なぜ私はデブの運命であるのか
5/29 注
話の展開は多少記憶違い等あるかと思いますが、俺が過去にこのようなことを言われたのは事実です。少なくともそのつもりでした。俺の記憶の中では。
ただ人間の記憶など信用できないと言うのもまた事実で、と言うのは、タニタの体重計ではかると、筋肉量スコアが-4から+4までかな? あるんだけど、その+3だったんですね。「多め」の領域であった。
この数年でようやく筋肉が身体に追いついてきたのか、それとも測定方法に誤りがあったのか、俺が自分を守るために過去の記憶を改ざんしていたのか?
そんなことも疑いながら、以下をお楽しみください。
注ここまで
こんにちは。お元気ですね?
ちょっと前にコストコで買ってきた1 kgのフルーツグラノーラを食べながら失礼します。フルグラはもう、完璧ダイエット食品だろ、低炭水化物だろと思ったら、そうでもないというか、そうでもないどころではないというか、
http://netslim.cocolog-nifty.com/blog/2013/11/post-24d6.html
こちらなどを読みますと、
"製造法だけ見てもおわかりでしょうが、シリアルの中でも
群を抜いてカロリーが高いのが「グラノーラ」です。
さらに「フルーツグラノーラ」ともなると、高カロリーの
ドライフルーツやナッツまでプラスされますので、これは
もう“食事”というよりも立派な“お菓子”です。"
ということであり、だ、騙された~~!!
健康にいいと思って、菓子を貪っていた~~~~!!
健康のためならば死んでもいいと思っていたのに~~~~~~!!
とはいえであります。デブは体型に反比例して吝嗇なのであります。
捨てる訳にはいかない。だからまあ、食べますよ。食べますけど、したら、俺はいつダイエットを始められるんでしょうかね?
さてそういう訳で、沢田和早氏からレビューを頂きました。まだ読んでない? 読みましょう。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881038781/reviews/1177354054881124861
これです。はっきり言っておきますが、本編よりレビューの方が面白いです。これを読まないでこの文章なんて読んでるとしたらそれは時間の、ひいては人生の損失でありますし、こういうレビューが生まれたということは、このエッセイで俺の恥をさらして良かったなあということです。
昨晩は少々酒を嗜む会が開かれていたのでありますが、その最中、ふっとスマホでカクヨムを見たらレビューを発見し、笑いが堪えきれなくなって俺は中座をしたくらい面白かったです。
だいたい「クソワロタwwwww」「テラワロスwwwwwwww」とか書くときは「ふうん、ちょっと面白いなあ」と思った程度でその表情は真顔、というのが相場で、まあそれはインターネット、文章の力の限界というものです。そこまで人間を笑わせしめる力はない。
いや正確に言うとあるはある。俺は特に「ゲラ」と呼ばれる人種ではあります。ただそれは、一人心静かに読書だけをしているとき、ほかに配慮が必要ないときに生じる効果であって、他人と一緒にいるときにはさすがにそこまでの効果はない訳です。
それが、まあ、唇が歪むのが堪えきれなくなるわけですよ。で、「何見てんの?」とか言われたらこの文章を公開せねばならなくなるので、さすがにそれはね。これ知り合いに見られたら恥ずかしい、くらいの情緒は俺にだってあるわけで。それを懸念して「ちょ、ちょっとトイレね」って逃げを打たざるを得なかったということで、すげえよこの文章。
まあ俺はダジャレが好きだ、ということはちょっと割り引いていただかないといけないと思いますけれどもね。
そういう訳でタイトルはこのレビュー内の架空の(真実はいつも一割!)(一文字変えるだけでこの破壊力)作品から採らせていただきましたことをお断りしておきます。
さて、日に日に本題が遠ざかっていくようでありますが、以下が本題です。
体質の問題点3(または2):筋肉の質がすごく良い。
お前運動神経なかったんちゃうんか、とか、筋肉の質がいいなら痩せるだろうが、とか、そういうのは早急な判断というものである。あせるなあせるな。
これは数年前のことである。
何度も言うようだが、俺は別に怠惰で、食いすぎで、痴愚で、節制せずに生きているから太っているという訳ではないのである。まあ昨日の話は忘れよう。お互いに。あれは辛すぎる記憶だった。人間に忘れるという機能がついていて本当に良かった。
勤勉で、かしこく、強い自制心を持っている。君と同じようにである。
にもかかわらず、俺は食によって荒ぶる御霊を鎮めなくてはならない運命、というものを与えられた。そうして、そういう運命なのにも関わらず、運動する、というか歩いたり階段昇ったりするだけで、全力全開フルスロットルで神経を使用しなければいけないという枷も嵌められている。
ちょっとした最弱主人公ですよね。おやおや? デブがヒーローになる異世界の話ですか? どっかにそういう話、ないですか?(※1)
で、その勤勉な俺は、自分の体型についてちょっと考えた。うん、体が重い。膝も辛い。よろしくはないだろ、これは。先の話に連続して書いたのでなんとなく分かっていると思うが、俺は収入源として『治験』というものをけっこう重視しているのである。が、こいつは標準的な体重の人を対象にしているものが多く、BMIで言うと上限はだいたい25。惜しい。惜しすぎる。わずか7! わずか。
それで俺はトレーニングジムに赴いた。
体を鍛えよう。そうして痩せよう。健全で、節制家で、勤勉な俺にふさわしい、実直、質実剛健な発想であると言える。
それでジムの契約を済ませ、で、少々追加のお金を払うと、専属のトレーナーがついて、アドバイスをしてくれると言う。まあライザップのはしりみたいなものですな。
へえ。とりあえずお試しが数千円でできるというので、まあやってみた。
そうすると、まずは基礎的な筋肉トレーニングのやり方を教えてくれる。
あと一応ジムの機械というのはなんかコンピュータで管理されていて、うおー、限界だこれ、っていうところまである筋肉を使うと、その部分についてあなたの筋肉量はこれくらいですよ、というのを算出してくれる。で、次はこのくらいの重さで、8回筋トレをすると、なんか超回復がどうたらこうたら(※2)で、とにかく強くなりますよ、とこういうことを教えてくれるのである。
ふうん。と思いながら、その数値をあちこちの筋肉について算出してもらう。
で、トレーナーは、楽し気な口調で言う。いやあ、結構筋肉ついてますね。まあ、こういう言い方は失礼かもしれませんけど、体重ある方は、筋肉は自然に育ちますから。だから、脂肪が取れれば、一気に体軽くなりますよぉ~。それに、筋肉の方が脂肪より、消費するカロリー量は多いんです(※3)。
さてひとわたり運動をした後、いよいよ、真打登場、みたいな感じで、トレーナーがなにやらごそごそと機械を取り出してきた。
「これ、なんだかわかりますか?」
とトレーナーが言う。
俺は迷った。というのは、なんだかわかっちゃっていたからだ。
その機械は超音波検査機で、いわゆるエコーである。
赤ちゃんの診察とかに使う奴ね。
でもまあここは知らないと言うべきなんだろうな、と思ったので、そう言った。
したら嬉しそうにトレーナーは、
「この機械はですね、超音波検査機で、いわゆるエコーってやつですね。お腹の中の赤ちゃんとかを見る機械なんですけど」
と説明してくれる。
(二度手間~~~!)
と思いながら、ほうほうなるほど、と言う。
で、なにやらジェルのようなものを俺の腹とか、太ももに塗り、その超音波検査機なぞっていく。
ジェルを拭き取ってもらい、機械は部屋の隅に押しやられていく。
俺はぼんやりと待ちぼうけを食う。もぐもぐ。おいしいなあ。
なんか遅いな、と思ってたら、また機械とともにトレーナーが戻ってきた。そんで、そのトレーナーの先輩、みたいな人がついてきている。
いやぁな予感がした。
このパターン。人生で何度か体験しているやつ。
あるときはあの白い清潔な部屋で。
あるときは珍妙な名の機械の中で。
「ちょっと、もう一回やってみましょう」パターン。
大体俺の身体の欠陥が明らかになってしまうやつ。
ワンパターンすぎるんだよ、と諸君は思うかもしれないが、まあ、多少事実を捻じ曲げては書いているかもしれないが、事実なんだからしょうがない。
俺のデブ性は、大体このパターンによって明かされていくのである。
事実は全然小説より、奇じゃあない。
もちろん予感が外れる可能性もあった。
だから俺はその可能性に賭けた。祈った。強く。両手を握りしめて。
「雅島さんの筋肉、めっちゃ良いんで、パンフレットに載せていいですか? その代わり、入会金無料にしますんで」みたいなことであることを強く強く、祈った。栄養の神、チコメトアトルに。あるいは肥満の守護神ハピに(※4)。
祈りは届かなかった。だいたい、賭け事で祈りだしたらもう、勝てないというのは、世の常識のようなものだから、祈ったことが間違いだった。
「ちょっと、もう一回やってみましょうね」
と、もう一人の新たなトレーナーが言った。
はあい。と言いながら、すでに俺は覚悟を完了していた。
今度はなにかなあ、と思って、ただ計測の完了を待つ。
もう一度機械を部屋の奥に持って行って、そうして。
先輩トレーナーが、写真を持ってくる。
「これが雅島さんの筋肉なんですけどね。今こういう風に脂肪の層がついていて、この白い部分なんですけど」
「ほうほう」
「今の筋肉レベルは、Dなので……かなり、筋肉量は少ない状態ですね」
「D」
「D、ですね」
「エー、ビ―、シー、ディー、の、D。ちなみに何段階評価なんです?」
「えっと、4段階です」
「一番上が……」
「Aです」
おおっとお。見事なまでの最下位。完膚なきまでの敗北。
DEBUの、D。なめとんのか。
「えっと、その、目安というか、Dの人って言うと」
「うーん、ご老人なんかだとたまにいらっしゃいますねえ」
そう言って先輩トレーナーは苦笑いをする。
「はあ。その、二十代だと」
「あんまりいらっしゃらないですね。Aはその、アスリートの方とかで、昔スポーツやってらっしゃった方とかだとBになることが多いです。大体はCですね。日常生活動作では、あまり筋肉って鍛えられないので」
「でもですね。さっきあの、トレーニング練習みたいなことやったときは、それなりに筋肉あるって聞いたんですけど」
「たぶんですね、雅島さんの筋肉は質がいい……というか、なんていうのかな。力を発揮する効率がいいんだと思います」
「と申しますと」
「普通はですね、このくらいの体重の方だと、そうですね……、この写真で言うと、このくらいのところまで筋肉あると思うんですね」
そういって先輩トレーナーは、人差し指を横倒しにして、俺の足のエコー写真の灰色と白の境界線にくっつけた。そして続けた。
「で、こんだけ少ないっていうのはちょっと不思議なんですけど……。でも二回撮ってみたんで、間違いないと思います。っていうことはですね、この筋肉量で、十分体を支えられるっていうことなんですね」
「……はあ」
「と言うことはですね。たぶん、一つ一つの筋肉で体を支える力っていうのは、他の人より強いってことだと思うんですね。それか、うまく筋肉を使っているか。まあ、これで歩けているということは、そういうことだと思います。急に体重増えた、ということではないんですよね?」
「まあ、じわじわと」
「でしたら、そうですね。まあ一般的な基準では量は少ないですけど、雅島さんのお体ではそれが適正と。そういうことだと思います。ただ、筋肉の量が少ないは少ないのでね、やっぱり代謝が悪くはなってしまいます」
「なるほど」
「なのでその……筋肉トレーニングも、効果が出にくい可能性はありますね。一度筋肉の限界を超えないと行けないんですけど、なかなか超えにくいっていう風になっているかもしれません」
「はあ。そうなんですか」
まあ、これはその、マッサージ屋とかに行くと、「お客さん、凝ってますね~」と言う、みたいな、ある種の様式美、俺をビビらせてトレーニング担当をつけようとする営業行為であった可能性もなくはない。
が、だとしたら二回やった上に説明担当交代するの手が込んでいるし、事実俺はその後、一月くらいはわりとまじめにジムに通ったのであるが、はかばかしい成果を上げることはできなかった。で、ジムに通うというのは本当に大変な行為なのである。
まず何しろ、毎日洗濯をしなくてはならない。
しろよ、と言われるかもしれぬが、一応これでも背広を着て仕事に出ている(そして窓際でぼうっとしている)人間なので、まあ背広に関しては自宅で洗えない(洗えるやつもありますけどね)訳で、とするとローテーションを組んで、残りのやつはリセッシュかなんかかけて干しておくことになる。
となると洗うべきなのは、下着、靴下、あとはシャツということになる。それからまあ、バスタオル。そうすると洗濯物が溜まらないので、一週間分+αの衣料を備えておけば、週一の洗濯で十分なのである。
ところが、ジムに行くと、これにもうワンセットの下着、靴下と、Tシャツ、ジャージ、タオルが加わる。特にジャージを一週間分買うというのはさすがにどうか、ということで、3着を着まわしていたので毎日洗わないと替えがおっつかない。
だからジムに行くには、
・毎日、別途鞄を持って着替えを詰め込んでいく。
・ジムで汗を流す。これは爽快でないとは言えない。行ってさえしまえばね。
・帰ってきてはー疲れた、とは思うが、洗い物しないと破滅が待っているので洗濯機を回す。洗濯物を干す。
というプロセスが入ってきて、これが結構生活を圧迫するのである。
ある日。
ジムの後、まあ走っているし、いいだろと思って一杯ひっかけて帰って(またこの時のアサヒスーパードライのうまいことと言ったらね。俺は美味しんぼ信者ではありますが、ドライビールはそれはそれでうまいと思うんだ)、めんどくさくなって洗濯しないで寝てしまって、そしたらあとは坂道を転がるように行かなくなってしまい、翌月には、
「……まあ、いいか」
なんて呟いて退会してしまった。
いやちょっと待って欲しい。
そら結局お前がぐうたら、ものぐさ、怠惰なだけではないのかと君が言いたいのは分かる。お前のデブは結局自己責任だと。あと何が勤勉だ、勤勉なやつが洗濯ぐらいでうだうだ言う訳ねえだろと。
確かにまあそれにも一理ある。何しろ何一杯ひっかけてんだお前はという話だ。
ただ分かってほしいのは、人間は成果の上がらない、報酬が得られない行為を続けることはできないということなのである。っていうか動物はみんなそう。
パブロフの犬を引き合いに出すまでもなく、われわれは目に見える報酬がないと行動が続かない訳ですよ。で、これはマジで天地神明、あるいは長門有希に誓ってもいいけど、俺は一か月は通ったんですよ。ホントに。
でもね。増えないんですよ筋肉量。あれには腹が立った。
いや率直に言おう。これは隠してもしょうがないから言いますけど、飯はがっつり食ってました。たぶんジムに行く前より食ってた。走ったことを言い訳にしてね。筋肉を鍛えたことを免罪符にして。
ただこれはしょうがないじゃん。しょうがなくはねえよ。無いけど、いや、だから、俺は「体重が減らない」ということには文句をつけていないでしょうということです。体重が減らないのは、まあ仕方ない。ただとりあえずまずは筋肉をつけようと思ったわけですよ。筋肉がないと、こう、いろいろな運動がままならないからね。
ところが、一か月、トレーナーに言われた通りのトレーニングをやってんのに、筋肉量(これはそのジムの体重計で出るやつ)が増えない、どころか、減る日すらある。筋トレマシンの重りの量もぴくりとも動かない。これも、計測モードにしたら、ちょっと重り、軽くしましょうか~? って、機械の方がなんか俺におもねってきたりすらする。なんでよ。
そこでのアサヒスーパードライですよ。もういいや、面倒くせえ、と思った俺を誰が責められようか。いや結構これに関しては責められるべき感じはあるな。あるけどさ。
しかしそれは俺だけの責任ではないんですよ。俺の筋肉が悪い。こいつら要領だけいいのよ。いっちばん嫌われるタイプね。
努力してない、へらへらしている。
テスト前に適当にノート借りて、あるいはヤマを張って、下手したらまじめに授業を聞いている奴よりいい点を取る。でもそんな知識というのは所詮は付け焼き刃であるから、全く身についておらず、ただその場その場で良い顔をするだけの、うすっぺらな人間。俺はそーいう奴がいっちばん嫌いなのよ。
ところがそういう奴がまさに俺の体内に潜んでいるのである。獅子身中の虫という奴ですな。こいつらが悪いんであって、俺の精神が悪いってんじゃあ、ないのよ、というのが今日の理屈であるが、日に日に俺の旗色が悪くなっている気も少しする。
まあ待て。おちつけって。あせるなあせるな。
俺にはまだ、二の矢三の矢があるんだ。
重すぎて飛ばないかもしれないけどな! (デブジョーク)
※1:ありました。「果てしない物語」はそういう話ですね。
異世界転移もの。バスチアン・バルタザール・ブックスは、デブの読書家。ある時めっちゃかわいい女の子の呼びかけに答えると、本の中の異世界に転移して――?
おお。完全に異世界転移ものだ。ミヒャエル・エンデはすごいなあ。
あとはアトレーユを長門有希みたいな女の子にすれば完璧。
念のため言っておきますけど、正気です。これは冗談で書いてます。さすがに。果てしない物語は好きですよ。というかエンデは大体好きです。
※2:デブエッセイって、こここそ詳細に書くべきで、こういう話を中核に据えるべきなのでは?
※3:これは嘘ではないが一概に本当とは言えない。と言うのは、筋肉と脂肪の消費カロリーの差は、1 kgあたり概ね8 kcalだと言うからである。1 gあたりではない。めちゃくちゃだろ。
8 kcalの食べ物を検索すると、マンナンライフの蒟蒻畑ララクラッシュ葡萄味がトップヒットであるが、必死こいて1 kgの脂肪を筋肉に置換した結果得られる報酬が蒟蒻畑一個って、お前。
結局、「筋肉をつけ、かつ運動すると痩せる」っていう話で、まあそりゃあ、そうでしょうけども。そうでしょうけどもねえ。うまい話(デブだけに)と言うのは、あまり無いものなのですね。この世には。
だからこういう話を脚注におくべきではないのでは??
※4:ごった煮もここに極まれり。この時の神罰で今俺は太っているのかもしれぬ。
5/29 注
惜しむらくは、当時の「筋肉量(kg)」のデータを覚えてないんすよ。Dが印象的すぎて。
それが分かればな~ 結局その後の体重増にともなってさすがに増えたのか、それとも変わっていないのかわかると思うんですけどね。ま、そういうことで、つまり、言い訳だろ、という敗色が濃厚になってきましたね?
まだだ。まだ、あきらめないぞ俺は。
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