思いの名は
三人が開かずの間とやらに行ったのは、次の日の昼頃だった。
要するに、大掃除をサボったのだ。
しかし一人一人が別々の掃除場所を担当する大掃除が、姿をくらますのには絶好の機会だったのは事実だ。
姿が見えないことに気づいた監督役の彩音さんが三人を探し始めても、私は特に何をするでもなく掃除を続けていた。
同じ子供ということで質問もされたが、
「知らないです。
ただ、何か計画を立てていましたね。」
そう答えた。
嘘はついていないが、思惑通り皆はただのサボりか何かと勘違いしてくれたようだ。
あの双子ならやりかねないと。
それでも一応叱りに出掛けた数人の大人を横目に、私は担当していた二つ目の部屋に向かった。
天井の埃を落とし、掃き、畳を乾拭きする。
廊下は水拭きし、落ち葉をはく。
慣れた作業で穴があいていた障子を綺麗に張り替えて元に戻すと、そろそろお昼という時刻だった。
きりもいいし、一旦厨房に向かって昼ご飯の手伝いでもするか。
そう思って立ち上がり振り返ると、その先の襖に手をかけた。
「えっ……?」
ぞわり、何かを感じて慌てて飛びのいた。
もう一度、まじまじと襖を見つめた。
目の前の襖自体に変化はない、
けれど、その入り口には見たことのある〝札〟が貼ってあった。
冷や汗が流れ出る、だってここにはこの扉があるはずないのだから。
離れはここから数十メートル先だ、馬鹿な。
何より恐ろしいのは、中から何かを感じることだ。
瞬時に飛びさるほどの恐怖、悪寒と吐き気がする、君の悪い感情。
そう、これは。
「殺気………、っ!?」
強い視線と気配を感じて、左側に首を向けた。
視線が空間を彷徨う。
何もない、…気のせいか?
思ったことを反芻し、しばらくしてからそう思いこんだ。
そして、再びゆっくりと首を前に向けていく……
ぱっ、と景色が変わったようだった。札も気配も感情も、消え去っている。
「………?」
震える手でゆっくりと障子に手をかけ、横に動かす。
明るい日の光が差し込み、ほっとした。
何だったのだろうか、
疲れ過ぎ、それとも三人を止めなかった罪悪感による幻覚だろうか。
けれど未だ残るべっとりとした汗の感触に、どちらの答えにも違和感を感じる。
私はそこを、足速に去った。
叔母達と厨房で昼食を作っていると、突如自体が動き出した。
まず彩芽さんが従兄弟達3人が家の何処にもいないことに気づき、
大祖父が、札のある部屋を誰かが開けた形跡があると気づいたと言った。
すぐに一族全員がパニックになる。
薄々気づいてたが、どうやら私が産まれる前にあの部屋について何かあったらしい。
彩音さんは震えながら泣き出し、
健太君と寿福君の両親は、大祖父に向かってずっと何かを叫んでいた。
他の叔父と叔母はヒソヒソと何を話し合い、
私の両親だけが、互いに手を繋ぎながら不安そうにそれらを見ていた。
残された私は今更ながらにことの重さを知り、三人を心配するのではなくまず自分の選択の正しさに安堵した。
けれど湧き上がるのは、あの双子と同じ考えと感情だった。
私は胸の中に隠していた思案を、気づけば現実で実行していた。
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