呪われた者達に幸あれ

冬の猫

面倒な一族

何故、来てしまったのだろうか。


来るなと言われていたのに、私は気付けばその部屋の前にいた。

年に数回だけ訪れる大祖父の家は、昔この辺りの地主だった名残と今の金持ち具合から非常に広く、また多くの部屋がある。

一族で代々続けていた商売は食品会社となり、今ではかなり世界進出しているとか。

現在は私の父の兄が継いでいるのだが、その血を引く恩恵及び苦労は十分あった。

人を束ねる立場でもあったためか今なお信仰や伝統が重視されるこの家は、家族の繋がりとやらでほとんど絶縁状態の私達にもそれを強要してくるのだ。

本当に、

迷惑なことに。

何故県外どころか区分すら違う場所から、わざわざこんな田舎に来なければいけないのか。

電波は繋がらない、

大型ショッピングセンターはない、

図書館も公園も交番すらもない。

辺鄙で退屈な地理にも関わらず、墓参りやお祭りの手伝いなどの仕事は溢れかえるほどにある。

まだ学生の私がこうなのだ、

末っ子とはいえこの家の血を引く父、

それにこの家ほどではないが比較的裕福な家庭で育ったお母さんは

もっと辛かったに違いない。

そんな状況で楽しく過ごせるほど元気が良いわけでも仲が良いわけでもない私達一家は、ただひたすらこの一週間を沈黙で過ごし続けた。

それに変化があったのは、昨日の夕食のことだ。

大祖父の元に集まった親戚が、皆無言で箸を進めている。

しきたりで一家の跡継ぎ順に上座から座るため、父と母は遠くにいた。

間には、顔と名前だけを知る従姉妹や叔父叔母がいる。

代々の跡継ぎが食べ終わって初めて食にありつけた私達は、豪華なのに味のしないそれらを単純作業で口に運んだ。

大祖父は夕飯が済むと、鋭い瞳で何処かを睨みつけながら何かを待っているだった。

また新しい仕事か、そう思うと疲れがどっと来た。

私はご飯を食べるのが早く、箸をおくと周りの親戚で人間観察をしていた。

前々から気になっていることは、多々あるのだ。

大祖父は大祖母とあまり仲が良くない、一度も話している所や笑い合う所を見たことがないのだ。

そして、祖父達4人兄弟姉妹に父達4人兄弟姉妹とその夫妻の中にある妙なよそよそしさ。

私のお母さん以外は、皆この辺りの家とのお見合いで夫婦になったというのに。

やはりこの家の仕事兼雑用の数々に、疲れ果てているのだろうか。

全員が食べ終わった時だった。

「明日は、例年通りこの家の大掃除をします。」

凛とした声が、鼓膜に突き刺さるようにして届いた。

跡継ぎに役目を引き渡した祖父の一人娘の〝彩芽〟さんだ。

芯の強さを表すように伸びた姿勢に、思わず嫌悪感を感じる。

祖父の近く、すなわち数十人分遠い場所にいた彼女はいつも通り勝手に進行を務めて役割分担をした。

大掃除、それも何十人もの人間が住めるほどの大豪邸を?

そんな疑問を胸に押し込みながらその苦労を想像して溜息をつく私に、彼女は忘れず最後に一言つけた。

「ただし、札のついた部屋は開けないように。」

その言葉に、空気が一瞬で張り詰めた。

顔が引き締まり、中には震え出すものまでいて皆一様に何かを恐れているようだった。

ただし、私と五名を除いて。

解散して一人で部屋に戻ろうとする私に、聞きなれない声がかかった。

「なぁーー。

ちょっと話があんだけど。」


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