建辰月

第297話 「三月」




 色々悩ましいことがある。

 複雑にとぐろを巻く心境を鎮めるように、室生犀星の詩「三月」を読む。


 ***


 三月


 うすければ青くぎんいろに

 さくらも紅く咲くなみに

 三月こな雪ふりしきる


 雪かきよせて手にとれば

 手にとるひまに消えにけり

 なにを哀しと言ひうるものぞ

 君が朱なるてぶくろに

 雪もうすらにとけゆけり


 ***


 実際降ったら寒くて辟易するのだろうに、三月の雪が観たくなる。

 花が雪を被ってピリリと凍るさまは、我々に刹那でも清らに美しいものを与えんとする、天の情け深さのように思える。


 とここまで思って、ベランダを見たら鳩が咲いた椿を散々に食い荒らしていた。

 好物なのか数羽でやってきて、モリモリ花弁をちぎり取って食べている。

 ああ、諸行無常……。詩だの花だの雪だのにうっとりしてられるのは人間だけ。

 自然はいつも過酷な生存競争に明け暮れている。


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