第18話 砂時計の宇宙




 小さな頃から砂時計が好きだった。

 自分は覚えていないが、親が砂時計を渡すと、いつも落ちる砂を微動だにせず見つめ続け、砂が落ちきってしまうと引っくり返してまたじっと見つめていたらしい。

 一時間も二時間もそうしているので、手がかからないを通り越して心配になったという。

 何を思って砂時計を見ていたのかさだかでないが、おそらく当時から妄想の世界で遊ぶのが好きだったのだろう。


 時間は本来、目に見えない。だが、砂時計は違う。

 落とせばたやすく壊れてしまうガラス瓶の中に、落ちる砂という目にみえる時間が流れている。キラキラ光る砂は、水のごとく天から地へ流れているようにも思える。

 ガラスと砂でできたロマン、儚いばかりの小宇宙である。


 成人しても砂時計好きは変わらず、今でも旅行先で見かけるとついつい買ってしまう。日常でもカップラーメンや、お茶の茶葉を蒸らす時間をはかったりで、なかなかに使用頻度は高い。

 たかが3分、されど3分。肘をついてじいっと砂時計を見ていると、心が安らぐ。


 数年前にエジプトへ行ったとき、ガイドさんに勧められるままにサハラ砂漠の砂をペットボトルに詰めて持ち帰ってきた。

 しかし、砂を人様へのお土産にするのは難しい。

 自分としても使い道はなくそのままにしているが、これを砂時計の砂にできたらいいのにと思う。サハラの悠久の歴史をガラスに閉じ込めて、さらさらこぼれてゆく様をじっと見ていたい。


 私が年を取って、身体が不自由になって、もう自分の力では動けなくなってしまったら、枕元に砂時計を置いてもらおうと思う。

 幼い日がそうであったように、落ちる砂をただひたすら見つめていたい。

 視線の先には、これから自分が行く未知の世界が開けている……そんな気がして。







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