デブに至る体質(2)
先に宣言しておきますが、以下の文章はおおよそ6500文字あります。編集画面みたらそう書いてました。いやあ、長すぎるわ。すいませんね。でもこれ以上分割すると、刮目した目の閉じ方忘れて困ると思いますんで、一気呵成に行きたいと思います。
今日の晩御飯は面白みのない、なんかすき屋とか松屋とかあのあたりの、山かけ鉄火丼ということになりました。日本人のDNAにマグロが刷り込まれすぎていると思うのは、「鉄火丼」とみるとまさに火がついてしまうところだと思いますね。
いや、俺だってそりゃあデブらしく、ピザでも食ってやろうかと思わなくはないんですが、帰り道、「鉄火丼」って見たらそりゃあ食べちゃいますよという話です。で、今日はヘルシーだったなあという気持ちになっている。どんぶりに盛られたコメのことはすっかり忘れている。
しかしまあ仮にもしも低炭水化物ダイエットやるとしてよ、朝はまあいいよね。基本自宅で食べる訳だから。魚でも焼いて、味噌汁はオッケーなのかな? ジャガイモを入れなければセーフ? 俺は芋と玉ねぎのあの田舎臭い味噌汁が好きなんですが、まあ、それは別に多少は我慢できる。
夜もまあ、基本的には付き合い飯というものはほっとんどないので(とは言え、ここのところ2週連続で金曜の夜はお座敷がかかっているので、明日のことはなんとも言えないが)、自分で選択できるし帰ってきて自分で作って食べてもいい。
昼は? 昼はどうするの? だって炭水化物を選択肢から除外した瞬間に、ものすごい縛りプレイになるよね。まずそれこそ丼ものは全滅でしょう。幕ノ内弁当もダメ。ハンバーガーもダメ。パスタもダメ。カレーもダメ。ラーメンライスなんざぁもってのほか、となると、俺は何を食えばいいんだろうという気持ちになる。
まあファミレスですか。ファミレス行って、ごはん抜きのステーキだけとか。ファミレスなあ。二日で飽きる。
魚単品で食える店はないなあ。あとはスープカレーの米抜きは頼めるところ多いんで、それかなあ。でもあれも、米がないと辛いものがあるし、だいいちスープカレー昼に食べてしまうと午後からしばらく仕事が手につかないんですよね。汗とかの問題で。デブは汗っかきだから。
まあ家で肉だの魚だのを焼いて弁当を持って行くというスタイルがいいのかもしれないけど、いや、ううん。
そ
れ
が
で
きやめた。二番煎じなんで。
あとねえ、性格上外食して飯残すのも嫌なんですよ。なんかね。なんとなくね。そりゃあ腐ったカレーは泣く泣く捨てるけど、そうでない場合は、俺の二つ名は暴食のグラトニー、あるいは強欲のグリードと呼ばれているんで。時事ネタも敏感に察知するタイプなんで。この世のすべての出された食い物を食いたい男なんでね。
まあちょっと今家にある米・パスタ・餅・インスタントラーメンを消化してから次のことを考えます。ええ。
明日はお座敷がかからなければパスタを食おう。または餅を焼いて、砂糖醤油を絡めたものを。
ただ、そうなのよ。「夜もまあ(中略)自分で作って食べてもいい」とか言ってますけど、俺はスーパー単品マンなのでね。めんどくさいんだもん。デブが全員美食家だと思うなよ。一品間抜け面晒しながら作ってもそもそ食って満足しちゃうからなあ。サブメニューを……作る……。または玄米を買う。玄米なぁ……。
日に日に本題に入るまでが長くなっているが、本題は、俺がスポーツが苦手なのは、完全に生得的なものであることを証明しようという話であった。
あれは22歳の、たぶん夏だったと思う。
俺はオンラインゲーム(DragonWarcry、面白かったなあ。あるいは、REDSTONEをやっていたなあ。TU BISってまだ息してるんだろうか)をし、金子が不足するとアルバイトに出るという非常に不健全な生活を送っていた。
それを見かねた、かどうかは知らぬが、知人から連絡が来た。
なんでも知人は、
このfMRIというのは、ものすごく大雑把に言うと、凄く強い磁場を人にぶっつける方法である。そうすると、水分子に含まれる電子がなんか特有の動きをする。で、言わずもがな人はほとんど水でできてる。だから、この電子の動きを計測することで、体の内部構造が良くわかると言うのである。特に彼の場合は脳の形に興味があるという。
そんで次の段階では、ヘモグロビンに着目する。名前くらいは聞いたことはあった。なんかこう、ヘモ、と来て、グロビ~ン、と行くとかなり間抜けな奴、という印象があるが、そんなことはない。これもえらいやつなのである。
ヘモグロビンというのは赤血球に含まれるもので、貧血のひとに鉄分を取れということからも分かるように、鉄っぽい性質を持つ。で、なんか酸素を運搬するのに役立つらしい。酸素を持っているときは、鉄っぽい性質はないが、酸素を身体各部に受け渡すと、非酸化ヘモグロビンと呼ばれるものになり、鉄っぽさが戻ってくる。つまり磁場に反応する。そんで、頭を使って物を考えたりしているときには、このヘモグロビンがそこにたくさん集まって、どんどこ酸素を渡して、非酸化ヘモグロビンとなっていく。そういうところに強い磁場を当ててやると、何しろ磁場に反応する奴がいっぱいいる訳だから、磁場がゆがむ。いっぱい磁場がゆがんだところが、つまりお前が今その部分を使って考えたり体を動かすのに使っている脳の部分だ、と言うのである。
ちなみにこの説明はすべて俺が勝手にそういうことかなーと理解したもので、ぜんぶ嘘の可能性もすごくある。その場合、知人は悪くない。悪いのは理解力のない俺と、こんなところを見てレポートをでっちあげようとした君である。ちゃんと本を読みなさいよ。
でまあとにかく、なーるほーどねー、なんて、そんな感じの適当な相槌を打って、ようするにこれはヌードモデルをやれということに近いのだなと思った。体の中身をさらしものにする。血の流れもさらしものにする。まあ、それでおぜぜが頂戴できるというなら文句の一つもない。
裸にだってなってやってもいいぞ、と言ったが、裸になる必要はないという。裸になるのは恥ずかしかったからちょっと安心したが、裸になるよりさらに内側のところを見られるのは、別にたいした恥ずかしくもないのは一体なんでなのでありましょうね。
という訳で、俺はfMRIというものを撮られることになった。なんか細長い筒のようなものに頭を突っ込まれる。かぁんかぁんかぁんかぁん、ぴぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょ、みたいな音がなる。
で、頭の形を計測した後は、右手をぐー、ぱー、ぐー、ぱーと握れと言われた。なんでそんな、一人でじゃんけんするみたいな、独りぼっちのチーム分けみたいな悲しいことをせんくてはならんのよ、と尋ねると、体性感覚野を同定するためだ、とまた中国人みたいなことを言う。
俺に話をするときは、漢字がつながった言葉は四文字を上限にしてください、と弱弱しい声で懇願する。五文字を超えると、なんか、わかんなくなっちゃうんで。
これも簡単に説明すると、人の脳というのは不思議なもので、左側の脳が右半身を、右側の脳が左半身を基本的には支配している。もちろん、脳の中で連結回路みたいなのがあるから、完全に独立しているという訳ではないが、基本はそうなんだ、という。なんで? と聞いたが、さあ? と言われたので、えらい彼にもわからないことがあるんだなあ、とぼくは安心しました。
でさらに細分化すると、頭のてっぺんあたりに(頭頂野と呼ぶらしい。漢字三文字なので、ぼくにもわかりました)、体の動きをコントロールするところがあって、もっと細かく見ると、手を動かすのはここ、足を動かすのはここ、唇はここ、と頭の中に小さな人体模型みたいなものがあるらしい。「脳 ホムンクルス」で画像検索すると、なんかキモい奴が出てきますが、そいつが犯人です。
つまりようするに、右手をぐー、ぱー、と握ったり開いたりすると、左の頭のてっぺんのどこかに血が集まる。そんで、そこを確認すると、俺は俺の手を脳のどこで支配しているのかが分かる。それが肝要なのだ、と彼は言う。
はあい。漢字がいっぱい出てこないのでわかりました。
そういって、馬鹿みたいにぐー、ぱー、ぐー、ぱー、とやる。ちょっと止まってろと言われて止まる。またぐー、ぱー、ぐー、ぱー、とやる。しばらくすると機械が静かになって、ちょっとそこで寝てろと言われる。
でどうもこの後に、彼が本当にやりたかったことがあったらしいが、あきれ顔の彼が機械の部屋に入ってきて、俺を筒から引きずり出して、なんだか苦笑いをしている。どうしたの。俺の脳、ぐずぐずに溶けてた?
「ぐずぐずに溶けてはいないけど、ちょっと問題があります」
と言う。これはさあ、ビビるよね。脳に問題があったらもうダメなやつじゃん。俺、さっきの冗談で言ったんだけど。
「問題があると言っても、まあ、雅島さんが普通に暮らしているっていうなら、別に問題というほどではない……のかなあ」
と言葉を濁す。おい。はっきり言ってくれよ。俺の余命は何年なんだ。
優しい君を安心させるために結論から先に言うが命にかかわる話ではまったくなかった。まあ、太っている方がよっぽど余命にはかかわる。ていうか覚えてますか? この話の本題が、「太っている俺を正当化するための話」だということ。
すいませんね。なんか難しいことを話してしまって。もうすぐ終わるのでご安心ください。
さて、では、何が問題だったか。
彼が言うには、俺は、右手をぐー、ぱー、ぐー、ぱー、とやるという非常に単純な動きをするだけで、体性感覚野だけでなく、補足運動野とか小脳が活動するという。小脳だけ分かりましたけどぉ、漢字はだから、その、五文字以内で……。
「ようするに、ぐーぱーやるだけで、そうだなあ、初めてやるスポーツとか、そういうときに使うところまで活動しちゃってるんですよ」
「はあ。なんかダメなのかそれが。お得じゃあないか」
「そういうこっちゃあないんです」
つまりこういうことだ。
普通、人は歩いたり走ったり手を握ったり階段を昇ったり、というような、日常の生活動作では、脳の余計な部分を使わずに、その頭のてっぺんのところだけで体の動きをコントロールしている。まあそりゃあ、その方が省エネで、大変結構なことである。
九九を計算するときに、いちいち9+9+9+9は、えっと、18の、27の、……36! ってやんなくても、9×4=36、というのがぱっと分かるようなもんですね。省エネで解決しようとしている。
それで、例えば人生で初めてボルダリングをする、という時には、省エネでなんとか、という訳にはいかないので、運動にかかわるところを総動員して、体をうまくコントロールしようとする。右手はあっち、左手はこっち。右足に体重を何パーセントかけて、その間に左足をあげて……みたいなことをするときに、その、補足なんとかと、小脳を使うのだと言う。
つまり俺は、手をぐー、ぱー、とやるだけで、運動にかかわる脳の部分を総動員しているということなのである。なんだそれ。すごくばかにされているきがするぞ。
「別に、馬鹿にしているとかじゃあなくて、まあ、そういう人なんだなということです。スポーツとか、苦手なんじゃあないですか」
「確かに苦手である」
「でしょう。だって、ぐー、ぱー、で総動員ですからね。それ以上複雑なことをやろうと思ったって、ぜったい追いつきませんよ」
「ぜったいか?」
「まあ、よっぽど練習して自動化すれば別でしょうけど。基本的には、厳しいと思います」
「それはその、なんか、薬とか、脳トレとかでなんとかならんのか」
「ならんです」
「なぜだ」
「だって、まあ別に言っても、生活上支障がないでしょう? 生活上支障がある、たとえば認知症とかの脳の疾患だって、未だに研究途上なんですから。そういう訳わかんない運動音痴の人のための研究開発が進むのは、まだ先じゃあないですかねえ」
そうか。俺はしょんぼりした。で、結局そういう変わった人を研究すると変なデータになっちゃうから、という理由で、そこで俺の参加は終わり、約束した金子のごく一部だけを貰って俺は帰宅した。
しばらく呆然としたあと、俺は彼に電話を掛けてもう一度質問をした。
「これって、つまりその、生まれつきってこと?」
「まあ、生活動作でそうなっちゃうってことは、そうなんじゃあないですか」
「なるほど」
という訳なのである。長かったですね! 俺も書いてて長いなと思いました。
まあ、本当は別の理由があったけど(謝礼金を使い込んでしまったとか)、彼がテキトーなことを言って俺を追い返したという可能性もあるが、俺は深く納得したのである。なるほどなー! 確かに、歩き方変ですよね、とか良く言われる。俺は歩くだけで脳が全開フルスロットルだということなのである。そりゃあ糖分だって必要よ。って言って、必要以上に摂取するから太るわけなのであるが。
まあそういう訳で運動はとにかく苦手、ということを言いたく、だからそりゃあ太りますよね、という話なのであるが、まあしかし逆に言えば、運動するとめっちゃ脳を使うわけだから、つまりエネルギーを使うということになるわけで、ちょっと運動すりゃあ痩せるのかもな、という予感もある。
あとその、こういうの、小学校とか上がる前にみんな調べておいた方が良くない? で、こういう体質の人、こういう脳の人は、体育の時に補正をかけます、ってしてくれないかなあ。俺はいいよ。たまたまアホだったし、まあ、俺という人格の価値はスポーツのできるできないで決まらないんだ、ということは結構人生初期から悟っていたわけであるし。京極堂とか運動しなそうじゃん。だからいいかなと思って。
ただ、その、そういう脳の人、まさか世界に俺一人ってことはない訳で、だったらそういう子が、ぼくもリレーでアンカーを飾ってクラスのヒーローになりたい、と思って、その叶うことのない夢のために苦しんだり、部屋の隅の方で膝を抱えていると思うと、俺はなんだか物悲しい気持ちになるのだ。
いや、しょうがないよ、と言ってやりたくなる。脳がそういう風になっているタイプの人なんだから、そらあそれでしょうがない。もっと省エネで行けるやつ、探そうぜ、と言ってやりたくなる。
そして社会というものに、そういう奴もいるんだということを分かるべき、と怒ってやりたくなる。練習しない、努力しない、根性がない、鍛錬が足りない。そういうこととはまた別に、根源的な、生得的な向き不向きと言うものはある。
俺があったりまえにできることで君ができないことがあるように、君が鼻歌交じりにやっていることをしようとすると、脳を総動員しなきゃあいけない人間もいるのだ。そういう人間に、いや、しろよ、総動員、と言う社会は俺は怖いし嫌だ。そういうタイプの人間はそりゃあ大変だろうから、こういう補償をしますね、という風になるのが、人間の善きあり方だと思うんですけど、違いますかね?
とは言えこの話長いし、説明したところでハイハイまたデブが何か言っているよとなるのが関の山であり、だから面倒くさいから普段はしない、という俺も、そういう自分が恐れる社会の成立に加担していることになり、それが何より俺を苛むのである。
最後は暗い話になってしまったので、楽しいデブの話をしましょう。
デブのメリット
1.彦摩呂がいいことを言っていた、とバナナマン日村の物まねで知ったが、「ぼくはヒートテックならぬ、ミートテックを着てますんでぇ」ということで、脂肪があるとあったかい。
寒の方向に向かう衣替えは大体0.5テンポくらい遅れる。でまあ、ご存知の通り北海道は非常に寒い地域なので、これはちょっとしたメリットである。暖房費がたぶん少しは浮いていると思う。
その反面夏はつらいが、まあ北海道の夏は比較的寒冷なので、命にはかかわっていない。北海道の気候風土は、デブに優しく、ガリに厳しいのである。
2.あとは特にありません。ないんかい。思いついたらまた都度書いていきます。
そしてなんと、俺の体質の問題はこれだけにとどまらないのである。
待て次回!
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