おとうとーきんぐ
高西羽月
1コール・・・牛丼屋
唐突に携帯電話の呼び出し音が鳴った・・・。
僕は、部屋に置いているデジタル式の置時計に目をやる。
時刻は二十二時を過ぎていた・・こんな時間に電話をかけてくるのは家族・・弟か両親のどちらかだろう・・。僕は通話ボタンを押した。
「私だ」
(・・・って、誰だよ!)
いつものやりとりである。このネタ分かる人いるかな?まぁどうでもいいけれど。
(でさぁ、兄貴・・今暇?)
「え、今、深夜アニメ観てるんだけど」
(うん、暇だね、今日さぁ・・)
「いや、ちょっとまって!アニメ観てるから、暇じゃないから!」
(うん、でさぁ、昼にね、牛丼屋さんに行ったんだけど・・)
・・おいぃ、こいつ人の話きいてねぇな・・と思いながら、パソコンの一時停止ボタンを押そうとしたのだけれど、弟との会話が10分くらいで終わった試しがないので、僕はとりあえずパソコンをスリープモードに切り替えた。
「で?なに?」
・・少しキレ気味である。そんなことは全く気にしてない様子で弟が話の続きを喋りだした。
(牛丼屋さんの店内は、誰もお客さんがいなくて自分一人だけだったんだけど・・兄貴、ここポイントね?)
「は?なんのポイント?」・・意味がよく分からない。
(いや、だからお客さんは俺一人だけだってところ)
「ん、あんまり繁盛してないってことか・・まぁ、このご時世、チェーン店とかは競争が激しいからなぁ・・仕方ないことだね・・うん」
中途半端な時間にお昼を食べにいったのかな?・・そういえば、最近牛丼屋さんとか行ってないなぁ・・。
(いや、まぁ、そうかもしれないけど、というかどうでもいいけど、他にお客は一人も居ないというところをちゃんと覚えておいて)
「へいへい」
・・なんなの、そんなにそこ重要?まぁ、確かに珍しいかもしれないけれど・・。ああ、あれか、地元の駅みたいに電車の中には自分以外誰も乗ってなくて、貸し切りじゃん?みたいな、妙にテンション上がるって感じかな・・。ちなみに僕たちにの実家は九州だ。
(で、牛丼の特盛を頼んで三分くらいで店員さんがもってきてくれたんだけど)
「まぁ、お前意外誰もいないからな、客が」
(店のドアが開いて、新しいお客さんが店内に入って来たんだけど)
「うん・・あっ、分かったぞ!とっても可愛い子が入って来たんだろ?」
とりあえず、適当に答えてみる。
(おっ、当たり!・・)
「よっしゃぁ、冴えてるぜ」
・・当たってしまった・・まぁ、たまにあるよね、こういうことって。
(で、その後にチャラい感じのお兄さんも入って来た)
「はい、お疲れさまでした!」
(お疲れさまでし・・じゃなくて!)
「ん?・・もう終わりでしょ?」
(いや、ここから・・)
何だろう・・若干弟の声のトーンが下がった気がするのだけれど・・なんだか嫌な予感がする・・。
(なぜか、何故かだよ?他にも席が沢山空いているのに、わざわざ、カウンター席の俺の隣にそのお姉さんが座って来たんだよ・・)
「ふ~ん、ん?・・・あれ?席は他に空いているのに?」
(ほら!だから言ったじゃん!ポイントだって!)
「あぁ、そういうことね・・確かにそれはオカシイな・・同時に怪しいな」
・・なんで、隣なんだ?・・その人たちの意図がよく分からないのだけれど。
(でさぁ、とりあえずは牛丼早く食べて、さっさと帰ろうと思ったわけよね?)
「うん、まぁそうだな」
(でもさぁ、やけに大きな声で会話してるわけよ、その二人が・・)
「どんな?」
・・だんだんと読めてきた気がする・・・・ほんとにろくな目に合わないな。
(たしか・・・ねぇねぇお姉さん、連絡先おしえてよ、ねぇ、って感じでお姉さんの方は、もう!しつこいです!やめてください!みたいな感じだったかな・・)
・・うわぁ・・とてつもなく面倒なのに絡まれていやがる・・人生でそんなことってあるんだねぇ・・と僕は逆に関心してしまった・・。
「ほう・・で、お前はそれ、男としてやっぱりちゃんとやるべきことは、やったんだろうな?・・・怪しくても・・」
(いや、無視した)
・・即答である。
「うん、まぁ、いんじゃね?」
・・流石、我が弟である。
(そしたら、5分くらいたっても全然会話が進んでなくて、同じことをずっと繰り返して言ってるんだよね・・まるで、俺に会話に入り込んでくださいと言わんばかりにどんどん声が大きくなっていくというね・・)
「いや、逆にすげぇよ、お前の精神力が」
・・図太いにも程がある。そして、ある事に気が付く・・。
「ん?それ、店員さんに言えばよくね?ちょっとうるさいんですけど?みたいな感じで」・・面倒だし・・。
(いや、そんなコミュニケーション能力は無い)
「いや、あるだろ!今まで、どうやって仕事してきたんだよ」
(いや、だって今日は会社休みだし、完全なオフだから・・)
「オフって、なんだよ」・・まぁいいけれど・・。
(で、牛丼食べ終わったから、お会計を済ませて店の外に出たんだけど・・・)
「あれ?そこで終わりじゃないの?」
・・まさかの続きがあるらしい。てっきりそのまま店を出て、アパートに着いてお終い、ではなかったのか・・。
(店から出たら、さっきのお姉さんとお兄さんが走って近づいてきてさ)
「えぇ?!走って?・・なんで?」
・・何が起こったんだ?・・つい、素で驚いた声を出してしまった・・。
(お兄さんが、あのぉ、すみません、普通は会話に入って来ますよね?困っている人がいたら、助けますよねぇ?って・・)
・・どういう会話だよ・・普通は無いな・・うん。それともよくあることなの?
「それで?」
(・・はぁ・・?)
「って言ったのか?」
まあ、打倒と言えばそんなところかな・・聞かれたことないから全然わからないけれども・・・。
(そう、しかも凄い疲れた感じの顔で、いや、軽く軽蔑しているような感じの顔で、見下したような感じの・・はぁ?・・って)
・・流石、我が弟である。
「いや、別に見下さなくても自然とそういう風にになるだろ?」
・・ちなみに弟の身長は僕より高い・・180cmを越えている・・。
(いやぁ、ここまでやって、会話に入ってこなかった人って中々居ませんて。なぁ?・・と、お姉さんにも同意を求めるという・・)
「いや、もうそれ、ネタバレしてるじゃん。知り合いじゃん。グルじゃん」
・・わざわざ、そんなこと言いに来たのかよ・・物好きな人が居たもんだ・・。
(いや、仕事で疲れてたし、お姉さんの演技がちょっとワザとらしかったですって言って、帰った)
「いや、最初から分かってたのかよ!いや、なにその演技指導!」
(いやいや、最初は止めて下さい、困ってますよ?って言おうと思ったけれど、おお腹空いてて・・ね(笑))
食欲が勝ったと・・でもまぁ、余計なことにならずに済んでよかったのかもしれない。こういうのって、確か、
なんにせよ、僕が弟に言うのはただ一つ。
「彼女作ろう?」
そして、間を空けることなく弟はこう言った。
(兄貴もな?)
※
僕たち兄弟が生まれ育った、町は・・町というか村?・・は、凄い田舎で電車が二両編成で走っていたり、バスは三時間に一回来るとかが当たり前で、高いビルなんてものもなく、山と畑くらいしかない。進学などの関係で、もちろん大学なんてものも電車に乗って2時間くらいのところしかなく、地元を出ていくのが当たり前。社会人になって、東京に出てきて、駅の人の多さにびっくりして、社会の荒波に揉まれて・・。まぁ、キャッチにはよくかかるわ、変な宗教の人に勧誘されそうになるわ、アンケートをどうぞって、住所書かされるわ・・その後三千円払わされるわ、地元の人たちが優しかったので、人を疑うってことをあまりしたことがなかったもので、よくカモられてました(笑)。
そんなこんなで、一時、人間不信になったこともあったりして・・部屋のチャイムの音が怖くて、かなりストレスに感じていたときもありました。
自分がいろんな目に遭ったりしたので、せめて弟には同じ目に遭って欲しくないなと思い、気を付けろよという意味で、電話をして注意してました。まぁ、僕よりも、ほんとにそんな事があったの?っていうような事ばかり弟が電話で話していたのですけれど。
それでも、もしかしたら誰かの役に立つかもしれないなんて、思って文章にしてみました。
世の中には、こんな目に遭ってしまった人がいるよって、それでもちゃんと、めげずに生きてるよって。そんなものには引っかからないぞって、少しでも心の隅に置いておいてもらえればと・・。
何かしらの交渉事を持ってくる人・・営業職の人達というのは、会話をしながら、いつの間にかこっちが商品を買うはめになるように誘導されてしまいますよね・・。相手側もそれでお金をもらっているのだから、プロです・・。
そういう相手に対して特に会話術で対抗しようとしても、僕の場合は全く歯が立ちません。そりゃぁ、自分は営業職じゃぁ無いので・・やっぱり大事なのは、相手の目を見て会話が長くならないうちに、「大丈夫です。自分には必要ありません」ときっぱりと断るのが一番いいのかなぁ・・と思います。僕の場合は会話中にその人の人生とか、あぁ、この人にもノルマがあって、商品を売らないと業績が伸びないんだろうなぁ・・養っていく家族もいるんだろうし・・断ったら可愛そうだなぁ・・しかもなんかこの人、物凄く必死だし・・・お仕事ご苦労様です・・。などと考えていますね。余計なお世話かもしれないですけれど。
騙す人ばかりではなく、逆に助けてもらう事も今までで沢山ありました。見ず知らずの人なのにどうして、助けてくれんだろう、この人にとって何の利益にもならないのに・・・・どうして助けてくれんですか?と聞いたことがありまして、(今になって考えると凄く失礼な質問です・・。)この頃はかなり心が荒んでいて、本当に理解が出来なかったのです・・。何か裏があるんじゃないだろうか、そうやって自分に近づいて、なにか頼まれるんじゃないかとか。・・発想が捻くれてますよね。そしたら、その人が笑いながら「誰かが困っていたら、助けるのは当然の事でしょ?」と答えてくれました。
その時、僕の体に、あえて音を付けるとしたら「ピシャァァァンっ」と体を一つの衝撃が走ったのでした。今まで、人を信じる事が出来なくなってきて、むしろ疑う事ばかり考えてきた自分が、なんて、浅はかだったのかと。だから騙されてもいいという訳ではないですが。当然ですよね。
日本、捨てもんじゃねぇな、と部屋のベットの中で、こっそり泣いたりして・・。その話はまた別の機会に。
・・つづく・・
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