第147話 下でもなく、上でもなく、前を向いて




 人と自分を比べてみれば、何にしても下には下がいるのだろう。

 下さえ見ていれば、自分が上にあるばかりに安心し、さもしい優越に浸っていられる。

 これはこれで幸せなのかもしれないが、一切の進歩がない。


 上を見たら見たで、今度は適うべくもない才能を突きつけられ、絶望するしかない。

 どの世界にも落ちこぼれがいるように、天才も必ず存在する。天才にはどうしたって勝てない。

 上を見上げながら、自分が得られなかった天賦の才に打ちのめされ、劣等感を抱えて生きる、これも幸せとはいえない。



 下も上も見ずにとなると、前を向くしかない。

 前だけを見て歩いてゆきたいのが、これがとても難しい。

 不安に苛まれてついつい後ろを振り返ると、そこにもおろおろと迷える自分がいる。

 途方に暮れて、また前を向く。

 やっぱり何も見えない。ただ綱渡りの綱のように細い道が続いている。


 私は誰も見下さず、羨まず、祈るような気持ちでまた一歩足を踏み出す。

 いつだってそうでありたい。

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