探偵が黙ってんのもちょっとわかるようになった

 「人間」という存在にうんざりしながらメールを飛ばしてたら夜になったので、なんか仕事する気になんなくて帰って寝た。つってもその何? 別に、なんか、誰かが誰かを傷つけているとか、悪意が蠢く闇を覗き見てうんざりしたわけではないんです。むしろ、そういううんざりの仕方だったら納得いくまである。そうじゃあなくて、ボンクラさにうんざりするわけですよ。


 あのー、名探偵しぐさにこういうのがあるじゃあないですか。


「待てよ、あの歌の三番の歌詞は……そういうことか! 刑事さん!! 2日前の夜に、村役場に集まった人たちのリストはありますか?」

「え、ああ……本部に戻ればあると思うが、それが一体どうしたと言うんだ?」

「今は確証がありません! まずはリストを!」←これのことです。


 いや、説明せいよって思いません? 

 そんなさあ、わっと喋ったら数分でしょ。足と口は基本的には独立してんだから、移動しながら喋れ。下手しい、リスト取りに戻ったら、その隙に被害者増えたりするじゃあないですか。こういうシーンを見るにつけ、幼く無垢だった雅島少年はこう思ったんです。「いや確証無くても仮説として述べて、その仮説から演繹される危険性がある場合は、それをまず排除するべきなのでは?」と。


 しかし年を取って汚れてしまった俺は今ならちょっと分かる。多分、これ、何回か説明して、都度ダルい思いをしてきたので、もうしゃべんのやーめよって思ったんだろうな……と。


 昨日あったことを列挙すると、まず朝、上司——という存在がいるわけではないんだが、まあ便宜上上司にしておく。この人が、なんか電話してくれって言ってきたので、テメーがしてこいやと思いながら電話した。で、要約すると、「月曜と火曜に無給で働いてくれ」「外部の関係者とその調整をしろ」「歓迎会の幹事をしろ」という話になった。まあ、これだけ見ると最悪だが、ちゃんと実体も最悪なので安心してください。じゃなくて、まあ、俺も適宜この時間外労働分はサボっているので、どっちもどっちである。だからまあこれ自体はいんだが、そしたら外部の関係者と調整しようと思いますわね。


 すると、まず「月曜も火曜も14時からでいいですか」って言われるわけ。まあいいよって返事をする。そんで、会議室に予約入れようとするが、火曜にはもう予定が入ってる。それで、この仕事はまず無給だし、内部の人間が仕事のために予約入れているんだから、そこに横やり入れるわけにもいかんよなと思う。それで、外部の関係者に、「14時つったが火曜日のその時間はうちで部屋を使っているので、夜の短時間にするか、朝から来て予定通りの時間確保するか、どっちにする?」ってメールを送る。で、このメールって、一応上司にもCC入れてるんですよ。それを見た上司が突然割り込んできて、火曜日に予約している人たちに「時間ずれせないか」ってメール送りやがんのよ。黙ってろやホントに。まず、土曜日に翌週の平日の時間調整をさすな。そもそも。しかも俺はまず外部関係者との調整をしているわけ。もし、外部の人たちに「じゃあ午前でお願いします」って言われたタイミングで、内部チームが気を使って「じゃ、午前に移します」って言ってきたらどうすんだよ。で、だから、俺も間髪いれずに、「今上司からメールが来たけど、まさに今、時間の調整中なので、そのまま予定を残しておいてください。どうしてもムリなら別途相談します」ってメールを送る。ほんで、外部の人間が「朝でいいです」っていうので、じゃあ朝ねって言って、内部チームに「解決したので、もともとの予定通りで結構です」と連絡する。この、「いや時間調整まだ始めないでね」と「解決した」メール、超無駄じゃあないですか。一応進捗を知りたいかなと思ってCCに入れたばかりにこう。黙って時間決めてから報告すりゃあ良かったなと思ったわけだ。


 そんで別件で、まあそのなんか研修会みたいなのがあって、それは俺は一応毎回出てるんですね。だから研修会自体からもメールが来る。ので、別にいらないんだけど、上司から「研修会の案内が来ました」とメールの転送が来る。まあ、ここまでは百歩譲っていいんだが、これに、別のメンバーの名前も入っている(仮にAとする)。そんで、俺が知る限り、Aがこの研修会に参加するわけはないんですよ。


 それで、

 ・まず研修会の案内は俺のところにも来ています。

 ・Aにも案内が行っていますが、Aには参加資格がないと思います。俺の資格を譲渡すれば参加可能で、別にそれでもいいですけど、そんな話してましたっけ?

 と聞く。


 すると、

「分からんが、研修会参加情報はメモしてあって、そこに名前があったので送った。資格の有無まではメモしてないので分からない」と来る。何言ってんだこいつ。それで、しょうがないから、Aにメール送って、「どうすんの? 資格譲渡してもいいけど、するなら手続きはそっちで進めてね」という。そしたら、Aからは「なんとかこの2週間くらいで資格取ろうと思います」ってメールが来るわけ。マジ~? いやじゃあ可能かどうかは知らないが、勝手に頑張ってくれ、了解、ってメール送って、これで話を終わらせようとした。したら、上司から、

「雅島君は資格がないのか?」


 ってメールが来るわけよ。何を読んでんだお前。


「あります」

 とだけ返事をして、もううんざりですよ。分かりますこの感じ?


 だから、なんか、名探偵も、かつては一応仮説段階でも説明したり、関係しそうな人には教えておいたりした方がいいんだろうな~って思って、犯罪捜査グループラインとかに、

「この見立て殺人わらべ歌の3番では『椒』を目指してって歌われていて、それは「いただきを目指す」と読み、意味的にも頂上を目指すって意味なんだけど、なぜか死体には胡椒がぶっかけられていて、だからこの犯人はこの『椒』の意味を理解してない人物で、だから村に昔から住んでる人は除外されるはずで、新参者の容疑者は全員この話を、錯乱したおばあさんをなだめながら聞いてたので知ってるはずなのだが、ただその時間に村役場で寄り合いがあって、そこに呼ばれている人だけは知らないはずで、だからこそ村役場の参加者リスト(今はコロナ対策で参加者の名前を記録することにしている)を見て、その中に村への移住者がいたら、その人が結構怪しいと思うんですよ」とか送ってたんだと思うんです。

ところがなんかさあ、それを見た誰かがですよ、

「村役場の参加者へ。この歌詞の意味をすぐ警察にメールするように」

とかわからんこと言いだすわけ。そんで、そしたら、この参加者の中に本当にいた犯人は、「歌詞の意味を……? どゆこと……? あ、もしかして、これ胡椒じゃあないってこと……? あ、いただきとも読むのね。ああそういう意味ね。へー」ってなって、いざ探偵がラストシーンでかまをかけた時(あなたが犯人だとして……わらべ歌を再現したいと思ったら、一体どうします?)、「ええと、私ならこうします」って言って、庭のちょっと盛り上がってる山みたいなところに死体を引きずっていって、「椒を目指して、ですから、ここが頂上みたいに見えますからね」とか言われて、追い詰め失敗したりしたんだと思うんですよね。超気の毒。こういうことが何度かあったがために、「いえ、まだピースが揃っていないので……確信できたら、お話します」とか言うようになったんじゃあねえかと思うんですよ。とにかくダルいので。


 だから俺も次からそうしますね。

「次回の打ち合わせ、どうなってる?」

「ええ……まだ証拠が足りません。話す段階にはありません」

「あの見積もりは出来ているのか?」

「ピースが……不足しています。すべてが揃うまでは……何も言えませんね」

「おい、例の件はどうなった?」

「これは仮説に過ぎません。確証に変わるまで……お話することはありません」


 これ、クビになるやつですかね。




 2022年03月27日 10時36分の測定結果

 体重:102.50kg 体脂肪率:33.30% 筋肉量:64.85kg 体内年齢:50歳


―—まだ絞り切れていません。今言えることは……何もありませんね。

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