2コール・・・飲み会
梅雨の季節も終わりに近づき、段々と蒸し暑くなってきた今日この頃。
金曜日の駅は、仕事帰りの人たちや、学生などで賑わっていた。そしてホームの椅子でぐったりと寝そべっている、若いサラリーマンの姿が・・。
※
僕はいつもの時間に目が覚めてしまった。時刻は朝の六時過ぎ。目覚まし時計はセットしていなかったけれど、体が勝手にこの時間に起きてしまうのだ。
・・うわぁ。今日は土曜日で会社休みなのになぁ・・。まぁいいか、もう一回寝れば問題ないね・・。そう思いながら僕はまた布団に潜り、至福の二度寝をしようとした時、唐突にスマホの呼び出し音が鳴った・・。
・・え?・・この時間・・まだ七時前なんだけれど・・誰だ?人の眠りを妨げる大バカ者は・・。しぶしぶ、眠たい目を擦りながら通話ボタンを押す。
「・・私だ・・」
(って誰だよ!!)
「・・お前かよ・・」
・・やっぱりね・・そうだろうと思った・・。つうか、無駄にテンション高いな。
(でさぁ、兄貴、今暇??)
「いや、今から寝るところだから・・・・寝るところだから!」
(でぇ、昨日、会社の飲み会があったんだけどぉ・・・・)
「いや・・人の話聞いてる?・・大事なことだから二回言ったんだけど!」
(しかもわざわざ、大阪まで、電車に乗ってね・・あ、ミーティングが大阪であったんだけど、その帰りに飲み会があったんよね・・)
聞いてない、全然聞いてないよこいつ!・・眠いのに・・あぁ、なんかもう、目が覚めちゃったよ・・・。
「へぇ、僕はいかないねぇ、飲み会面倒だし、お酒あんまり飲めないし・・」
(いや、俺も普通は行かないんだけど、食い放題だったからね、しかも強制参加だったから・・部屋に戻って飯食べるのも面倒だなぁと思って仕方無いから、参加しただけ)
「ふーん・・まぁ、たまには参加せんとな・・飲み会・・」
・・そういえば、飲み会あんまり参加してないなぁ・・お腹一杯食べられない割には五千円くらい取られるからなぁ・・食い放題はいいねぇ・・・。
(でさぁ。せっかくだから大量に食って帰ろうと思って張り切って食べたわけよ)
「あ、分かったぞ、あんまりご飯が美味しくなかったんだろ?」
(いや、もんじゃが滅茶苦茶、美味かった)
・・あれ?予想を外してしまったんだけど・・こいつは絶対に嘘は言わないから、本当に美味かったんだろう・・。え?もんじゃ・・食べたこと無いんだけど・・。
(兄貴は東京だから、食べたことあるでしょ?)
「えっ?・・あ・・お、おう・・食べたような・・食べてないような・・」
(それで、酒は飲まないで、ひたすら料理を食べたんだけどね、)
「いや、それよりちゃんと、上司の人とかにお酒、注いだりしたのか?」
(ん?・・まあ・・一応した・・かな・・というか部長とかも来ててさ、なんか、おお、君はよく食べるねぇ・・名前何だっけ?って聞かれたんだけど・・)
「・・ん?・・うん。で?」
(グダグダに酔っぱらってたから、適当に佐藤ですって言った)
「いや、佐藤って誰!・・マジで誰だよ!、どっから出てきた?佐藤って?」
(まあ、いいじゃん、お酒飲んで酔っ払ってたから、きっと忘れてるよ・・)
・・流石弟である・・ていうか怖いわ~この子、こいつの前では酔わないようにしよう、なんか、とんでもない弱みを握られそう・・。
「それがどうかしたのか?」
(いや、それはどうでもよくて・・調子に乗ってビール飲んじゃったんだよね)
「・・別にいんじゃね?・・お酒飲んでも・・」
(いや、かなりお腹一杯の状態でお酒飲んじゃったら、とんでもなく気持ち悪くなっちゃって・・ピンチだった・・)
・・ああ、よくあるね・・僕も経験がある・・あれはキツイんだよなぁ・・。
「もしかして、ケロったのか?(笑)」・・ケロったというのは「吐いた」の優しい言い方である。みんなと共通というわけではなく、この兄弟の間ではそういう言い回しで通じている・・。
(いや、我慢した・・その帰りの電車の中がやばかった・・)
・・なんか凄く嫌な予感がするけど・・とりあず先を促した。
「何がやばかった?」
(電車の中は、やっぱり終電近くで、人が沢山乗っててもちろん座れなかったんだけど、仕方ないから、つり革に摑まるじゃん?)
「うん・・そうだな」
(で、電車が揺れて凄い気持ち悪かったんだけど、こういう時に限って、俺の周りにいる人が全員、若い女性なわけよ・・)
「え、いいじゃん、羨ましいわ・・僕なんて、電車に乗ったら周りおっさんばかりだよ?若い女性に囲まれるとか、そうそう無いわぁ・・」
(いや、兄貴、普通の状態だったら嬉しいんだけど、こっちは今にもリバースしそうな状態なんだからね?)・・リバースも「吐く」の別の言い回し。
「ん?なにか問題でも?」
(もし、リバースしたら、男として、社会人として死ぬ)
「え、仕方なくね?リバースしたときは、リバースした時だって」
・・出ちゃうものは、仕方ないよね・・うん。
(流石に女性の頭の上に、特製もんじゃを浴びせる訳にはいかない・・)
「おいぃぃぃ!、特製過ぎるわ!話にもんじゃ持ってくるな!せっかく、今度食べようかなって思ってたのにぃ・・バカなの?」
(ウマイでしょ?・・どやっ!)
「うまくねぇよ、もんじゃから離れろっ!、どやっ!ってなんだよ・・」
・・でもまあ、確かにそれだけは何としても回避しなければならないな。たとえ自分がどうなってしまおうと、気力の持つ限り我慢したとういうことか・・じゃないと本当にこいつは、海に飛び込んでいるかもしれない・・。
(まあ、おっさんだったら、ちょいと失礼って言って、背広の胸ポケットにリバース決めるね)
「ちょいと失礼ってなんだよ!ダメだろ・・ん・・おっさんならいいかな?」
(ちょいと失礼・・ケロケロケロぉぉ・・ぷふっ)あははははは、と突然笑いだす弟。つられて僕も笑ってしまった。
「ぎゃははははは、ケロケロぉぉ・・あはははは・・・・やっぱり駄目じゃね?」
(・・そうですね・・)
「で、結局どうなったんだ?」
(えっと、必死になって耐えたんだけどさ、ふと電車の窓に目をやると、凄いイケメンが見つめ返してきたんだよね・・)
「・・は?・・イケメン?いやいや、いくらカッコいいからって自分のことをそうそう、イケメンだなんて言わないぜ?普通」
(違う違う、いつもは腑抜けた顔してるけど、その時は凄い真面目でいかにも仕事出来ます的な顔つきになるくらい、ヤバかったんだって!)
「いや、日頃どんな顔つきなんだよ?シャキッとしろ、シャキッと」
・・自覚してるのかよ、腑抜けた顔って・・・。
(それで、近くにいた、金髪のギャルっぽい人が話しかけてきたんだよね・・)
・・はい、いきなり話題が変わったよ・・え?ギャル?・・
「は?ギャル?あ、大阪近いからか・・なんて?」
(あのぉ・・肩に髪の毛付いてますよ?って・・で左肩を見ると確かに金色の長い髪の毛が付いてたんよね・・いや、この毛、お前の毛やん!って心の中で突っ込んだんだよ・・だって、それどころじゃないんだもん、今にもリバースしそうだったんだもん)
「いや、ごめん、ちょっと待って、それ逆ナン的なやつ?」
(さぁ?・・)
・・いやいや、さあ?・・じゃあねぇよ・・あんまりギャルに話しかけられることって無いよ?少なくとも僕はね・・。なんなの、こいつ、モテ期到来なの?
「で、なんて答えたんだ?」
(ん、凄い営業スマイルの紳士的な笑みで、ご親切にどうもありがとう御座います、自分は全然気にしてませんので、お構いなく。ニコっ)
「うわ、イケメンだわ」
(喉まで、リバースしたのが来てたけどね・・)
「おぃぃぃぃ!イケメン台無しだわ。何が、お構いなく。ニコっだよっ!」
(ああ、でもなんかよく分からないけどね、ギャルの人が、じゃぁ、取ってあげますよって言ってその髪の毛を取ってくれた)
「優しい!やっぱり、人は見かけによらないねぇ・・」
(まぁ、すかさず、凄い営業スマイルの紳士的な笑みで、ありがとうございます、ニコっ・・でも本当にそれどころじゃなかったから、マジでヤバかった・・)
「イケメンだわ!・・これ脈ありじゃね?」
(まぁ、ちょうど次の駅に着いたから、そのギャルの人が人混みに押されるように出て行っちゃったんだけど・・)
「う~ん、なんか、色々残念だったな・・お疲れ様です」
(その時は、なんとか切り抜けたんだけど、もう耐え切れなくなって、あっ、そうそう、言い忘れてたけど。会社の先輩も一緒に乗ってた)
「ふ~ん・・まぁ、結局、ケロったのか・・」
・・ご愁傷さまです。・・終わったのか・・。
(いや?、次の駅で降りて、トイレに駆け込んだ・・・)
「なんだ、間に合ったのか・・」
(でも、トイレでリバース出来なくて余計に気持ち悪くなったんだよねぇ、しかもさっき乗ってた電車が終電でさぁ・・先輩も心配して一緒に降りてくれたんだけど・・なんか意識が
「ん?あれ?途中の過程が飛び過ぎじゃね?、車・・タクシーじゃなくて?」
(先輩の車だった・・)
・・うわぁ、すげぇ迷惑かけてやがる・・
(知らない女性も乗ってた・・先輩の奥さんだって・・)
「え?どういうこと?」
(先輩の家が近くだったから、先輩が奥さんに連絡して、車で迎えに来てくれたんだと、俺の意識が戻ったころに教えてくれた・・)
「先輩・・すげぇ、いい人だなぁ・・」
(いやぁ、流石の俺も、頭が上がらないよね・・)
「だろうな・・」
・・若さゆえの過ちってやつだな・・。
(で、そのあと自分が降りる駅まで送ってもらって、後はどうやって帰った覚えてない・・で、吐き気と頭痛で今までトイレとベットを行き来してたというわけ)
「寝てねぇのかよ」
(とりあえず、少し落ち着いたから、電話した・・腹も下してるし・・今トイレの中だよ♪)
「知らねぇわ!何時だと思ってるんだよ・・まぁ・・帰り着いて良かったな?」
(これからは、ちょっと気を付けるわ・・お酒・・)
「まぁ、そうやって、少しずつ大人の階段上って行くんだよ・・」
(ふわぁ~。眠い・・もう寝るわ・・じゃっ)
「えっ!無視?・・珍しく、いいこと言ったと思ったのに?」
・・電話の通話が終了していた・・。
※
という訳で、お酒は適量を飲んで、ほどほどに楽しみましょう。
・・つづく・・
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