第233話 スケキヨの二本脚のイメージしかなかった「犬神家の一族」




 最近、角川文庫で横溝正史を読んでいる。

 何故読んでいるかというと、数日前突然に「そういや、横溝正史って真面目に読んだことない!」と気づいたからである。

 横溝正史のミステリといえば、名探偵・金田一耕介。

 おそらくだが「犬神家の一族」や「八つ墓村」を映画かドラマで観て、さらに横溝作品の様々なパロディが氾濫しているのもあって、読んだ気になっていたと思われる。


 とにかくまずは読むべしと思い、有名な「犬神家の一族」から。

 本を手に取ってみたものの、やはり金田一耕介以外の登場人物も犯人も思い出せない。完全に初見状態である。

 内容も、スケキヨさんが湖からにょっきり二本脚を突き出して死んでいる衝撃的なシーンしかわからない。

 そもそもスケキヨってお面被っている以外、どんな人物だったっけ?

 というわけで、夜の11時くらいから読み始めたのだが、どんどん人が死んでいくのと犯人が誰か気になって読むのがやめられず、結局朝の4時に読了。

 最後の一時間は睡魔と戦いながらページをめくっていたが、犯人がわかって一応満足した。


 それにしても、しょっぱなから絶世の美女が出てくる、遺産を残す犬神の爺さんが美形、爺さんの血を引く一族の面子もみんな美形、血を血で洗う遺産相続争い、相続者のみが持つ3種の神器的なアイテム、近親相姦、衆道、不倫、不義の子、腹違いの姉妹、襲われるヒロイン、妊娠の末の発狂などなど、もうこれでもかというほどのベッタベタのコッテコテで、猟奇的な殺人事件も起きて……と読んでいるだけでお腹いっぱい。これに皇室とお料理と占いが加わったら、女性週刊誌になるんじゃないかというくらい。

 しかし、私はこういう過去の因業てんこもりで、人が欲望を露わにして揉めに揉めまくるベッタベタでコッテコテな話がミステリに限らず好きなので、うっかり徹夜で読んでしまったわけだが。

 さすが横溝先生、小市民のゲスい興味を引っ張り続けるのが実に上手い。


 そして、肝心のスケキヨさん。

 えー! スケキヨー! スケキヨってこんな人で、こんなオチだったのか! 妙に爽やかやんけ!

 全く救いのない話と思われた最後の最後で、スケキヨさんが爺さん似のイケメンであるがゆえか、なんとなくいい話っぽく終わっていて、これ死んだ人(殺された人)たちは全く浮かばれないなあ……と思った次第である。特に二本脚で湖に刺さっていた人。

 でもまあ、しょうがないよね。イケメンだもん。

 それだけで読者の同情を買えるし。

 世の中、ただ美しいというだけで、なんだかんだ大抵のことは許されるのだ。

 それが一族内の血みどろの殺人事件であったとしても……。


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