あなたたちは本当は何も見ていない

 詳細に説明すると身バレする可能性があって、別にインターネットのみなさんにバレる分にはそんなに困らないのだが、リアルのみなさんにインターネット活動がバレるとちょっと困るんだよな。なぜかというと理由は簡単で、リアルのみなさんの悪口が書いてあるからだ。人を呪わば穴二つ掘れとはまさにこのこと。


  というわけでだいぶボカして書くが、いや結構面白いことがあってね。まあその、VTuberのオーディションみたいなことをやったと考えてください。上司が、「最近なんかVTuber? とか言うのがが流行っているらしいねえ。ウチもやろう」みたいなことを言い出した。それで、まあじゃあってんでコンペティションのようなことをする。でそのー、時間的にあまり長時間拘束されたくもねえし、こういうやり方にした。


 n人の候補がいる。n人の候補には、各自Zoomを繋いで、Facerig(Animaze)を通して「キャラクター」になってもらう。で、そのn人を同時にモニターに映す。

 審査員は、そのn人の「キャラクター状態」、「VTuber状態」の人たちを全員いっぺんに見ながら、各自にアピールとかをしてもらう。良し悪しを判断して、誰を採用するかを決める。


 この「キャラクター」を演じる予定の人たちは男女同数いたが、ここではAさんという女性だけが重要なので、以下Aさんについてのみ話す。

 Aさんが演じるキャラクターは、パンに顔がついたやつだったことにしよう。でそのー、何せパンだから。性別とかないでしょ。




 いやその、知ってるよアンパンマンは。やつは「マン」だから男だね。あとから言われりゃあそれはわかる、つまりパンにも性別があるということはわかるし、アンパン・カレーパン・食パンっぽければ「男性っぽい」、メロンパン・ロールパンっぽければ「女性っぽい」と判断されるかもしれないって予想は事前に立ったかもしれない。でもみなさんどうでした? 「パンだから、性別とかないでしょ」に対してどう思いました? 「まあそらそうですね」って思わなかったか? 俺は正直思ってたんです。それがさあ。


 本番。機材トラブルがあって、男性が演じていたあるキャラクターの声が出ていなかった。ただ、顔だけは動いているわけ。一方、このAさんが演じていた「パン」は、顔も出てるし声も聞こえてる。それで、すべての事情・出演者を知っている俺は、「あっ、あの男性のキャラクターの声が出てないな」と思うわけ。だから、「ちょっと機材の調整をしますが、時間には限りがあるので、申し訳ないが、先に皆さん簡単に雑談をしてください」とか言って、マイクとかを弄りに行った。完全に修正するのに思いのほか時間がかかってしまったので、直ったかな、というところで、ちょっと一旦休憩にして、次フラットな状態で「男性の演じるキャラクター」のPRから始めてもらいます、と伝える。

 そんで、審査員の皆様方に、いや機材トラブルがあってすみませんね、と言うと、まあ皆様わりに上機嫌で、「いやでも結構よかったよ、特に『男性の演じるキャラクター』がいいねえ」と言う。ハ? と思うわけ。いやそいつは声が出なかったやつなんだが? そいつの声を出すのに今調整に行ってたんだけど? すると、

 「え? 声が出てなかったのは『パン』だろう?」と言われる。違うが?


 一応確認したが、やっぱ俺が正しくて、『パン』の人の声は聞こえていた。『男性の演じるキャラクター』の声が聞こえていなかったのだ。

 ところが、『男性の演じるキャラクター』は一見すると女性的でもあって、そのせいで、Aさんの声はこの人を演じていると見ている人が思ってしまったのである。


 ご存じないかもしれないので一応説明しておくと、Facerig(Animaze)は、表情と連動する機能があって、口の動きとかもわりにちゃんとトレースする。で、Aさんはパンをやってるわけだから、パンの口の動きや表情と連動して、声が出ている。もちろん音声と映像の遅延はちゃんとミキサーとかで調整して、リップシンクもある程度はやっている。にもかかわらず、Aさんの声は、口の動きや表情と連動した「パン」ではなく、表情も口も全く連動せずなんか適当に動いている「女性っぽい見た目のキャラクター」に当たったものだと思われたのだ。うひぇー。


 まあだからそのー、「パン」は「アンパンマン」もいるから、「男性」のイメージがあったって言うんだね。で、男性の声が出ないってことは、あの「パン」の声が出てないんだろうなあと思ったと。マジ? 


 だからそのー、正直思いましたよね。今までよくも「人と話すときは目を見ましょう」とか、「人と話すときは相手の表情を敏感にとらえて相手の感情の機微を理解しています」とか、偉そうなことを仰ってくれましたなと。しかし、その実なぁんにも分かってないのですよ。完全に表情と口が連動している「パン」を見過ごして、全然関係ない動きをしている別のキャラクターがしゃべってると思ったじゃあねえか!!


 これはだいぶんボカして書いた話で、実際の状況は大分違うことは申し添えておくが、しかし、これに近い出来事が起こったのは本当で、いやー結構面白かったですね。「対面」でコミュニケーションができているなど実は幻想なのである。それはあくまで、「対面」しているのがリアルに存在するなにかだと思い込んでいるから成立しているように思えているだけであって、それが実は存在しないものだとしても、たぶんそのことに気づけない。これを利用したことを少し考えたのですが、ちょっと『銀と金』のパクりになってしまって、それを正式に表明するとネタバレになるので、体重報告後に書きます(これがダイエット日記だということを覚えていましたか?)。未読で読む予定の方はちょっと気を付けてください。


 2021年02月25日 06時43分の測定結果

 体重:100.10kg 体脂肪率:31.60% 筋肉量:64.95kg 体内年齢:46歳






 つまり「それらしい声」でさえあれば、表情との連動性って実はあんまりコミュニケーションに影響しないわけじゃあないですか。で、最近は採用面接とかも、ビデオ通話でやったりしているらしい。

 そしたら、自分自身ではない全然違う顔、全然違うタイミングの口の動き、ただしめちゃくちゃ美形、とかの人の顔を出しながら会話するわけですよ。めっちゃリアルな顔、現実と見紛うほどのFacerigは作れなくても、現実に存在して喋ってる美形の顔くらいは用意できるでしょ。まあ、口を動かすモードと静止するモードくらいは用意してさ。


 そしたら、面接官は全くそれに気づかずに、好意的に判断してしまうかもしれないわけですね。で、合格する。合格した後に、本当の顔はこうでした、と言う。


 まあ怒られるかもしれない。違う顔を出すなんて何事だ、と言われるかもしれない。ところが、俳優とかはわかりませんが、一般企業、事務職とかで、「顔の良し悪し」で採用を決めたとは言えないじゃあないですか。おおっぴらには。面接時の言動やこれまでの経歴が良くて採用していただいたんですよね? 顔なんか関係ないですよね? 違うんですか? 

 じゃあ百歩譲って、顔で判断されては困るから、顔を隠して面接する、と言ったら受け入れていただけましたか? 「それならそう言ってくれれば、もちろん顔を隠しての面接も受け入れた」? ええ、そう仰ると思っていました。ですから、です。隠したものにかもしれませんが……。それは判断に影響しないはず。ですよね? 


 『銀と金』でトランプをトランプで隠したやつと同じ理論です。ではまた。



 

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