第201話 11月の雪




 疲れ果てて泥のように眠って起きたら、雪が降っていた。

 確かに前日雪の予報は出ていたが、埼玉や山梨寄りの西東京に降るということだったし、こちらも早朝は夢うつつにザーザーと激しい雨音を聞いた。

 雨か、雪にはなるまい、さして影響はなかろうとたかを括っていたら、昼を越えないうちにみぞれになり雪になって、一時間もしないうちに数センチ積もってしまった。


 今は紅葉の季節。ベランダでは、上の部分がようやく赤くなってきたイタヤカエデとイロハモミジが雪をかぶって震えている。

 赤、だいだい、黄、緑のグラデーションに雪の白が重なって、なんとも美しく風情がある。温まった部屋から、それらを眺めていられる贅沢さ。

 東京の雪なんて1月か2月に2~3回降れば多い方なのに、まだ葉がついているうちに降るなんて。きっと山間部は、真っ赤に染まった木々がいっせいに雪のころもをまとって、えもいわれぬ趣深い景色になっているだろう。

 心逸るままに観に行きたいものだけど、遅かりし紅葉狩りの予定もあるけれど、来週になれば雪も溶けてしまい、葉も落ちて寒々しい景観になっているに違いない。


 11月の都内に雪が降るのは54年ぶりだそうだ。

 この早すぎる雪は、初めてにしておそらく最後の見ものになる。

 生涯で一度きりかと思うと、私は急に惜しくなって、日が暮れるまで何度も外を見、雪風に耐える健気にして色とりどりの葉をしかと目に焼きつけた。

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