第286話 「冬と銀河ステーシヨン」




あまりにも冷え冷えとして、温かな室内から星を眺めてみた。

けど、空が曇って何も見えないもんだから、宮沢賢治「春と修羅」の最後に収められた詩「冬と銀河ステーシヨン」を読んでみる。


***


そらにはちりのやうに小鳥がとび

かげろふや青いギリシヤ文字は

せはしく野はらの雪に燃えます

パツセン大街道のひのきからは

凍つたしづくが燦々さんさんと降り

銀河ステーシヨンの遠方シグナルも

けさはまつに澱んでゐます

川はどんどんザエを流してゐるのに

みんなはなまゴムの長靴をはき

狐や犬の毛皮を着て

陶器の露店をひやかしたり

ぶらさがつた章魚たこを品さだめしたりする

あのにぎやかな土沢の冬の市日いちびです

(はんの木とまばゆい雲のアルコホル

 あすこにやどりぎの黄金のゴールが

 さめざめとしてひかつてもいい)

あゝ Josef Pasternack の指揮する

この冬の銀河軽便鉄道は

幾重のあえかな氷をくぐり

(でんしんばしらの赤い碍子と松の森)

にせものの金のメタルをぶらさげて

茶いろの瞳をりんと張り

つめたく青らむ天椀の下

うららかな雪の台地を急ぐもの

(窓のガラスの氷の羊歯は

 だんだん白い湯気にかはる)

パツセン大街道のひのきから

しづくは燃えていちめんに降り

はねあがる青い枝や

紅玉やトパースまたいろいろのスペクトルや

もうまるで市場のやうな盛んな取引です


***


空想の中では、山ほど星が煌めくし、汽笛をあげて銀河鉄道も走るね。

ことばがもたらす幸せは、ほんのすぐ近くにあったよ。

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