第4話
高一の一学期の、中間テストが終わった。さっそくその帰り、美月は典子を誘って、あの「マイ・プリンス」に行くことにした。初めて行った後も数回行ったのだが、テスト期間中は、我慢していたのだった。
二人が制服姿のままマイ・プリンスに入ると、今日は、先客がいた。と言っても、年配のおじさん一人だけで、カウンターから離れた席に座って、コーヒー片手にタバコをふかしていた。
美月はいつものカルピス、典子はアイスティーをオーダーすると、早速店長の玲子とおしゃべりに興じる。そう、このジャズ喫茶には、おしゃべり禁止というルールはなかった。
玲子とは、女子同士ということもあり、だんだん打ち解けてきて、色々と話すようになった。例のイケメン店員は、相変わらず優しくないが。
今日の話題は、恋愛の悩みだった。
まず、美月の悩み。
「私、カレシができないんだよね〜…」
「いつからいないの!?」
とは、玲子。
「いつからっていうか、まだいたことないんです…」
「そうなんだ、好きな人はいないの?」
「今はいないかな〜。小学校の時とか、中学の時も、気になる男子はいたんですけどね〜。告白する勇気もなかったし…。それに、私地味だからもてなくて、告白されたこともないし…」
美月は赤いメガネを直しながら、ため息をつく。
「そんなことないと思うけどなー。好きな人か、案外間近にいるかもよ?」
「そんなもんですかね〜…」
再び美月はため息をつく。
「あらあら」
と玲子。
その時、美しいメロディーに気をとめる美月。
「この曲、なんですか?」
「ワルツ・フォー・デビー。ビル・エヴァンスのピアノだ。知らないのか?」
賢太郎が指摘してきた。
「ぜんぜん…でも、好きなカンジです」
「このジャズ喫茶、ビル・エヴァンスばかり流してるんだ。覚えとけ」
「そうなんですか?」
「ちょっと訳あって、ね」
玲子は言う。
「そうそう、典子ちゃんの悩みは?」
「典子は高一にしてすでに色気あるし、モテるから悩みないよね?胸だって大きいしさ〜」
「それが悩みの種なんだって…変な、カラダだけが目的の男子しか寄って来ないしさ〜、中学時代も何人か付き合ったけど、すぐ別れちゃったし。みんな、胸さえ揉んだら満足しちゃうみたいでね〜」
赤裸々なトークに、美月は顔を少し赤らめる。
確かに、典子は胸が大きかった。学年一、いや、一年生にして、校内一大きいとの噂さえあるほどだ。美月と典子は小学校からの親友だが、典子は小学校高学年のころから胸が成長し始め、中学に入ってからすぐに、男子どころか女子からも、典子の大きな胸は注目の的となっていた。女子からは、主に妬みだったが。
玲子が、
「そういえば確かに大きいよねー。ちょっとだけ触ってみてもいい?…あ、冗談冗談」
そんなガールズトークが耳に入ったのか、賢太郎がこちらを一瞥した。明らかに、典子の胸を見ていた。
やらし〜…と美月は思ったが、口には出せなかった。
店を出てから、
「賢太郎さん、典子の胸見てたよ。いやらしい〜!」
「男なんてみんなそんなもんだよ」
典子は達観したような口調で言う。どれだけ、男慣れしているのだろうか。
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