来なかった・・)
出来なくはないと思うが・・まぁ仕事が忙しかったのなら仕方ないな・・。
「ふ~ん、で、どうしたのかね?」
(いやぁ、なんか朝電車に乗ってたら、急に隣に立ってた女子高生が・・倒れたんだよね・・。)
「・・ふ~ん・・え?倒れた?、電車の中で?・・」
さっきの上司と僕の会話なんて、もう僕の頭の中からキレイさっぱりと消えていた・・。倒れったって・・どういう事なのだろうか・・。
・・なんだ?なんでこんなに、ハプニングに巻き込まれるんだ・・?
(いや・・流石に俺もびっくりしたね・・)
やれやれといった感じで、弟は話を続けた・・。
(いやぁ、電車は人が沢山乗ってて・・まぁ朝だから仕方ないけど、まぁ座るところが無いなぁ、くらいの人の多さ?満員電車まではいかないけど七割くらいの人の多さ?で俺はもちろん出口付近のつり革に摑まってたんだけど・・いきなり「ドサッ!」って音がして何?って周りを見渡したら、隣にいた女子校生が凄い苦しそうにして、横向けに倒れてた・・。)
・・なんなんだ・・確かに電車に乗ってれば、急病人の救助で電車の発車が遅れたって言うのは経験があるけれど、よりによって、同じ車両のしかも、隣?どんな巡り合わせだよ・・。運がいいのか、悪いのか・・。
「・・え?・・それ、どうなったんだ・・?」
・・本当に予想が付かない・・周りの人が介抱してあげたとか?・・これ僕だったらどうしてただろう?すぐにパっと動けるかな・・パニックになりそうな気もするけれど・・・・そして弟は自分の予想の遥か上の行動を取ったのだった。
(いや、気が付いたら、俺は必死にその子に話しかけてた・・大丈夫ですかっ!・・どうしましたっ!って言った後に、その子の手を握って、今握っている手に力入りますか?って聞いてた・・)
「・・は?・・マジで?・・」
・・なんて奴だ・・流石は・・いや、凄いな・・。僕はたぶん
「・・いや、すげぇわ。普通はそんなん、他の人に任せちゃうよ・・少なくとも僕はそうしたかもしれない・・面倒なことに巻き込まれたくないって理由で・・。」
(いや、多分兄貴も同じ行動をとったと思うね・・たぶん俺よりももっと上手くやったんじゃないの?)
即答で自分の言ったことが否定されてしまった・・いやぁ・・どうだろう・・。
「いやぁ、そんなことは無いんじゃないの?・・分かんないけど・・」
(なんか、体が勝手に動いてたんだよね・・まるで、俺ではない何かが乗り移ったような感じ?・・普通だったらそんことしないもん、しかも女子高生だし、絶対に女性の手握ったりしないよ?あの時は何か・・自分でもよく分からないけど・・必死に話しかけてたんだよねぇ・・・)
・・トランス状態か?僕は弟状態がどんな精神状態だったか分からないけれど・・そういう状況になったとき、弟はそういう行動がとれるんだという事は、分かった。・・やっぱり、僕だったらパニックになりそうだな・・・。
「ふ~む、というかそれ・・その女子高生どうなったんだ?意識が朦朧としてるって、相当ヤバい気がするのだけれど・・それに、お前も会社があったんだろ?」
(う~ん、まぁ、そうだったんだけど次の駅で他の人に手伝ってもらって、その子を駅員さんに渡してから、また電車に乗った・・)
「・・そうか・・どうだったんだろうな・・その子・・まぁ、大事にならなけりゃいいけど・・という事は、そこからアニメや漫画や、ドラマのような展開は無かったという事か・・残念だったな・・」
(いや、当人は気絶してたからね?連絡先とか無理だからね?聞くの)
・・確かにそうだけど、助けたのはお前なんだぜ?・・・
「バカだなぁ、一緒に病院についてけばよかったんだよ・・会社なんてほっといて・・だって、心配じゃん?せめて、大丈夫だったかくらいは、確認しなきゃ、僕は気になって眠れないね」
(・・まぁ、確かにそうだけど・・たぶん大丈夫だよ・・他の人が救急車呼んだって駅員さんが言ってたから)
「まぁ、お前がそれでいいなら、それでいいけれど・・」
きっと無事だろう・・いや、無事でいて欲しい・・ただの願望なのだけれど・・というか、電車に乗ってるだけで、こういう事って、あるんだなぁ・・まぁ、いつ何処で何が、起こるかなんて、誰にも分からないのだけれど・・。これだけは言える。弟のとった行動は間違いなく、正しかったんだと思う・・・。
(まぁ、午前中はあんまり、集中して仕事、出来なかったけどね・・)
「だろうな・・まぁ、でもお前は徳を積んでるよ・・」
(え?・・とくって?)
「いや、何でもねぇ・・」
・・サラッと普通の人に出来ないようなことをやっちゃうからなぁ・・。
「きっとさ、お前が困っている時に必ず他の誰かが助けてくれるよ・・お前がその子を助けてあげたようにね・・そういう風に世界は出来てるんだよ・・世界は素晴らしいぃじゃぁないか!・・なぁ!」
(は?・・兄貴、何悟ったようなこと言ってんの?俺は他人の力なんて借りない、自分の力でどうにかする!・・後、働きたくない・・)
「・・はは、まぁ、そのうち分かる時が来るよ・・ん?・・今、最後にお前なんて言った?」
なんか、最後にとんでもないことを口走ったような気がしたけれど・・・・。
(働きたくないでゴザル・・)
「は?」
(会社なんて、上司なんて、同僚なんて、みんな消えちゃえぇぇぇぇぇぇぇぇ!)
「おいぃぃぃぃっ!せっかく今回いい話だったのに!そういうの要らないからね?そんなオチ要らないからね?そういう話は、別の時にやるもんだからね?」
・・うわぁ、思わずさっきの上司との会話が浮かんで来ちゃったよ・・休みの日まで仕事の事なんて、考えたくもないわ!
※
・・何はともあれ、困っている人がいたら、助けてあげましょうね?・・当たり前のことかもしれないですけど・・。
・・何処かで困っている誰かに、手を差し伸べたあなたに感謝と祝福を・・。
・・つづく・・
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