心の中で叫びつづけ
―――目の前にいるのはクリーチャー、つい先日相手にしたのと同じだが、数が違う。今相手にしているのは一体何体だろうか?一体今まで何体倒してきただろうか?もう数えていない。目の前にいるのは?一、二、三…四体だ。これを倒しても終りではないだろう、では一体何時終りがくるのだ?…わからない。もしかしたら来るかも知れないし、来ないのかも知れない。
クリーチャー共が街にいるのは何故だ?何故こいつらは人を襲う?こいつらのせいで、俺は…俺は……!!!
―――恐い、恐い、恐い…逃げたいよ…恐いよ……
でも駄目、逃げ出したらいけない!恐くても、恐くても…
逃げないって決めたから、どんな状況でも、逃げないって決めたから…
足が震えてる、手が震えてる……でも、戦わないと…
自分の過去と、これからの自分と、目の前の敵と…!!
―――憂鬱だ、こいつらと戦っていると酷く憂鬱だ…
何故だろう、嫌悪しているのか?こいつらを?いや、過去の自分を…
自分を過信していた時の、一人で充分だと思っていた頃の自分を…
仲間を軽く見ていた時の自分を思い出すんだ、嫌な自分を…
憎い、こいつらが憎い、過去の自分が憎い!!こいつらを殺せば晴らせるだろうか?
そうだ、こいつらを殺せば…
ロイの目の前にクリーチャーが迫ってきていた。
今回の戦闘では同時に複数体がかかってくるケースが圧倒的に多い。この種類のクリーチャーは、生き物を殺すのを楽しんでいるようなフシがある。実際、死んでいると分かったとたん、その物体からは興味を無くして次の目標を探す為にすぐに移動を開始する。その代わり、生きているものに対する興味はものすごいものがある。単なる好奇心からなのか、どのくらいの攻撃をしたら死ぬのかを試しているように、簡単に生き物を殺す。殺しては次の獲物を探し、次の獲物を見つけては、殺す…一番性質の悪いクリーチャーだ。唯一の救いは殆ど群れで行動しないことと、単体の戦闘能力がそこまで高くないこと(それにしても人間と比べたら天と地ほどの力の差があるのだが)なのだが、今回は不思議なことに街に群れで、大きな集団で襲ってきている。そう、数え切れないくらいの大きな集団で。
クリーチャーが猛然と迫ってくる中、ロイは手にもっている戦斧を下段に構えたままで、向かってくるクリーチャーを迎え撃つ。クリーチャーと交錯した瞬間、下に構えていたはずの戦斧は右に薙ぎ払われていた、クリーチャーと交差した側に…。
ズシン
薙ぎ払われた戦斧とともにクリーチャーの体も上下に両断され、地に落ちた。しかし、ロイの右腕にもクリーチャーの一撃からなる傷を負っていた。肩当の上からざっくりとやられている。
「チッ!」
自らの右腕にも傷を受けたことを後悔する間もなく、他のクリーチャーが襲い掛かってくる、クリーチャーの数はいまだ知れない。
「クソ!まだか?」
言葉を吐き捨てると、ロイは再び構えなおしてクリーチャーと向かいあった。
カス、カス、カス……
少し気の抜けた音が続く、予備として持っていた矢をも全て打ち尽くしてしまったのだ。
「かなりあったと思ってたのに…」
そう言ってボウガンを腰に下げると、今度は手に鞭を持ち直す。
「これ、ベットの援護の時にしか使ったことないんだけど…」
不安な様子で鞭を手に構える、クリーチャーの数は一向に減った様子がない。死体の数が増えただけのような気がするほどだ。それに比べ、戦っている街の人間の数はだいぶ減っているようだ。このままではかなりまずい。一刻も早くクリーチャーを殲滅せねばならない。
でも、どうすれば自分でもクリーチャーにとどめをさせるのだろうか?自分持っている武器では、どれでも致命傷を与えるには程遠い武器ばかりだ。一番有効なボウガンは今打ち尽くしてしまった、鞭ではあのクリーチャーには傷を与えるのも難しい、ナイフは接近戦に持ち込まねばならず、接近戦の苦手なクシーにとって、あのクリーチャーとの接近戦は確実にしに繋がるだろう。
「そうだ!」
ふと閃いた様子で、慌てて腰に下げていたもう一つの武器、ナイフを手に取る。ナイフの柄に空いている穴に、手早く鞭の先を通して固く結んだ。
「これで。」
そういって再び構えると、いまだ暴れるクリーチャーに向かって鞭を振った。振るわれた鞭は、その先についているナイフごと、クリーチャーに襲い掛かった。クリーチャーが反応する間もなく、勢いづいた鞭が、その先のナイフがクリーチャーの胸に突き刺さった!まるで、そのまま時は凍ったかのようだった。
「これなら何とかやれそうね。」
クシーが呟くと、鞭を自分の手元に収めなおす。突き刺さっていたナイフが引き抜かれると、思い出したかのようにクリーチャーはその生命活動を停止した。
人とクリーチャーの混戦の中、ランスを手にしたベットはクリーチャーを物憂げそうに眺めながら戦っていた。もう延々と戦っているような気がする、何時から戦い始めたのか、どのくらいのクリーチャーを倒したのなんかとっくに忘れた。もうクリーチャーの数より、戦っている人間の数が明らかに少なくなっている。ベットも含めて二、三人か。
「クソッ、だるい。」
いくら倒しても一向に減る様子がないクリーチャーの数に嫌気が差してきたのか、悪態をつくベット。しかし、その悪態を責める人間はいない。
「がぁ!!」
クリーチャーに喰らいつかれ、共に戦っていた最後の街の人間が絶命した。
「クソッ!またか…!?」
街の人間を喰らっていたクリーチャーに対してらんすを繰り出すベット。ランスはつい先ほどまで生きていた街の人間の体ごと、クリーチャーの胸を貫いた。
「くっ…!」
ランスを引き抜くと、人間の死体ごとそのまま倒れるクリーチャー。その姿を一瞥してベットはすぐに次のクリーチャーへと目標を移す。
「俺一人でも、たとえ独りになってもこの街は俺が守る!」
目の前にいる三体のクリーチャーに向かい、ベットはランスを構えなおした。
「そう、クリーチャーを全て殺してやる!」
しかし、その目は何かを決心した目ではなく、やはり何処か悲しげであった。
ロイ、ベット、クシーが街へ行って戦闘に参加しても事態は好転した様子は一片もなかった。確実にクリーチャーの数は減ってはいるのだろうが、その数は圧倒的で、減っているように見えていないのだ。それでも時間がたち、クリーチャーの数に限りが見え始めた頃には街の人間で、戦力になる人間はもう何処にもいなかった。キーエリィウスの街に残っているのは建物の地下などに非難している非戦闘員の老人、女子供だけであった。
―――人間はいないのか?俺以外の人間は!
クリーチャーに全てやられたっていうのか?また駄目なのか、俺は守れなかったって言うのか?いや、まだいるはずだ。何処かに、何処かにいるはずだ、ここにはいないだけだ。
―――誰もいないの?私だけ?
やだ、一人にしないでよ。一人っきりなんて嫌!私は何処にいるの?ここにいるのは、本当に私?
―――俺は
守らなければならない、もう二度とあんな想いはしたくない。あんなつらい想いは。その為に、今は戦う。戦うだけだ……。
夜の闇に、街の火は殆どが消え、煙だけが立ち昇っているようだった。
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