第2話
連休明けの教室にて。
「ねえねえ、放課後ティータイムしない?」
典子が、どっかで聞いたようなフレーズで美月を誘ってきた。
「何それ?」
「ま〜、スタバ行こ、スタバ。新商品が出たって」
「たまにはカルピスのあるカフェに行きたいな〜」
「あ〜、また今度ね」
美月はしぶしぶ、典子に付き合うことにした。
二人は、駅前のスタバに来た。それはいいものの、店内はとても混んでいて、とても、座れそうな状況ではなかった。
「どうする?新商品買って、外で飲む?」
美月が尋ねると、典子は、
「う〜ん、座りたかったんだよね〜。今日はやめとくか」
あっさりと諦めてしまう。
そこで典子は、ある店のことを思い出した。
「あ、私、行ってみたかったカフェがあるんだけど」
「え、どこどこ」
「学校の近くの、喫茶店。カルピスが表のメニューに載ってたの」
「あそこ!?あそこさ〜、客がいつもいなくって、閑古鳥が鳴いてるって噂だよ〜」
「良いじゃ〜ん、確実に座れるよ?」
「そりゃそうだけどさ〜」
「行ってみよ、ね?」
かくして二人は、その喫茶店に向かった。ロングヘアーをポニーテールにまとめながら、美月が先導して歩く。
その喫茶店は、「喫茶マイ・プリンス」という看板が出ていた。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
落ち着いた声で迎え入れられる。見れば、三十歳くらいだろうか、女の人がカウンターの向こうに立っていた。
「こんにちは〜」
二人は軽く会釈しつつ、美月が促し、あえてカウンターを選んで席に着いた。
「あら、初めてのお客さんで、カウンターに座るなんて、珍しいですね」
「このお店に来たら、カウンターに座って、お姉さんと仲良くなろう、って決めてたんです」
美月がビミョーにキンチョーしたそぶりで微笑む。
お姉さんを見ると、赤茶のロングヘアーで、大人っぽい。というか、大人だ。担任の先生よりは、年下かな。
「あら、そうなの。ゆっくりしていってくださいね」
ふと気づくと、店内には、音楽が流れていた。ピアノとドラムだろうか。そう思っていると、低い楽器の音も聞こえてきた。美月が聞いたことのない感じの音楽だ。
その美しい音楽に耳を傾けていると、
「ご注文は?コーヒーでいい?」
今度はやや強い口調の男の人の声だ。ふと前を見ると、若い人が立っていた。二十代前半くらいだろうか。
「わ、私は、カルピス」
と、美月。
「あたしはコーヒーでいいです。アイスで」
と、典子。
注文を終えてから彼の横顔を見ると、なかなかのイケメンだった。端正な顔に、爽やかな黒いショート・ヘアー。ボタンを外したワイシャツから、男らしい鎖骨が見えている。
「ごめんなさいね、彼、不器用なの」
お姉さんが笑う。
「あんただって、男の前では無口じゃねーか」
イケメン店員が応じる。
「いつもこんな感じなのよ」
お姉さんは苦笑気味だ。
「あの、お姉さん、名前はなんていうんですか?」
典子が尋ねる。
「山田玲子。玲子って呼んでね。で、彼が、土屋賢太郎くん」
「私は、沢田美月。彼女が、大和田典子です」
「美月ちゃんと、典子ちゃん。よろしくね」
「よろしくお願いしま〜す!」
二人はイセーの良い返事で、声を揃えた。
「その制服って、どこ校だっけ…?」
玲子は首をかしげる。
「あ、これ、実はなんちゃって制服なんです」
「あら、そうなの?よく似合ってるよ」
「ありがとうございます〜」
「てことは二人とも、高校生じゃないのかな?」
「いえ、うちの高校、服装自由なんです」
「ああー、なるほどね!」
と、その時だった。
「はい、カルピスとアイスコーヒー」
賢太郎が、つまらなそうな顔で、注文の品を二人の前に置いた。そんな顔も、様になる美男子だ。正面からモロに見た美月は、そう思いながら、カルピスに口をつける。
「あ、うま!」
そのカルピスは、美月の好みの濃さドンピシャに仕上がっていた。
飲んでいると、聞き覚えのあるフレーズが、耳に入ってきた。
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