着々と近づく蕎麦打ちの跫(あしおと)

 コーヒー。飲んでますか?

 先週コーヒー淹れセット(と言っても、豆は挽いて粉になったものを買ってきている)を貰ったので、朝とかはコーヒー飲んでいる。で、そのー、コーヒー淹れ講師はやっぱうまいんですよ。うまいというのは、とりあえずここではテクの話ね。proficiencyが高いってこと。

 具体的に言うと、最初に粉入れて、均して、蒸らすじゃん。この「蒸らし」の時には一滴もビーカー……? なんていうの? あの、フィルター入れるやつの下にある部分だよ。コーヒー溜まり。ビーカー。なんかそこにあるやつ。ガラスの。透明の!!


 世界に名前を与えて切り分けることが人間の証明だとするなら、俺の人間度はあまり高くないですね。ものの名前に関心を持たずに生きている。「サーバー」だそうです。もっと興味ねえのが色の名前で、まあ、「鴉の濡れ羽色」とかはわかる。黒でしょ。「山査子色の瞳」とか言われると全くわからねえ。なんとなく山吹に字面が似ているねえ。山吹色は何色か知っている。なぜなら、「サンライトイエローオーバードライブ」とルビが振られているからだ。じゃあ山吹色というのは黄色だ。ってことは山査子色は黄色とかオレンジかな? 山ってついてるし。花っぽいし。


 正解は白です(花弁の話。実は赤いらしい)。しまった、例ですげえ適当な瞳の色を上げたら、大ホラー描写、または『ガラスの仮面』の話になってしまった。というくらい色の名前を知らない。


 なんの話だっけ? そう。そのー、コーヒー講師が、「蒸らし」の工程をやると、サーバーに一滴もコーヒーが垂れないって話でしたね。ふーんって普通に見てたが、いざ自分でやってみると、全然垂れてしまうんだよ。アレっつって。でそのあとも、一本引き? 正確な用語を忘れたが、そのー、お湯を途切れさせないで淹れる方法を教わったが、俺がやろうとするとどうしてもドリッパー(フィルターを入れる上のほうの部分のことだよ)からお湯があふれそうになってしまう。ってことで、このコーヒー講師はうまかったんだなあということが後でわかるわけ。


 でもそのー、じゃあそれがすなわち味に寄与するかって言うと別の話じゃあないですか。いや、味に寄与はするからそういうテクを身に着けてるんだろうけど、じゃあ正確に言うと、味の変化が俺にわかるかっつったら別の話なんですよ。これは悲しいことだが。


 って思ってたんだけど、昨日。この木・金が結構忙しくて、びっちびちに仕事が詰まっているので、そのほかの業務は昨晩中に終わらせなくてはならなかった。といっても終わらなかったんだけど、まあ、終わらせようと努力はした。ほいでそういう時はコーヒーを淹れるじゃあないですか。でね。


 面倒なので説明を端折っていたが、俺が教わった方法を正しく書くとこうだ。


 まず、口の細い電気ケトルでお湯を沸かす。これは沸騰まで行く。

 で、このお湯をとりあえず飲む予定のカップに注ぐ。

 次に、サーバーに一回ケトルのお湯を全部あける。あけたらケトルにお湯を戻す。この工程を2回繰り返す。これによって、お湯の温度をちょっと下げる。アツアツのコーヒーが飲みたい場合でも、こうやって出した後レンチンした方が良いらしい。

 温度が落ち着いたら、フィルターを入れたドリッパーに粉を入れて、ちょっと均して、なんなら指で押して少し密度を上げる。一回蒸らして20秒くらい待つ。

 あとはゆーっくり細くお湯を出し続けてコーヒーを出す。1杯分取れたら、もうそれ以上は抽出しない。カップのお湯を捨てて、コーヒーを注いで飲む。チンチンにしたければレンジで20秒くらい加熱する。


 で、それなりに言うことを聞いてこれまでやってきてたんだが、何せ昨晩は結構やることがあった。で、このお湯を出したり戻したり、の作業って、やるためにはコーヒーサーバー洗わないといけないじゃあないですか。だって薄くコーヒー色ついているから、電気ケトルが汚れちゃうでしょ? それが面倒だな~って思って、この工程を端折ったんです。つまり、沸騰直後のお湯でそのまんまコーヒーを入れた。


 そしたらさあ。これが本当にびっくりしたんだけど、味が変わるんだよ!!!! わかるレベルで。マジ?


 あのー、「正規」の入れ方をすると、ちょっとこう、ベリー系っていうんですかね。果物っぽいフレーバーがある。ほんとかよって思う表現だが、本当なんだって。すこーーし甘い香りと酸味が重なると、「果物っぽい」と感じるように人間はできているのだ。で、これは「うまい」と思うの。俺も。それが、熱湯直で行くと、この「フレーバー」が、「舌に残る酸味」になる。俺は酸味があんまり得意ではなくって、特にカレーとコーヒーの酸味が嫌いなんだが、それになる。これだったらただ苦いだけのコーヒーのがマシっすわ、ってあの味。こんなに変わるかねえ!! ってびっくりした。


 だからあのー、インスタントコーヒーはそういう意味では偉大だよ。だって、味変わんねえもん。いやもちろん濃い薄いくらいはあるけどさ。同じ量入れたらどうやってお湯注いだって味一緒だもんな。


 ただそのー、イクラを錬成できるようになった時も思ったけど、こういう「わかりやすい」変化って、日常でもうないわけですよ。何せ36歳ですからね。成長することが日々の中では一切ない。衰えるばかりである。その中で、わかりやすい変化・成長じゃん。味が違うんだから。しかも直接的な快楽にシンプルに結びついている。これはハマるの分かるなあと思った。


 この行きつく先は蕎麦打ちおじさんですよね。もう全く忌避感はないんだけど、なぜおじさんが蕎麦を打つようになるのか、日々実感していくのである。今度機会があったら、絶対打とうと思います。蕎麦。


 2021年06月10日 07時09分の測定結果

 体重:98.60kg 体脂肪率:30.40% 筋肉量:65.10kg 体内年齢:45歳


 昨日上原センセーが、「人間の体重は12時間前に食ったもので決まるので、明日は500 g増えてると思う」っておっしゃってて、いや「12時間前」だったら、まだ食ってないから増えるかどうかわからんじゃろがい、って思ってたんですが、ぴったり500 g増えました。理論は不明だがすげえなと思いました。この才能を俺の体重当てじゃなくて、株価当てに活かせればいいのに。めちゃくちゃ煽ってるように見えるかもしれませんが、これは俺の真摯で素直な祈りです。それではまた。

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