短編ラブコメ置き場

しんいち

田中大作戦

「田中、今日学校終わったら暇だよね?」


 私は意を決して声をかけた。断られたら死ぬ。


「うーん、特に予定ないしいいよ」


 最高の返事だ、思わず気絶しそうになるが、こらえる。


「じゃ、じゃあ、帰りに下駄箱で待ち合わせしよ。今日は塾もないし、少し遊んで行こうよ」


 出来るだけ自然に言ったつもりだった。でも私の声は変に甲高かったし、絶対に不自然だったと思う。

 だって、好きな相手をデートに誘ってしまったのだ。そりゃ今までは友達として下校途中に寄り道したり、買い食いしたり、普通の女友達っぽい距離感だったと思う。でも今日の私は違う、田中を長時間拘束するために、練りに練った作戦をついに実行するのだ。


 田中は授業が終わって、友達とすこしだべって下駄箱に来た。ここまで予定通りだ。


「おまたせー」

 こっちの気も知らないで、相変わらず軽い。こいつ軽すぎる。

 しかも待ち合わせに5分も遅れた。


「じゃあ行こっか」

 平静を装い、出来るだけ笑顔で。リップさっき塗ったよね、前髪変じゃないかな、さっきスカート短くしたけど、多分右側だけ少し長いかも。うわー、こいつ、もう少し遅れて来いよ! 準備出来てない!!!


「どした? 怒ってるの?」

「全然。来るの早かったね」

「佐藤がゲームの話をし始めて、それが長くてさ。何とか振り切ったんだけど、少し遅れた。ごめん」


 あやまんなくていいよー! 急に誘ったのは私だし。

 今日じゃないとダメな日に、来てくれたからそれだけでいいんだよ。


「別にいいよ。少ししか待ってないし、友達も大事でしょ」

「まあ、あいつは夜もゲームで一緒になるし、大事っちゃ大事だけど、その話、今しなくてもいいじゃん。みたいなのはある」

「ゲームは何をやってるの?」

「ALL about Tanksって戦車のやつ。基本無料だからみんなやってる」


 貴重な情報Get! で、センシャって何だ? 戦争とか全然興味ないし……


「佐藤と毎日2時位までやってるかなぁ。寝る前に遊ぶ感じでさ」

「あのゲーム面白いって聞いたよ。なんか女子もやってる人いるみたい」


 超うそ。そんな話聞いたことないけど、話を合わせないとね。


「で、どこいくの?」

「ミオンいこ、今日はサービスデーらしいよー」

「え、サービスデーって今日だっけ?」

「そうそう、早く行こうよ。サービス品なくなっちゃう!」


 またもやうそ。いや、半分本当で半分うそ。

 田中が怪しむ前にミオンに連れ込まないと。手を引いて私は急いだ。



「で、なにこの行列」


 ミオンのフードコートにあるアイスクリーム屋が目的地だった。そしてそこには、普段は絶対に出来ない大行列。作戦通りだ。


「今日は『アイスクリームの日』でシングル百円なんだよ。これが食べたくてさー」

「だまされた。こんなに並ぶと知っていたら来なかった……」


 だから隠してたんだよ! この可愛い単細胞め、観念しろ。


「近所の女子、子供から大人まで全員並んでるぞこれ。しかも男は俺1人だし……」

「いやー、こんなに並んでいるは思わなかった。いやー、まいったねー」


 うそ。全部知ってた。


 こんなうそに意味があるなんて、私も思ってない。

 でも、私にとっては大事なことだし、年に一回の「アイスクリームの日」に百円で食べることに意味があるのだ。


「三百六十五アイスクリーム」が年に一回しか行わない、アイス百円デーに誘いたいと一ヶ月前から作戦を練った結果、まんまと引っかかった田中。そして、いまからたっぷり1時間は並んで、私と沢山の話をするの。


 私は百円のアイスを食べたいんじゃないんだよ、百円で出来るだけ長い時間を田中から買ったの。年に一度だけの、私のための大安売りサービスデー。


 さて、何から話そうかな♪



 おわり

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