第103話 うっかりオタク語を使うと爆死する




 先日、知人の恋愛話を聞いていて、何も考えずに「そうか。彼はスパダリ系なのね」と相槌を打ってしまった。

 すると知人はキョトンとして、真顔で「……SPAに行くのがダルいの?」と返してきた。

 そこで私はハッとし、しまったと思った。


 スパダリ、スーパーダーリン。

 ネットで検索すれば「高身長、高収入、高学歴で非の打ち所がない男性を指す語」という意味なのはすぐにわかるが、一般的に恋愛表現で使われる語句かというと違うと思う。趣味の仲間の間や、オタク界隈では好きな男性キャラクターを表現したり褒めたりして頻繁に飛び交っているが、おそらく狭い世界内の合言葉に近いものだろう。

 そのオタク界隈の専門用語(?)に慣れてしまうと、一般人(こちらも一般人なのでこの表現もおかしいが)の前でうっかりオタク語が出てしまい、大真面目に尋ね返されたりする。

 こちらはそこで初めて自分が当然のように使っている言葉はマイナーであることを知る。

 今回も、うっかり口が滑ってしまった。

 言葉もツルリと滑るのである。滑ってひっくり返ったまま、拾ってもらえない悲しさ。言い訳のように説明せねばならない切なさ。恥ずかしくもどこか新鮮に感じられる。


 冷や汗ダラダラのまま、一応にもスパダリの説明はしたけれど、知人は「ふーん」と興味なさそうに鼻を鳴らしただけだった。その顔には「スパダリなんて聞いたことないなぁ」と如実に書いてあって、なんとも申し訳ない気分になった。住んでいる世界が違うのに、変なこと言ってごめんね、みたいな。


 もしかしたらこれまでにも気づかずにオタク言葉を使っていて、相手はよくわからないまま流していたのかもしれない。いや、絶対にそうだ。しまったなあ……と思うと同時に、あえてスルーしてくれたおおらかさ、優しさみたいなものも感じる。

 今後は聞き慣れない言葉が出てきたら、簡単に意味を尋ねてくれると助かる。

 こちらも生まれては消えていく流行語が、日常生活で生きているのか既に死語なのか、実は方言なのか、一部の世界でしか通用しないマイナーなものなのかを考えるきっかけになるので。

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