第306話 「雨」



 いつの間にか雨が降って、いつの間にかやんでいた。

 濡れた草花に滴る水滴が、陽光をつるりと弾いて眩しい。

 八木重吉の詩「雨」を諳んじてみる。


 ***


 雨のおとがきこえる

雨がふっていたのだ


 あのおとのようにそっと世のためにはたらいていよう

雨があがるようにしづかに死んでゆこう


 ***


 ことばっていうのは、つくづく長い短いで価値が決まるものではないのだなと思う。

 何万字もの美文でもちっとも心に染み入ってこないものあり、十数文字、一行でもガツーンとくるものあり。


 あのおとのようにそっと世のためにはたらいていよう

雨があがるようにしづかに死んでゆこう



 いいな。こういう風に生きて死にたい。

  


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