嫌いな双子
「なぁーー。
ちょっと話があんだけど。」
「コウ、だよ。
えっと…健太君に…寿福君ーーだったっけ?」
「そうそう、よく覚えてんなぁー
こんな疎遠の従兄弟達を。」
「双子って、覚えやすくってね。
それにこの家の跡継ぎって、何かと大変じゃないかと思ってたんだ。」
「まぁな…
行事の時とか、何かとやること多いんだよな…
……大掃除だって、俺達だけ広い部屋任されるしよぉ………まじイラつく…
…とそれは置いといて。
なぁ、
お前〝開かずの間〟に行く気はないか?」
二人は四つ上の従兄弟で、昔からよく悪戯をしては彩芽さんに怒られていた一卵性双生児だ。
私が二人のことを覚えていたのは、単に双子であることやこの家の跡継ぎであるからだからだけではない。
感情的になりやすく自己中心的、遠まきに見ていても私が最も嫌う人種だとわかっていたからだ。
それでも、だからといってあからさまに嫌な態度や挑発をしないのは私だけではないだろう。
「………唐突だね」
「そりゃあ、話は早い方がいいからな。」
声も姿も見分けがつかないほどそっくりな二人は、同じようにクスクスと笑った。
断る理由もないので説明だけ聞くというと、彼らは同時にニヤリと笑って私を空き室に案内をした。
そこにはすでに先客がいて、少女は私を見るや否や足をバタつかせた。
太陽ちゃん、彩芽さんの一人娘だ。
六歳ほどだという彼女に、自分でこんなことを計画する力はない。
確実に、このニ人にたぶらかされて来たのだろう。
嬉しそうにこちらに向かって笑う彼女に、作り笑顔を微笑み返した。
「おきゃくさんだー!」
「そうそう、このお姉ちゃんも一緒に行くぞー!」
「楽しみだねー、太陽ちゃん」
「まだ決まってないですよ?」
なるほど、あれほど禁じられた部屋だ。
行った後の彩芽さんの怒り具合を考えて、近縁を連れていった方が良いと考えたのだろう。
確かに自分にも他人も厳しい彩芽さんは、愛娘だけには甘い。
他人の子であろうと容赦無く家から締め出すことで有名な彼女が、唯一怒り方を替える人間だ。
彩芽さんが彼女に手を出したところどころか、声を荒げたところすら見たことがない。
それに、何百回と怒られたこの双子のことだ。
きっと彼女がいたおかげで、もしくは彼女がいたために罰が軽くなった経験でもあるのだろう。
とはいえ私の考えでは。
それゆえに本気で心配させたら、さらに怒らせてしまうと思うのだが。
ニ人は気づいてないのだろうか。
顔も頭も学歴も良いのに、どうして彼らは人の心象を読むことに関しては何処か欠けているのだろう。
なるほど、だから私を連れて来たのか。
見ると、双子の一人が押入れを開けて中を探っていた。
古い家だ、押入れの中には燭台や蝋燭が入っている。
それらを取り出し蝋燭に火をつけると、もう一人が代わりに電気を消した。
すると彼らは、まるで怖い話でもするように声を低めて計画を始めた。
「俺らの今回のミッションの目的地…
それは、この家に昔からある開かずの間…
つまり、入り口に札が貼られている部屋だ。
調べたところ札は由緒正しい寺のもので、中は建築当時の図面から六畳ほどだと思われる。
そして日本ではありえないことに北北東を入り口にして、離れに存在してる。」
「その特徴をもとに探り出したところ、とある村の伝承と言い伝えに似た特徴を持つものがあった。
名は、〝吐き溜め〟」
…札の出処や図面までどうやって調べたのか、もはや知能の使い方を間違えているとしか言えない。
聞きなれない言葉が出たが、例えば山などに囲まれている閉鎖された地域には独特の風習があると聞く。
きっと、その一つということだろう。
だがそんな話、何年もここに来ていて初めて聞く。
吐き溜め…あまり良い第一印象はない。
「家には必ず悪いものやその種が溜まる、だから億万長者や恵まれた者はなかなかいないし長続きしない。
それがその地域の考えだ。」
「そこは〝やませ〟なんかが毎年吹いていて、特に冷害が酷かったらしい。
村全体が、揃ったように苦しい生活を強いられていたようだ。」
「そこで、村人は考えた。
家に集まるその悪種を、どこかに移動できないかと。
そうすれば、
まぁその言い伝えが真実なら、
家は大繁栄間違いなしだからな。
そして、実際にそれを溜めておく場所を作った。
そしてその結果、あるものは国一の商人にあるものは村を出て幕府に仕える身ととなった……
と文書には書かれている。」
「村のものはその構造を決して口外せず、もし漏らしたら村人の手によって一族もろとも処刑された。
そのため詳細は不明だが…
他の村が猿真似をしても〝吐き溜め〟は絶対に機能せず、むしろ一族もろともを呪い殺したという。」
「その村はそれから数年後ダムの下に沈み、村人はバラバラになった。
以後、〝吐き溜め〟の噂や情報はない。
いや…
たった一族だけ、その風習及び伝統を続けている。
それが〝俺達〟だ。」
「他の村人達が何故以後その伝統をやめてしまったのか、その理由は謎だ。
けれど恐らくは〝吐き溜め〟に、大きなリスクや特別な条件があったんだろう。
そして村人の数少ない証言によれば、
〝吐き溜め〟は、中を見ればその構造が全てわかってしまうらしい。
だから些細な情報も、ひた隠しにしたんだ。」
「俺たちは、それを確かめようということだ。」
………馬鹿だ、やはり。
私が思わず顔を顰めたのを、あざとい少年達は見逃さなかった。
逆に馬鹿にするような表情を貼り付け、言葉を意味なく発して行く。
「それでもし一族に不幸が降りかかったらどうしよう、
そう思っているだろ?コウ。」
「………」
「そんなもん信じてんなんて、やっぱりお前は馬鹿だな。」
「そうじゃないから、この世界は不条理なんだよ。」
「それはお前が一番良く知っていることなんじゃないのか?」
「………」
「「なぁーー
〝これはきっと、
お前の人生の証明だ。〟」」
知ったような口をきく。
馬鹿な上に五月蝿い奴らだったとは。
私は立ち上がって、入口の襖に手をかけた。
「…私は降りるよ。
そんなに昔から続く伝統を、彩音さんだけでなくこの一族が大切にしていないわけがないからね。
怒られるのは、嫌だから。」
罵倒とからかい文句と呼び止める声を無視して、その部屋を出る。
扉を閉める瞬間。
一度だけ振り向いたが、そこにはもう私を見ているものはいなかった。
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